旅立ちの夜

江方真名斗

旅立ちの夜

これは、とある男の物語。



男はそこら辺にいるような平凡な人間だった。

それなりの中学校と高校を卒業し、それなりの大学に通い、それなりの企業に入社。それなりの稼ぎを得て、それなりの女性と結婚し、数年後には2人の子供も得て、それなりに幸せな日々を過ごしていた。


しかし、そんな男の生活は一瞬で崩れた。


とある日の夜、男は会社に忘れ物をしたことに気付き、引き返した。会社に到着した男は運悪く、後輩が会社の金を横領している瞬間に遭遇してしまった。

そして彼は、職や財産を失い、家族とも離れ離れになってしまった。その上、その後輩の虚偽の証言によって自分が犯人に仕立て上げられてしまった。

その結果、自分は何も悪くないのに世間から責められ、挙げ句の果てには家族にも危害が加えられるようになってしまった。


そんな状態になっても、男は自分の無罪を証明するのを諦めなかった。

真実を伝えることができればみんなわかってくれる。そう信じ続けた。


そう思い、真実を伝え始めて一ヶ月が経った。

しかし、いくら真実を伝えようとも、誰ひとりとして彼のような存在を理解することができない。

「自分は犯人ではない、犯人はあいつだ」

男はそう真実を訴え続けた。しかし周りの人間は彼のことがわからない。それは自分を愛してくれた家族や信頼してくれた上司でさえも。


それでも男は、いつか全て報われる日がやってくると信じ、諦めなかった。


しかしその二ヶ月後、男の心にとどめを刺す事件が起きた。

あろうことか犯人である後輩が、男が積み上げてきたものを全て奪ったのだ。会社での功績や職、そして、家族を。

それを知った男は激怒した。

そこで男は大勢の人がいる広場で真実を叫んだ。しかし、男の魂を込めた叫びも誰にも理解してもらえなかった。

そこで男は悟った。「俺みたいな存在の言うことは誰にもわかってもらえないのだ」と。


その後、冷静になった男は真実を伝えながら、自分を理解してくれる人を探す旅に出ることにした。


そうして男は、今でもどこかで真実を叫び続けている。





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旅立ちの夜 江方真名斗 @Egata_Manato

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