結婚相談所に行ったら、元カノが婚活コンサルタントだった!
震電みひろ
第1話 母親が勝手に申し込んだ結婚相談所に元カノが!
それは長いGW休暇を利用して実家に帰省した時だった。
「近所の町田さんところの義彦くん、覚えている?」
朝食の場で、母親が突然言い出して来た。
「ああ、覚えているよ。小中一緒だったから」
「町田さんとはアートフラワーの教室で一緒なのよ。それでよく話をするんだけどね」
「ふ~ん」
俺は気の無い返事をする。
なんとなく、この後の会話が予想できたからだ。
「それで義彦くん。こんど結婚するんだって。相手は一歳下の同じ会社の娘だそうよ」
「そうなんだ」
俺はあくまで無関心な返事を返す。
そんな俺の態度に母親は焦れたらしい。
「
「いないよ」
やっぱりそう来たか。
俺は内心でそう思いながら、端的に答えた。
それに対し母親は大仰なタメ息をつく。
「アンタももう31歳なんだから、イイ人の一人くらい居てもいいんじゃないの?」
いないものは仕方がないだろうが。
そもそもイイ人が二人も三人もいたら、ソッチの方が問題だと思うが?
「最近の若い人は30歳くらいまでは結婚を考えないって言うから、お母さんも今まで黙ってたけど……でもお母さんの回りでは、開治と同じくらいの歳の男の子はみんな結婚してるわよ」
いや、母さん、今まで黙ってなかったよ。
25歳くらいから毎回顔を合わせる度に言ってると思うけど。
俺はチラっと父親の方を見た。
父親は「我関せず」と言った様子で鮭の切り身を箸で崩していた。
母親がさらに続ける。
「若い内は独り身でもいいだろうけど、歳を取ってから一人だと寂しいわよ。身体だって弱って来るんだし。身の回りの世話を見てくれる人は必要なのよ」
先生、その認識は間違っていると思いま~す!
最近は熟年離婚も多い。
長年、家族のために働いてやっと解放された時、奥さんに「離婚します。権利として退職金と財産の半分は貰います」と言われるパターンだって十分にありうる。
会社でも家族がいる人は年中「金がない」とこぼしている。
中には副業でやっと小遣いを捻出している人だっているのだ。
それに対し、同じ年齢で独身の人はそれなりに人生を楽しみながらも、投資などで資産を増やしている。
リスクとコスパから考えれば、結婚しない方がいいのは明白だ。
もっともこんな事、母親に言った所でどうにもならない。
俺は黙って朝食の最後に残しておいた味噌汁を飲み干した。
「ごちそうさま」を言って、この場から立ち去るつもりだ。
だが母親のあまり意外な言葉に、俺はそのタイミングを失った。
「それでね、お母さん、開治のために結婚相談所に申し込んであげたの」
「ハッ?」
結婚相談所だって?
思わず聞き返す。
「なんでそんな勝手な事を!」
思わず不満の声が漏れる。
だがそれは母親のカンに障ったらしい。
「なに言ってんの! アンタに任せておいたら、いつまで経っても動こうとしないじゃない。そんな事じゃ結婚なんてできやしないわよ。男だってね、30代後半になると結婚しにくくなるんだから! いつまでも若いつもりじゃダメなのよ!」
母親は甲高い声でそう言うと、立ち上がって自分の食器を取りまとめる。
「ともかく結婚相談所には申し込んだから。アンタ、今日は何も予定ないって言っていたわよね? お昼に予約してあるから行って来るのよ、いいわね!」
完全に命令口調、決めつけモードでそう言い放つと、母親はそれ以上の会話を打ち切るようにキッチンに向かった。
呆気に取られている俺に、父親が申し訳なさそうに声を掛ける。
「お母さんも心配しているんだよ。開治にも事情や言いたい事もありだろうけど、ここはお母さんの顔を立てて結婚相談所に行ってくれ。でないとまた不機嫌になるからさ」
なんかその『父親の母親を気遣った下手に出た態度』だけで、結婚する気が失せるんだが……。
だがこの家で一番発言力があるのは母親だ。
「わかった。行くだけ行って来るよ」
俺はそう答えるしかなかった。
その日の午後、俺は結婚相談所に向かった。
既に入会金も支払い済みという事もあって、ここでドタキャンする訳にはいかなかったのだ。
どこにでもありそうな中堅オフィスビルの三階に、その結婚相談所はあった。
「マリッジ・マネジメント・クラブ(MMC)」と入口に書かれている。
俺がドアを開くと、ドア正面にはカウンターがあり、そこに受付嬢がいた。
ネームプレートには『佐久間』と書かれている。
肩までの髪にふんわりとパーマを掛けた、可愛らしい感じの女性だ。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用でしょうか?」
受付嬢がそう声をかけてくれる。
「あ、今日の午後1時半に面談のお約束をしている
すると受付嬢はデスク上のパソコンを操作すると
「葛原様でいらっしゃいますね。伺っております。今日は初回となりますので、まずは所長の方から当相談所についてのご説明をさせて頂きます。その後で担当アドバイザーのご紹介となります。お時間は二時間ほどかかりますが、よろしいでしょうか?」
そのくらいかかるとは、既に母親から聞いて知っているので「はい、いいです」と答えた。
「それではこちらへどうぞ」
俺は受付嬢に案内されるままに「第一面談室」と書かれた部屋に入った。
部屋はそれほど大きくない。
小さなデスクに向かい合うように椅子が二脚置かれている。
そして向こう側には50歳前後と思われる化粧の濃い痩せた女性が座っていた。
「こんにちは~、初めまして~。ワタクシが当結婚相談所の所長、栗山良子と申します。よろしくお願いしますわね、オホホホホ」
なんだかクセの強そうなオバサンだな、と思いつつ俺の方も「こちらこそよろしくお願いします」と軽く頭を下げる。
「まあまあ、固くならずにそこにお座りになって。オホホホホ」
言われるがままに、所長と対面のイスに座る。
さっそく所長は机の上にあるノートパソコンを広げて話し始めた。
「当結婚相談所では~、まず入会金15万円をお支払い頂いて~、それと月会費が1万円、成婚料が20万円となっているんですのよ。オホホホホ」
ゲッ、けっこう高いな。
入会金は既に母親が払っているらしいが、これから毎月1万円は俺が払うんだろうな、きっと。
「それ以外にもお見合いサポート料金は半日5千円、会員限定パーティに参加の場合は5千円、婚活コンサルタントとのカウンセリング料は一回一時間で五千円となっているんですの。オホホホホ」
入会金と月会費、成婚料以外に、さらにそんなオプションでも金を取るのか?
どんだけガメツイんだよ。
「け、けっこうかかるんですね。それだと入会から結婚するまで、どれくらい費用はかかるものなんですか?」
あんまり高かったら、傷が広がらない内に辞めようと思って質問した。
「それはね~、人に寄りますのよ。入会されてすぐにご成婚となる場合もあれば、一年以上決まらない方もいらっしゃるので。あ、でも一年以上決まらないなんて方は50歳くらいのオジサンで20台の女の子と結婚したいなんていう身の程知らずの人ですから。葛原さんみたいな若い方は気になさらなくて大丈夫ですよ。オホホホホ」
本当にクセが強いな、この人。それになんか胡散臭い。
「まあ一番多いのは70万円から100万円と言ったところでしょうか。でもそれって本当にお客様によるので。オホホホホ」
俺の不安気な顔に気づいたのだろうか。
所長はすかさず次の台詞を付け加えた。
「でもご安心してくださいな。葛原さんの場合は既に月4回の婚活コンサルタント付きの半年コースが支払済ですので」
え、半年分のコースが支払済?
「お申込みいただいたのは葛原さんのお母様でいらっしゃるのよね~。お母様、とても葛原さんの結婚に熱心でいらしたみたいで~『ここで一番優秀な婚活コンサルタントを付けて下さい』とおっしゃられて。オホホホホ」
「はぁ、そうなんですか?」
母親とクセ強所長に絡め捕られた感じの俺は、もうそう言うしかなかった。
所長は机の隅に立てられた電話を取ると「泉さんを呼んで」とだけ言った。
電話を切ると所長はまた営業用らしいスマイルを浮かべる。
「いま担当する婚活コンサルタントをご紹介しますね。ご安心下さい。彼女は当相談所で成婚率95%、昨年の成婚件数は104件を誇るピカイチ優秀なアドバイザーですから。もう葛原さんのご結婚は決まったようなものですのよ。オホホホホ」
いや、別に俺はそんなに結婚したい訳じゃないんだが……勝手に結婚を決められても困る。
だが俺に何かを言わせる間もなく、所長のマシンガン・トークは続く。
俺はそれを右から左に流しながら「詐欺ってこういう形でハメられるんだろうな」と思っていた。
やがて背後のドアが開く音がした。
何となく振り返って、俺は目を見開いた。
きっと口も馬鹿みたいにポカンと開いていただろう。
あまりに想定外の人物がそこに立っていたからだ。
「紹介しますね。彼女が葛原さんの担当になる婚活コンサルタントの、
そこに立っていたボブカットの女性は、俺が五年前に別れた元カノだった。
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結婚相談所に行ったら、元カノが婚活コンサルタントだった! 震電みひろ @shinden_novel
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