『隣国に嫁ぐ公爵令嬢、侵略の口実を逆手に取る』

春秋花壇

『隣国に嫁ぐ公爵令嬢、侵略の口実を逆手に取る』

『隣国に嫁ぐ公爵令嬢、侵略の口実を逆手に取る』


花嫁衣装は

白ではなかった

それは

血を流させないための

沈黙の色だった


祝福の言葉は

すでに刃を含んでいた

「和平のために」

「国のために」

その言葉が

どれほど多くの戦を

正当化してきたか

私は知っていた


彼らは言う

女ひとり嫁がせれば

国は守れる、と

だが

国を売る言葉を

誰が最初に口にしたのか

誰が条約を

都合よく歪めたのか

――私は

すべて

読んでいた


馬車は進む

だが

私が運んだのは

持参金ではない

剣でもない

涙でもない


記録だ

証拠だ

理性だ


戦争は

叫ぶ者から始まる

けれど

終わらせるのは

静かに

帳簿を閉じる者だ


あなたたちは

私を

口実にした

ならば私は

その口実を

条約の頁に挟み

二度と抜けぬよう

封じただけ


花嫁は

燃え落ちるために

行ったのではない


私は

火を

消しに

行った


そして最後に

ひとつだけ

告げておく


女を

犠牲にすれば

国が救われると

思ったその瞬間

――あなたたちの国は

もう

負けていたのだ


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