第二章「蝶」

今日は雨が降る。

そんな事を、この家のテレビの中の人は言っていた。


そんな日は、鳥が低く飛ぶ。

鳥が、急にこちらに向かってくる。

「ドスッ」と、鈍い嫌な音がした。

私は壁と鳥の間に挟まれるようにして、潰されていた。

この音で、この家の人は起きたようだ。

カーテンの隙間から、家の中を覗く。

その人は独りで何かをブツブツ呟いて、

もう一度、布団に戻って行った。


だんだん、物事を考えられなくなってきた。

ああ、これが、人々がのぞんでいるものね。

にんげんって、しあわせなのね。


ここで、私は終わったはずだった。


気付いたら、私はそこに居た。

身体の重さも、痛みもなかった。

ただ、数千羽の私の仲間が、舞っていた。

だから、私も舞った。

今思えば、私が生まれても、死んでも、

世界にはなんの影響も及ぼさない。

私は人間が羨ましくもあり、可哀想だとも思う。

人間には、影響力がある。

数字になれる。

でも、それは同時に、責任を負うことになる。

そんな事を考えながら、

やっぱり私は蝶で良かったと思った。


ふと、目線をあげると、

仲間は一匹もいなかった。

あれだけいたのに、どこへ行ってしまったのか。

今の私には知る由もない。

私の下で、知らない人が眠っていた。

私はその人の唇に止まった。

唇は、暖かく、柔らかく、居心地が良かった。


私はそのまま、眠った。

深く、深く、もう二度と起きられないくらい。


何かに急かされた気がして、

急いで目を開けた。


そこには、この家の人が居た。

あの夢に出てきた人と、少し似ていた。

でも、少しだけ違った。

この人の目には、希望がある。

その人は私を見て、笑った。


ああ、この人の記憶に私が残る。


それだけで、私が生きていた証になる。


我ながら、なんて軽い命なのだろう。

その人は何かを思いついたように席を立ち、

コップに水を注いで、私の後ろに立った。


私は、この人が何をしようとしているのか知りたかった。

頑張って、視線を後ろに向ける。

だんだん、指が近づい――

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