恋なんて知らない

@konareo

第1話

「どうして結婚してくれないの?もう私待てないよ!」

 女性社員の声がオフィスに響いていた。とはいっても今は22時。本来は誰もいないはずの時間なのだが、俺は明日のプレゼンの資料を忘れてしまい取りに会社に戻ってきたのだ。何やら揉めているのか修羅場なのかわからないが、俺は扉の近くで動けないでいた。向こうからは見えていないはずだ。

「今お互い仕事忙しいじゃんか。そんな焦らんでも俺らまだ25だろ」

「周りはどんどん結婚していってるし、私早く子ども産みたいのよ。仕事だって早く辞めたいし。これからのこと考えてるの?」

「そんなん考えられねーよ」

 会話はますますヒートアップしている。どうしよう。もう最悪明日の早朝来てプレゼンの資料確認するかと諦めて帰ろうとした時、ガタっと音を立ててしまった。

 音の鳴った方向へ同時に2人が振り向いた。そして俺と目が合ってしまった。

 同じ部署の結城涼と女子社員と目が合う。

 え、この2人付き合ってたんだと驚く。俺は周りと仲良くしていないので噂話などは一切入ってこない。そしてこの状況どうすればと思考が停止した。

「善斗!あ、迎えに来てくれたのか!わり〜な」

頭に疑問符が浮かぶ。名前を呼ばれたことよりも、当然のように距離を詰められたことに違和感を覚えた。

「俺ら飲みに行く約束してたんだ!また連絡するから!」

 俺の肩に手を回し強引にその場から立ち去ろうとしてきたので、急いで振りほどこうと暴れてみたが「わりぃ、話し合わせてくれ」と小声で言われる。体格的にも力が叶わないと思った俺は渋々承諾した。


 近くの居酒屋に俺は連れて行かれた。

「ほんとにごめん!でも助かったよ。」

「明日のプレゼンの資料持って帰りたかっただけなのに、どうしてくれるんだよ。」

「ここは俺のおごりだから、な?ごめんって。」

 夕飯はまだだったので、ありがたく奢られることにした。焼き鳥食べるの久しぶりだな〜と少し嬉しくなる。

「なに?焼き鳥好きなの?どんどん食えよ〜てかなんか飲む?ビール?」

「あ、アルコールはいい。俺弱いんだ。」

「なにそれ可愛い〜」

 そういいながら結城はビールを流し込んだ。

「女って面倒くさいわ。」

 げ、その会話避けてたのに自分から言ってきやがったかと面倒くさくなる。先程何があったのかはだいたい想像がつくし、話は聞きたくない。

「悪いけど話は聞きたくないから。だいたい想像つくし。」

 俺はずりを頬張りながら冷たく答える。

「え、何聞いてくれないの?つっめた〜」

 結城が茶化してくるが俺は次はお茶漬けにしようか悩んでいた。

「女ってさ、なんですぐ結婚したがるんだろうな。仕事だって忙しいしまだ遊びたいしさ、めんどくせーわ。」

 きっと同意してほしいのだろうが、俺は今鮭茶漬けにするか梅茶漬けにするか悩んでいた。

「善斗って冷たいな。会話全然してくれねーじゃん。」

「……俺は元々人と会話するのが苦手なんだ。お前に無理矢理連れてこられなければここにはいていない。」

 ふーんと頬杖をついている結城を無視しながら俺は梅茶漬けを注文した。

「そういえば善斗っていつもひとりでいるよな。そうか人と関わるのが好きじゃないんだな。」

 少し寂しそうにまたビールを飲んでいた。てかこいつ今何杯めだ?そう思っているとなんと結城は突っ伏してしまった。俺の梅茶漬けが運ばれてくる。黙々と俺は食べる。そして嫌な予感がする。まさかこいつ寝てないよな?あー今日はなんてついてない日なんだ。

 

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