好きと言うたび、明日が減った

月神天音

第1話 彼と彼女の「好き」と「未来」

放課後、教室の窓際に座る優里は、ぼんやりと外を眺めていた。夕暮れ時の空はどこか寂しげで、空気がひんやりと肌に触れる。文化祭の準備が忙しく、みんなが活気に満ちている中で、優里だけが浮かない顔をしていた。

「優里くん、今日はなんだか元気ないみたい」

音葉が静かに声をかける。優しい声に、優里はふと顔を上げた。

「うん、ちょっとね」

優里は軽く答えたが、その言葉には真実がこもっていない。音葉の瞳が、心配そうに見守っているのを感じると、急に胸が苦しくなった。

音葉は少しの間、他の友達と話している。優里はその姿を見ながら、心の中で何かが引っかかるのを感じた。

音葉はおっとりとした性格で、いつもみんなを優しく包み込んでくれる。これまでもただの友達だと思っていたけれど、今は何かが違う気がしてきた。

その時、琥珀が元気よく教室に飛び込んできた。

「おいおい、元気ないなら俺のエネルギーを分けてやるぞ!」

琥珀はにっこり笑いながら、机に積まれたプリントを整理し始める。

優里は笑顔を作りながら答える。

「元気ないってほどじゃないけど、なんか色々考え事があって」

琥珀が興味津々に尋ねる。

「ふーん、考え事か。悩んでることでもあるのか?」

優里は黙り込み、音葉の言葉が頭をよぎる。そこに音葉が戻ってきた。彼女は少し赤らめ、恥ずかしそうに言った。

「優里くん、昨日のことだけど……」

優里は驚いて顔を上げた。

「昨日のこと?」

音葉は視線をそらしながら続ける。

「私……優里くんのことが気になるかもしれないって、思ったんです。でも、それがどうしても怖くて……どうしたらいいのか分からなくて」

優里はしばらくその言葉を呑み込めなかった。音葉が自分に対してそんな風に思っているなんて、全く気づいていなかった。

「音葉、まさか……」

音葉はうつむきながら、心の中で思いを整理しているようだった。

「私がどうしていいか分からないだけで、優里くんがどう思ってるのか、それだけ知りたくて……でも、もし、優里くんがそうじゃないなら、どうしたらいいのか分からなくて……」

その言葉を聞いた瞬間、優里の胸が苦しくなった。音葉に対して感じていた思いが、今まで以上に強くなった。だが、その思いと同時に、どう向き合えばいいのかが分からなかった。

その時、琥珀がニヤリと笑いながら言った。

「おっと、音葉、いきなり告白かよ。優里、お前、頑張れよ!」

優里は少し照れくさい笑顔を浮かべ、音葉を見つめる。

「音葉、俺も……ちょっとはお前のことを考えてるよ。でも、今は……」

音葉は顔を赤らめて小さく頷いた。

「分かってる。焦らなくていいって思ってる。でも、どうしても気になって」

その言葉に、優里はますます悩んだ。音葉の気持ちをどう受け止めるべきか、全く分からなかった。

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好きと言うたび、明日が減った 月神天音 @Yukizora

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