後編 【クリスマス】
そんな冬の寒さと一緒に俺の小学生の頃の記憶は存在していた。
その中に冷たさしかないかと言われれば嘘になる。なにより、人の温もりがあった。
シスターのお姉さんとはその後時々あの教会で話しては抱き締められて。温もりを与え与えられ心地良さに溺れて深く深く眠りについて頭を撫でられて。ある程度大人に近付いたから言えることだけど。当日の俺、めちゃんこかわいがられてたなって思う。
だから、この寒いクリスマスの夜にはいつも、人肌が恋しくなる。
彼女だって出来たさ。一度だけな。その時は相手が地雷すぎて別れを切り出して今はフリー。
でも、彼女ができたとしても俺の頭の中にはいつもあの記憶が思い出として残っていた。
だからなのか、いつも俺はここに来てしまうんだろう。
この周りに雑草を生やし、あの頃の神秘性を失った教会に。
中に入らなくともこの教会を見れば中の様子も見えてくる。埃が待って蜘蛛が巣を作り不良たちのたまり場、または心霊スポットとして地元の人から怖がられているのかもしれない。
「ここに来るのも久しぶりだな……」
目の前にあるのは西洋人のように彫りが深く一番上に十字架が置かれた教会が建っていた。
予想の通り。やっぱり所々汚れが見受けられ窓も汚れていて中が見えないがきっと、この有様だ。中身も相当酷いに違いない。
俺の思い出はそうやって時代と共に風化していく。
そういや、最後にシスターのお姉さんとあったのはいつだっただろう。
あんまり憶えていない。多分、あの一年の間だけだった気がする。
もうずっとあの唄声が聞こえないんだ。
何度ここに来てもやっぱり唄声は聞こえなくても、どけだけ来ようとももう二度とあの温もりは聞こえなくて、どれだけ来ようとあの唄声を聞いた時に感じる胸の暖かみと嬉しさはないんだ。
それはまるで王子様と結ばれることが出来なかった人魚姫かのように……。
悲しくないと言われれば悲しい。それでも、時間が穴を埋めて溶けてまた埋めていく。
その穴が顔を出す時は大抵今のように教会に顔を出した時──。
「ふう……ま、こんぐらいしとけばまあいいかな」
まずは外観。俺の手が届く範囲でこの教会を綺麗にする。
「見ない間に随分とラクガキを受けたな……まったく」
なんて書いてあるのかも分からないほど拙いスプレーで書かれた英語。
それも今じゃそこだけ周りよりも明るく白くなっている。綺麗にした証。
さて次は教会内の掃除をしようと思い扉を手をかけた瞬間。
「むかし……ここで小さい子とよく一緒にいたんだ」
後ろから女の人の声が聞こえて咄嗟に振り返る。
なぜって、そりゃ──
「初めてあの子と会った時私のことを見てすごくビクビクしててかわいかったんなあ……」
聞き覚えがあったから。昔とは容姿も服装も違うけど、その優しくて柔らかくて冬の湯たんぽみたいに暖かい声色は昔と変わらなく存在していた。
四年間。俺はずっと──
「えっと……名前もなにもかもお互い知らないけどさ。私の目が間違いじゃなければ」
クリーム色のコートに赤いマフラー。ふんわりとアレンジの施された黒髪はあの頃には見られなかった新たな一面を感じられた。
「ハビット……じゃなくていいんですか?」
冬の太陽みたいな笑顔を見せる彼女におかしくも俺も自然に笑みが溢れてしまった。
「こんな季節にそれは寒いよ〜。シスターの服を知ってるってことは君があの子でいいんだね」
その言葉に俺は「はい」その一言だけで返事をする。それ以上は多分いらないから。
「そっか、丁度人肌が恋しかったんだ。この後予定って空いてる?」
「いいですよ。丁度俺も恋しかったので」
多分、もう二度とその唄声が泡になって消える事は無いんだろうと胸の温かみが顔を暖めながらそう思った。
聖なる夜に一日の記憶を。 常磐 優希 @unii21
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます