アジ釣りの日常

槇本大将

第1話

地球が動く音が聴こえる。


鉄と鉄とがぶつかり合うかん高い音だ。

そのほかにも、どこか遠くで鳴っている、ボーっという低音。

打ち寄せる波の音。

風が吹くと、風も音を運んできた。

耳を撫でてゆくやわらかい音色だ。


思うに、太陽の光にも音がある。

生暖かく風を生み出す音。

自然の音はやわらかく、少し小さい。

人工の音は、かん高くて、大きく耳に届くようだ。


小さな舟が海に出る。

港で守られていた小さな舟だ。

はじめて海に向かう舟だ。

不安と怖さでいっぱいの舟は、港から出てゆく。


海原には、他にも船がたくさんあって小さな舟を待っている。

小さな舟は海を行く。

波を切り裂き海を行く。

灯台に別れを告げて、港からゆっくり出ていく。


プラントの横の海には、世界中から船がやってきて世界中に向けて出ていく。


港から出てゆく船を見ながら、釣り人は釣竿をふるって仕掛けを飛ばす。

釣り人の投げた仕掛けが着水した所のずっと向こうには、モーターボートが水をきってすすんでいる。

ボートの通ったあとには白い泡(あぶく)が、飛行機雲のようにボートをおいかけて、たゆたう。


アナタに向けた言葉は、モーターボートの行く音、波の音、海のたてる様々な音に隠されてかすれて消えた。


この声は小さくてアナタにはきっと届いていないと思う。

もう一度アナタに届けと思い、喉に力を入れて唇を小さく開くが、その途中で、結局アキラメて、また、じっと海を見つめる。


灯台の岬の先から、海を越え空へと向かうカモメが、一羽飛んでゆくのが見えた。釣り人は大きな獲物が釣れたのか、勢いよくリールを巻いて、釣り糸を巻き取っている。

釣竿が大きくしなり、釣り人は何か大きな声で、となりに話しかける。


タンカーがゆくときに裂いた波の先が、海面を上下させる。


少ししてからその波がこちらに届いた。


アナタはベンチの横に座りじっと海を見つめている。


ふいに、ボクの肩に、アナタのアタマが、コツンとぶつかる。

いたずらっぽいシャンプーの匂いがした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アジ釣りの日常 槇本大将 @makimotodaisuke

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

同じコレクションの次の小説