アイツ

「なぁおい、アイツは死んだのかって。そう聞いてるんだ。」

「だから、さっきもそう言っただろう?」

「そうか、寂しくなるな…」

「そうだね、父さん。」


夜も更けて、自らの手が冷たく冷えているのを感じる。

父さんは、お猪口に注いだ日本酒を一気に喉へと流し込んだ。


「ちっと腹減ったな、ツマミでも作るか。お前もいるか?」

「うん、少し。」


父さんは、少し何かを考えたような顔をした後、ゆっくりと立ち上がり、台所へ向かった。


「アイツは死んだのか…」

「…うん。」

「そうか…寂しくなるなぁ……」

「そうだね」


カチッ、ボッ

ガスコンロが点火する音が心なしか少し響いているように聞こえる。


父さんは終始無言で、壁にかかった時計は、いつも以上にゆっくりと進んだ。


「ほら」

父さんは机に皿を少し雑に置いた。

家にあった細切れ肉を軽く醤油などで味付けして焼いたのだろう。食欲を唆る香りが漂う。


父さんは再び日本酒をお猪口に注ぎ、一気に飲み干した。


「なぁ、アイツは死んだのか?」

「そうだよ、…寂しくなるね」

「……そうだな。」


父さんは「ふううっ」と強く息を吐き、目を閉じ、眉を顰めた。


終。

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