22:00頃

「1階の探索が終わりました。

このまま2階に上がります」

【視聴中：124人】

『人増えてるぞ！！』

『1階の時より倍以上だ！！』

『この地味なチャンネルがバズり始めてる？』

「1階は特に問題ありませんでした。

2階は病棟エリアです」

（階段を上がる。足音が反響する）

『床の反響音が不気味だな……』

『雰囲気ヤバい！怖』

『期待してるぜ！！』

「ナースステーション跡ですね。

カルテ棚が残ってます」

（棚を開けると、黒く塗りつぶされたカルテの束）

「……患者名が、全部消されてる」

『軍事機密？』

『戦時中のやつか？』

『患者名って……戦時中でも、消す必要あったのか？』

『のり弁かよw』

「戦時中、この病院は軍の指定病院でした。

記録の一部を秘匿するのは、当時としては普通です」

『なるほど』

『歴史的に貴重では？』

『これ論文書けるやつ！』

（205号室の前で足を止める）

霧切は、ドアノブを回すが、ドアが開く様子がない。

「……このドア、開きませんね」

『力ずくでいけ！！』

『壊れてるだけだろ！』

『怖い怖い……ヤバい部屋なんじゃね？』

（肩で押すと、急にすんなり開く）

『今の何？』

『急に開いた？』

『不自然すぎる……』

『何か引っかかってただけだろw』

（室内。ベッドが一台、妙に綺麗に残っている）

「この部屋だけ、埃が少ない……」

『ヤバい！！人怖か？』

『誰か使ってる？』

『ホームレスがいるのか？』

（205号室のベッド脇、小さな引き出しを開ける）

「……ノートが入ってます」

『日記？』

『読んで読んで』

『プライバシーは？』

『名前は読まない方がいいぜ』

「表紙に『記録』とだけ書いてあります。

歴史資料として、一部読みます」

（ページを開く。手書きの文字）

「『昭和19年8月12日。

今日も熱が下がらない。

看護婦さんは優しいが、先生は来ない。

いつ帰れるのだろう』」

『普通の日記だな』

『戦時中の療養者か？』

『切ない……』

「『8月20日。

隣のベッドの人が、夜中に連れて行かれた。

どこへ行ったのか、誰も教えてくれない』」

『連れて行かれた？夜中に？！』

『教えてくれないってのが怪しいな！！』

『不穏すぎる！！』

「『9月3日。

体が動かない。

毎日、注射を打たれる。

何の注射かは分からない』」

（霧切、読むのを一瞬ためらう）

『読んでみて！』

『続きあるの？』

『気になるな』

「『9月15日。

もう、字が書けない。

手が、震える。

ここは、病院なのだろうか――』」

（ページが途切れる）

【視聴中 : 267人】

『終わり？』

『その後は？』

『怖すぎる』

――ガタン。

『何の音だ！？』

『音！何か倒れた？』

『今の何？？』

（霧切、振り返る。廊下の奥、何かが倒れた音）

『後ろ後ろ後ろ！！！』

『見に行くの？』

『やめとけ！！人がいるんじゃね？』

『バズってるから来たwww』

『これマジ？』

『演出じゃないの？』

『ガチなら怖い……』

『裏取れる？』

「……確認します」

（廊下を進む。カメラが揺れる）

「点滴スタンドが、倒れてますね」

『風？』

『いや窓閉まってる』

『勝手に倒れた？』

「……固定されていたはずなんですが」

（霧切、日記を持ったまま立ち尽くす）

『日記読んでる時だよな』

『タイミング悪すぎ』

『偶然？』

突然視聴者のコメントが素早く流れる。

『後ろ！！！』

『影動いた……』

『霧切後ろ向いて！！』

『マジで映ってる！』

『俺にも見えたぞ！！人影っぽいのが！！』

『霧切！早く！後ろだ！！』

（霧切、振り返る。カメラには何も映らない）

「……後ろ、ですか？」

『いや今確実にいた』

『カメラには映ってた』

『霧切には見えてないの？』

『保存した』

「僕には何も見えません。

ただ、映ってるなら……記録としては残します」

（初めて、霧切の声に少し緊張が混じる）

「2階の確認は終わりました。

次は3階に上がります」

【視聴中：198人】

『人増えすぎw』

『このペースで全部回るの？』

『体力大丈夫？』

『無理すんな！』

「大丈夫です。装備は十分です」

（階段を見上げる）

「では、3階に行きます」

配信継続。

2階病棟（21:50-22:30）

∙ 開始：124人（第1話からの流入）

∙ 最高：267人

∙ 視聴中：198人

∙ ※Twitterで「今ヤバい配信やってる」と拡散され始める

『バズってるから来た』

『これマジ？』

『演出じゃないの？』

『ガチなら怖い』

『裏取れる？』

『2階は余裕だろw』

コメント欄が慌ただしくなりつつある。