世界一の御曹司な僕、意中の彼を落とすために乙女ゲーを作ったら、なぜか悪役令嬢が現実世界に転移してきて同居することになった件。

久澄ゆう

第1話 世界一の御曹司、乙女ゲーを作る

 僕の名前は鳳城隼人ほうじょうはやと

 超が10個は付く金持ちだ。


 運動神経抜群、容姿端麗、そして超天才的な経営センス。

 誰もが憧れるスーパーダーリンとは、他ならぬこの僕のこと。


 ……自分で言っててちょっとはずかしい? いやいや、事実だから仕方ない。


 世間は、クリスマスイブの真っ最中。

 そんな特別な夜。


 僕はいま、ワンルームの一角――テレビの前に置かれた小さなローテーブルの前に座っていた。


 大好きなこの子と、並んで座っている。


 向かいじゃない。並びだ。

 肩が触れそうで触れない、あの距離。


 ああ、なんて最高のクリスマスなんだろう。

 恋人たちが愛を語らう聖なる夜に、密室で二人きり。

 これはもう、実質デートと言っても過言ではない。


 目の前の液晶テレビ。

 その画面に映っているのは、クリスマスの特番とはまったく関係のない、きらきらした世界。

 そこに踊るタイトルは――


『王子様、正気ですか?』


 大人気乙女ゲーム『リュミエール魔法王国の恋便り』の制作会社、

煌星きらぼしコンテンツラボ』をまるっと買収して、この子の大好きな声優陣と推し絵師と、ついでにお気に入りのシナリオライターまで札束でかき集めて作らせたフルオーダーゲーム。


 それがこの『王子様、正気ですか?』だ。

 もちろん、ハードは最新機種。開発中のROMを特別にインストールして持ってきた。


 うん、我ながら金の使い方がおかしいのはわかってる。


 思えば、ここまで来るのは長かった。

 買収して、企画して、口出して、口出して、口出して、確認して――全部やった。僕が。

 この子のために、僕が指揮して、完璧に仕上げた。


 だが、そんな苦労も――


 このひと時のためなら、安いものだ。


 今、僕の横で、僕の好きな子がそのゲームをプレイしている。

 コントローラーを握りしめ、画面を見つめる横顔は真剣そのもの。


 ああ、こんな幸せな時間が他にあるだろうか。


 ……うん。ないね。断言できる。


 ……と言いたいところだけど。


 さっきからこの子、笑ってない気がするんだよな。

 眉間にちょっとしわ寄ってるし、イベント前になると毎回一時停止するし、ボタンを押す指もやけに重そうだ。


 画面だけ見てたら盛り上がってるクライマックスなんだけど、

 僕の横は、なんかこう……テンションが低い気がするんだよね。


 ……え? もしかして、あんまり刺さってない?


 ……いやいや、そんなはずは。

 だって推し声優フルコンプなんだよ? 推し絵師まで揃えたんだよ? 楽しくないわけ――


 ……喜んでる、よな?


 ……よな??


「ど、どうだい? たのしいかい?」


 そっとたずねてみる僕。


「……うーん……」


 返ってきたのは、めちゃくちゃ微妙な声だった。


 あ、これ、だめっぽいな。


「あああ! このゲーム、選択肢むずかしすぎじゃない??」

「なんで悪役令嬢の思考が一番まともなの? 選択肢難しすぎるよ!!」

「それに、このヒロイン。さすがに性格悪すぎない??」


 コントローラーを握ったまま、隣のこの子は、画面に向かって容赦なくダメ出しをたたき込んでいる。


 まぁ、仕方ないさ。

 だってこのゲームは、僕が思う「女の面倒な部分」を全面的に前に出したゲームなのだから。

 ただ、ちょっとやり過ぎちゃって、こんな人、現実で見たことないけどね。


 なぜそんなクソゲーを開発させたかって?

 そんなの決まってるじゃないか。


 僕の好きな子に、女への興味を無くさせて、僕に振り向いてもらうためなんだから!!


 そう、何を隠そうこの僕――鳳城隼人ほうじょうはやとの意中の子は、佐藤悠真さとうゆうまきゅん☆

 かわいいかわいい、男の子なんだ♡


 べつに完全に男しかダメってわけでもない。

 ただ、今この瞬間、恋している相手が男の子なだけ。


 もちろん、悠真には僕の気持ちは内緒だ。

 彼は”まだ”ストレートだからね。


 このゲームをクリアする頃には、一人前の女性不信が仕上がって、

 その心のスキマに、僕の魅力がするっと入り込む予定だ。


 計画は完璧。

 あとは、実行あるのみ。





――――――――――――――――


初めまして、久澄くずみゆうと申します。

本作が初投稿作品になります。見つけていただきありがとうございます!


隼人の愛が重すぎて、初っ端から方向音痴なスタートを切りました。

ここからさらにドタバタな展開が始まります。


もし「続きが気になる!」「隼人バカだなあ」と思っていただけたら、

ぜひブックマークと【★評価】で応援していただけると、飛び上がって喜びます!


次回、「悪役令嬢の異世界追放」。 お楽しみに!

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