聖なる夜に一日の記憶を。
常磐 優希
前編 【イヴ】
寒い雪が降り頻る季節。辺りはイルミネーションや小人の置物で飾り付けされていて、小さい子はおもちゃ売り場で何が欲しいかをサンタさん。もとい親に伝え。学生さんはパートナーと手を繋ぎ、中には一つのマフラーを二人で使う人もいた。
そう、今はクリスマス。
西洋の文化が日本を彩り、凍えた季節を温もりに包み込んでくれる二日間の行事。
イルミネーションで彩られそのてっぺんには一等星にも負けず劣らずの一番星が佇んでいるクリスマスツリーを眺め一人思い耽る者が一人。俺である。
「なつかしいなぁ……」
出される息は白く視覚化され世界に消えていく。吐いた息も雪の様にいつかは消えてしまう。それがなんともポエム的で文学的で俺は好きだ。
「寒くなるうちにさっさと行くか」
クリスマスツリーをスマホのフォトに収め俺は一人この明るい空間から離れていく。
俺が今、どこに向かおうとしているのか。それは家族にも秘密にしていることだから今話すことは出来ない。ただまあ、そこに向かおうとしている理由。だけは思い出形式で出来るかもしれない。
ま。そんなことをすればどこに向かおうとしているのかなんて一目瞭然だけどもな。
古い記憶。丁度今俺の目の前に映る街灯が灯されている道よりももっと暗い道。
辺りはなにも見えないってぐらい暗くてでも、そこに佇む周りとは一線を画す風貌の施設がある。
住宅地に佇むのは西洋の建て方をされ、白くそれでいて彫りが深くそれでいて古代彫刻の様な神秘性を醸し出し、そのアクセントに様々な色のステンドグラスで飾られクリスマスツリーの様に頂上には十字架が置かれている。
そう、教会である。
今も明かりを灯さない教会にはきっともう誰もいなくてこの扉を開けたとしてもあのキレイな歌声は聞こえては来ないんだと思う。それでも、教会に行かない限り歌声が聞こえないとは限らない。
だから、そう。これは俺がまだ子供で卒業するということをしっかりと理解していなかった頃のお話だ。
学校の帰り道によく使う道には教会がある。
誰もいないのかいつも静かで、なのになぜか周りはゴミが落ちてる訳じゃなく綺麗で。普通、廃墟とか人がいない所はゴミが落ちてたり落書きされてたりするのにと考えながらいつもその道を使っていた。
その日もぼくは学校近くに住んでいる友達の家でクリスマスパーティが行われた帰り道。ぼくは教会を通る道を使っていると微かに歌い声が聞こえた。
それはまるで人魚姫の様な綺麗な唄声で、この声の主は誰なのかと雪で動きづらいなか走り唄の方へ向かって走っていった。
唄声が近づいていくとそれがどこから聞こえてきたのかが分かってきた。
そう、教会の中からその唄声は聞こえてきたのだ。
「はしれそりよ〜、かぜのように──」
ジングルベルだ。
クリスマスの中教会から聞こえるその雪にも負けず劣らずの細く繊細な唄声を教会の扉の前で耳を当てて聞く。
本当に人魚姫の様に綺麗で消えてしまいそうな程繊細で美しい唄声はぼくの耳を独占して、そして今度は唄声を耳だけじゃなくて目でもみたいと思うようになった。
扉に手を掛け、その唄声が途切れないようにと。ゆっくり音を鳴らさずに扉を開く。その行為はまるで、女子がお風呂に入っていてそれを覗くことに近くて緊張で唄よりも鼓動が耳を支配していた。
でも、その先にはその綺麗な唄を歌う文字通りお姫様がいると信じて扉を開けた。
教会内は薄暗くて。でも、埃っぽいとは感じなかった。
真ん中に赤いカーペットが敷かれて左右には均等に木製の長いすが置かれていて、そこに唄声の主がいた。
よく見えないけれどもなにか布の様なもので頭部を覆われて肩や首周りには白い布があり、後ろ姿を見てそれがシスターであることは一目瞭然だった。
「ジングルベル〜、ジングルベル〜鈴が……さっきからこそこそ何を見てるのかなあ?」
唄うことを止めてシスターは振り返りぼくの事を見る。
「あっ……、その……ごめんなさい……」
中学生ぐらい、なのだろうか。柔らかく優しい声から発せられた言葉にぼくは緊張で謝ることしか出来なかった。
「ふふっ、いいのよ。べつに……外は寒いよね入っておいで」
言われるがままにぼくは教会内に入る。外よりかは寒くはないけど暖房も付いていないからやっぱりまだ寒い。
「ほら、ここ座って」
手でぽんぽんとシスターは自分の隣の空いたスペースを叩いた。
「くっついたら、暖かいもんね」
シスターさんはぼくのことをそっと懐の傍に密着させる。正直恥ずかしさが一番に勝つ。それと同時にこんな薄い布でよくもまあこんな寒い日に入れたなと感心してしまった。
「緊張してる?」
「え……あ、はい……」
「かわいいね、君ぐらいの弟がいるんだけども君みたいにかわいくないよ〜」
これがお姉ちゃんというものの魅力なのかな。よくお兄ちゃんが友達と電話でよく歳上の彼女が欲しいって言ってて、自分には彼女とか付き合うってのはよく分からないけどもお兄ちゃんぐらいの歳にはそういうのが気になり始めるのかなって感じてる。
「はしれそりよ〜 かぜのように〜」
シスターのお姉ちゃんはまたジングルベルを唄い始める。
近くで聴けるその唄声は多分今だけはぼくに向けて歌ってくれてるんだと思うとなんかだ心がじんわりと暖かくなり、多分きっとぼくの心に深く深く刻まれていくんだと目を瞑りながら静かにこのシスターのお姉ちゃんの唄声を聴いた。
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