サンタクロースの悩み
鈴木 優
第1話
サンタクロースの悩み
鈴木 優
十二月二十四日 北の果ての町。
雪はしんしんと降り続き、街灯の光を柔らかく包んでいた。
トナカイの蹄の音も、ソリの軋む音も、雪に吸い込まれていく。
サンタクロースは、煙突のない家の前で立ち止まった。
『またか......』
彼はため息をついた。
最近は煙突のある家がめっきり減った。
プレゼントを届けるたびに、どうやって入ろうかと頭を悩ませる。
ドアの隙間から? 窓を開けて? それとも、インターホンを押してみるか?
『ピンポーン……いや、違うな』
自分で首を振る。
サンタクロースがインターホンを押すなんて、夢がない。
ふと、ポケットの中のリストに目を落とす。
そこには、今年プレゼントを届ける子どもたちの名前が並んでいる。
その中に、一つだけ、見慣れない名前があった。
『オガタ.ヒカル(6歳)』
『......ああ、あの子か』
サンタクロースは記憶をたどった。
去年まではリストにいなかった。
でも、今年は初めて手紙が届いた。
『おかあさんがいなくなって、さみしいです。サンタさん、ぼくにおともだちをください』
震えるような字で書かれたその手紙を、彼は何度も読み返した。
『友だちを、か......』
サンタクロースは空を見上げた。
星は見えない。
雪雲が空を覆っている。
彼は袋の中を探った。
ぬいぐるみ、ブロック、絵本......
けれど、どれも『友だち』にはなれない。
『物じゃないんだよな』
彼はぽつりとつぶやいた。
そのとき、近くの公園から子どもたちの笑い声が聞こえた。
雪だるまを作っているらしい。
その中に、オガタ.ヒカルの姿があった。
赤いマフラーを巻いて、少し離れた場所から、そっと一人きりで見ている。
サンタクロースはそっと微笑んだ。
『......そうか、もう答えは出てるんだな』
彼は袋から、白い手袋を取り出した。
それは、特別な魔法がかけられた手袋。
触れたものに、ほんの少しの勇気を与える。
夜が明ける前、ヒカルの枕元には、手紙と一緒にその手袋が置かれていた。
『君の勇気が、君の友だちを連れてくる。メリークリスマス。—サンタより』
翌朝、ヒカルはその手紙を読んで、そっと手袋をはめた。
そして、玄関を開け、雪の中へと歩き出した。
その日、ヒカルは初めて、自分から声をかけた。
『いっしょに、雪だるま作ってもいい?』
子どもたちは笑ってうなずいた。
雪はまだ、静かに降り続いていた。
サンタクロースの悩み 鈴木 優 @Katsumi1209
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