王女と迷路

早瀬退化

王女と迷路

 ある国に、それはそれは見目麗みめうるわしい、王女様がおりました。


 王女様に謁見えっけんした者は、その容姿に魅了されるのでした。美貌の噂は、隣国の王族、名の知れた勇者にも届き、見合い話も毎日のように来るのでした。


 ある日、遠い国から遥々はるばるやって来た勇者が、王女様への謁見を希望しました。


「皆の者、聞きたまえ!私は、かの邪悪な魔族の親玉を打ち倒した勇者である!王女様にお目にかかりたい!」


 国民は、勇者の来訪を万雷ばんらいの拍手で迎え、すぐさま、王女様と勇者の見合いが催されました。


「お初に、お目にかかります。王女様。貴女あなた様の美貌の噂を聞き、せ参じました。そのお姿、是非とも拝見したく存じます」


「えぇ、お噂は予々かねがね伺っております、私がこの国の王女ですわ」


 謁見の大広間に、ひざまずく勇者。その前の白い幕から、王女様が顔を見せました。


 その刹那せつな


「王女様、どうか、私めと結婚していただきたい」


 彼女の美しさに、彼は恍惚こうこつとし頬を赤らめつつ、高らかに述べました。


「ふふふ、貴方あなたもそう申しますのね。結婚には、ある条件がありましてよ」


「条件とは何でございましょう?」


「ある迷路に、私たちは酷く困っておりますの。魔族の残党が潜んでいるらしいのです」


「魔族の討伐ですか?王女様」


「えぇ、出入り口は把握しておりますの。勇者様には是非とも迷路の攻略をお願いしますわ」


「お安い御用です。王女様。すぐにでも参ります」


「では、使いの者が案内致しますわね」


 王宮から衛兵が、勇者を迷路に案内し、彼は、迷路に入りました。



 それから後に彼は、確かに魔族の残党と戦って出口に到達したのです。出口の先で待っていた王女様は、変わらぬ若く美しき顔のその口を開きます。


「40年ですか……まぁ良いでしょう」


「では王女様、結婚を」


 彼の枯れた喉から発せられた、その求婚を聞くなり、王女様は、悪魔的とも形容できそうな笑みを浮かべて、手鏡を差し出します。


 その怪しくきらめく鏡面には、禿げかかった白髪の老人が映っていました。

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王女と迷路 早瀬退化 @hayase_taika

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