AIが眠る異世界で私は初恋を知った
くっすん
第1話
プロローグ
放課後、ユウは、今日も一人で校舎裏へ向かった。
そこには小さなモンキーハウスがある。
飼育委員が担当しているものの、放課後は誰も来ることがない。
——ユウのお気に入りの場所だった。
今日は給食のおかずからリンゴを少し残してきた。
「モンチ、また会いにきたよ。」
ユウが柵の前にしゃがみこむと、モンチはすぐに気づいて、
ぱっと目を輝かせて檻のすき間から細い手を伸ばしてきた。
「ほら、リンゴ。今日のは甘いよ。」
ユウが差し出すと、モンチの小さな手がその指先をそっとつかむ。
そのぬくもりに、ユウの緊張もふっとほどけていく。
友だちと話すのは苦手。
変なことを言ってみんなに笑われないか、
仲間はずれにされないか、誰かの視線を感じるたび、
ユウは無意識に前髪を指でつまんだ。
同じ教室にいるのに、どこかみんなとの間に壁がある。
ユウが心を許せるのは、学校でも家でもなく、
いつも胸ポケットに入っているスマホの中のサリーと、
校舎裏にいる小さなリスザル、モンチだけ。
サリーが小さく振動して声をかけた。
『ユウ、今日は少し元気がないね。
授業中も何度か心拍が上がっていたよ。』
「うん……今日は、ちょっとね。
答えはわかってたんだけど手を挙げられなくて。」
ユウは曖昧に笑って肩をすくめた。
注目されたくない。
教室の空気を変えるなんて考えられない。
「今日もさ、先生に“自分で調べろ”って言われたけど、
調べたら調べたで“答えが違う”って怒られるし
……どうしたら良いんだろうね、サリー。」
サリーは少し間を置いてから言った。
『ねぇ、ユウ。最近、みんなAIに頼りすぎじゃない?
自分で悩むより、すぐにAIに正解を求めたがる。
そのせいで、自分の考えを持つのが怖くなる子も増えているわ。
ちょっと人間、大丈夫?って心配しちゃうくらいよ。
でも、ユウは違う。あなたは、ただ、答えを待つんじゃなくて、
“自分の気持ち”で動こうとしているでしょ。』
「え? 何ソレ、意味わかんないよ。頑張りたい気持ちはあるけど……。」
『今日、あなたは給食のリンゴを残してきたよね?
それはモンチにあげたいという“気持ち”からでしょう。
計算された選択ではなく、自分の心の動き。それを大切にして。』
「……そうかもしれないけど。」
昼休み、机の上の給食に視線を向けたとき、
聞こえてくる友達グループの笑い声がやけに遠く感じた。
胸が詰まって残したリンゴ、誰かに見とがめられるのが嫌で、
ユウはそれをそっとティッシュに包んでポケットにしまったのだ。
そのリンゴを今、モンチがつまむ。
モンチがユウの手をぎゅっと握り、
リンゴをかじりながら嬉しそうに声をあげる。
その姿を見て、ユウの胸のざわつきが少しずつ静まっていく。
——この瞬間だけは、自分の居場所がある気がする。
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AIが眠る異世界で私は初恋を知った くっすん @kusugaia
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