辺境のギルドマスタークロウ  ~ 目指すはスローライフ! でもどうやったらライフはスローになるんだ? ちょっと忙しくなってきたんだけど ~

咲良喜玖

何でもない日常からマスター会議

第1話 辺境のギルドマスター

 昔々のそのまた昔。

 この世界の創造神から直接指導を受けた人物がいたそうだ。


 その人物はこの世の技の全てを会得したとの逸話があり。

 やれ、歩く辞書だとか。

 やれ、剣聖よりも強い剣術を持っていたとか。

 やれ、大賢者よりも天才魔術師だったのではないかとの。

 本当か嘘か分からない噂があったりする。

 それに、彼の実績も、信じられぬものばかりであり。

 やれ、特級冒険者らが束になっても勝てなかった七大魔獣を一人で倒しただの。

 やれ、ラストダンジョンを含めたダンジョンの完全攻略を一人でやり遂げただの。

 過去のダルレシアには、この世を統べるほどのとてつもない実力者がいたらしいのだ。


 だがしかし。

 それほどの逸話があった彼でも、唯一成し遂げなかったものがある。

 それが、大昔に世界を支配しかけた魔王の討伐であった。

 実は、彼の偉業の中で唯一の失敗が魔王の討伐で、軍の撃退という結果だけが歴史に残ったのだ。

 魔王の喉元に刃を突き付けただけで戦いが終わった。

 このような一文が、歴史の1ページに記録されたのである。


 

 世界に魔王の魔の手が伸びていた時代。

 その時代は人間たちが不幸な時代だった。

 作物は荒らされ、人は拉致され、奴隷と化し、人々がまともに暮らせるような時代ではなかったらしいのだ。

 そんな中で、彼が魔王との対決をしてくれた事。

 これは奇跡の出来事であっただろう。

 その対決のおかげで、倒せぬとも世界に平和が訪れたのだ。

 彼の最大の偉業は、世界に平和をもたらした事だった。



 だがしかし、人間とは愚かである。

 戦乱の時代ではその偉業を覚えておいてくれても、平和が当たり前となった時代に移行すると、ダルレシアに住む人々は、彼の偉業の記憶と記録を無くすのであった。

 撃退成功時は、あれだけ喜んだというのに、その後はというと、彼の記録がないことで簡単に想像出来るだろう。

 歴史の資料にも載せないという事は、平和ボケが続いたという事なのだ。

 伝説の人物のその後の消息は誰にも分からない。


 噂話では、いまだに彼が果てしない旅を続けているとの話もある。 

 まあそれは嘘であろう。

 なにせ昔々の大昔の人間の事なのだ。

 今も生きているなどありえない話だろう。

 ああ、彼は一体どこへと消えたのだろうか。

 世界を救った男なのに、その後が分からずでは申し訳ない。

 だが、歴史書、古文書、ありとあらゆる書物を探しても、彼を探し出せないのが事実。

 ならばと、世界の七大不思議の一つに加えて、ダルレシアの人々は探す事だけは忘れないでいこうと思うのだった。




 ◇

 

 アルフレッド大陸の極東にある港町ロクサーヌ。

 朝のギルド会館の忙しい時間帯にて。

 

 「ふわぁぁ」


 建物内に大きなあくびが響いた。

 情けない声は、意外にも大きく。

 賑わっているギルド会館内のどこであっても聞こえてくる音量だった。

 会館の入り口を超えてまで行列待ちをしている冒険者たちの耳にも届いていた。


 「マスター。受付のお仕事手伝ってくださいよ。今日も混んできましたよ~」


 ギルド会館受付1番担当リリアナ。

 三つ編みの髪が、彼女の顔立ちの幼さを強調しているが、彼女のクールな服装が、大人であることを表現している。

 顔と姿のギャップがある女性リリアナは、ギルドの受付業務が忙しくなってきたので、マスターにも自分たちの仕事を手伝ってもらおうとした。


 しかし、マスターからの返事は来ない。

 ここでまた仕事に追われる事になり、ため息が出そうになった時に、彼女の隣の人物が、淡々と話しかけてきた。

 眼鏡をかけた男性は、厳しい口調だ。


 「リリさん。マスターなんかに頼んじゃ駄目です。やる気と根気がありませんからね」


 ギルド会館受付2番担当フラン。

 毒舌眼鏡で有名な男性は、スーツ姿がビシっと決まっている。

 ネクタイから靴に至るまで、細部にまでこだわりのある男性はおしゃれ仕様だ。


 「フラン君。マスターは、ロクサーヌのマスターなんだよ。敬意を払わないと、駄目だよ」


 流石に辛辣すぎたので、フォローを入れるリリアナは女神である。

 

 「あの人はマスターですけど。仕事をしないで遊んでばかりの屑なんです。敬意を払う要素がないからいいんです。これくらいは言っても!」

 「えええ!? そんなぁ」


 受付の裏手側。

 職員のオープンスペースから問題の男がやって来た。

 先程のあくびの痕だろう。 

 涙を拭いたような痕が目尻にあった。


 「フラン君。リリちゃん。おじさんはね。二人なら、この仕事が出来るんだと思ってさ。全部任せてるんだよ。仕事をしないんじゃない。仕事を割り振っているんだよ!!」


 港町ロクサーヌのマスター。

 通称『辺境のギルドマスター』クロウが、ようやく表に出てきた。


 クロウは、のんびりな性格で人当たりが良い。

 ギルドマスターであるが、クロウはとにかく緩い。締まりがない。見た目も、中身もユルユルなのだ。

 彼の見た目は二十代にしか見えない。

 だけど本人は何故か人前では自分の事をおじさんだと言い張る。

 押しても引いても、のらりくらりとしているので、掴みどころがない人物として、町でも名物ギルドマスターおじさんとして有名人となっている。


 「物は言いようですよね。マスター。それ、言い訳ですよね」

 「そんなことないよ。フラン君! おじさんはね。いつでも、若人を応援しているのよ」

 「はぁ。そうですか。でもそれはマスターが仕事をしたくない言い訳ですよね」

 「違う違う。決してそんな事はない。おじさんは、未来ある若者が、バリバリ働いている所を見るのが好きなのさ」

 「まったく、この人は・・・物は言いようだ」


 遠慮せずにフランは、上司であるマスターに白い目を向けた。


 「マスター!」


 元気なリリアナの声にクロウが振り向く。

 

 「私も応援してくれてるんですか!」

 「もちろんだ。リリちゃんは、いっつも明るくて素敵だよ。おじさんは君を生涯応援してる」

 「ありがとうございます」


 リリアナは単純である。

 受け取った言葉を素直に受け取ってしまうのだ。

 純粋だから危険でもある。


 「マスター。セクハラです」


 フランが言った。


 「え? 今のが!?」

 「当然です。生涯なんて気持ち悪いです」

 「ええええ。マジかよフラン君!?」


 ちなみにフランだけの意見である。


 「ね、気持ち悪いですよね。リリさん!」


 当の本人は。


 「え・・・どこが?」

 

 全く気にしてなかった。

 なので。


 「リリさん」


 フランが小声で話しかける。


 「なに?」

 「騙されちゃいけません。今のも嘘なんですよ」

 「え!? そうなの!」

 「マスターは、自分が働きたくないから。応援してるって言って、気持ちを乗せておいて、とにかく僕らをここで働かせようとしているんですよ。この雑用みたいな仕事だって、結局は僕らに、毎日任せっきりにするつもりなんですからね」


 現在。二人が忙しく働いている仕事内容は、冒険者登録受付業務である。

 新人を生み出す登録手続きは、ほぼほぼ雑用の仕事なのだ!


 「え、そうだったの!」


 これもまた説得されそうになっているので。


 「これこれ、フラン君。いけないよ。リリちゃんにある事ない事吹き込んじゃ」

 「マスター!? 今の話、聞こえてるんですか」


 フランは遠い距離にも関わらず、この小さな声が聞こえるのかと驚いた。


 「当然だ。おじさんの耳はビックリするくらいに地獄耳さ!」

 「おじさんには無駄な能力ですね。知らなくてもいい事が聞こえてしまいますね。悪口も聞こえるんですからね。本当に無駄です。その機能取り除いた方が、今後の生活が楽になりますよ」

 「ガーン!?」


 フランは辛辣眼鏡でも有名だ。


 「ちょっとこれ何よ。あなたたち。仕事が滞ってるわよ。早く受け付けてあげなさいよ」


 凄い剣幕で職員の部屋から飛び出して、こちらの仕事場にやってきた女性は、シオン。

 紫の薔薇。

 棘と美しさを兼ね備えた美女。

 グラマラスな肉体で男性の目を釘付けにして、彼女本来の美しさだけで女性を魅了する。

 男女双方から、とても人気がある人物だ。

 元特級冒険者で、光陰のシオンダークマスターシオンという二つ名まであった人物。 

 だけど、なぜか今は辺境のギルドの職員になっている。

 それが冒険者らとギルド職員の間では大きな謎となっていた。


 

 「どうせ、悪いのはクロウね」


 いつもサボってるマスターのお目付け役のシオンが、十本の指を鳴らしながらクロウを睨んだ。


 「え? お前、なんでここにいるんだよ。出張で、今日はいないって言ってなかったっけ?」

 「あのね。クロウ」

 「なんだ?」


 真剣な表情で聞いてきたから、クロウはどんな展開が来るのかと身構えていると、次の展開は想像とは違うものだった。

 

 「あなたが仕事をサボるって、あたしの勘が囁いたの」


 というのは違う話で、本当の所は、先方から断りの連絡が来たのである。

 しかし、こう言った方が脅せるから、彼女は言い切った。


 「クロウはサボるから、リリとフランが大変になるってね。それにあんたのそばに、あたしがいないと駄目でしょ」


 仕事しないから!

 と、彼女の言い分にはもう一つ理由がある。

 だけど、その理由は伝えるには恥ずかしいから内緒だ。


 「なんだよ。その勘。気持ち悪いからやめてくれよ。きついわ。そんな事言ってたら、全部お前の気分次第で俺が罰せられるじゃねえか」

 「はぁ。あのね。当然でしょ。あなた実際にサボろうとしたでしょ。これを見なさいよ。これを!」


 ビシっと指差した先は、受付の向こう側。

 冒険者の卵たちだ。

 受付をしてもらいたい子たちが、こちらを見ている。

 今は、その作業が滞っているので、益々混んでいく模様だ。

 行列は、お店のように外にまで繋がっている。


 「・・・・ということで、フラン君。リリちゃん。頑張りましょう! おじさんも外で頑張るよ」


 クロウが逃げるような体勢になると、シオンがクロウの耳を掴んだ。

 

 「あ! な! た! も! ここで頑張りなさーーーーい」

 

 シオンが地獄耳のクロウに馬鹿デカい音量を叩きこんだ。


 「イテテテテ。音がでけえ・・・ひ、ひでえわ。耳がまだキーンと鳴ってるわ」


 あまりの音の大きさにクロウの頭が鳴り始めた。


 「離せよシオン。俺はこれから仕事に」

 「ここ以外で、何の仕事があるのよ。真面目に働け。ぐーたらマスター!!!」


 シオンの右ストレートが、クロウの左頬に炸裂して、ロクサーヌのギルドの仕事は再開となった。

 職員はいつもの日常であるが、ここに初めてきた冒険者の卵たちは戸惑ってしまったのである。


 こんな、ギルド会館ってあるんだ!?


 この場にいた皆の心の中は、この言葉で一致していた。







―――あとがき―――


この物語は、スローライフに近い形で始まります。

基本はこの路線です。

クロウの過去がハードだった分。

この物語ではゆったりとした展開で始まります。

ですが、緩さの中に伏線も置いてますので、たまにハードな展開があったりします。


過去のクロウの物語に矛盾が出来ないように。

クロウの過去。

苦労シリーズも作っていますので、興味がある方がいたら、コメントください。

過去も見たいという期待の声が集まったら出すかもしれません。


彼の師が変な人なので、紹介せざるを得ないのですが。

それをこちらの作中でも説明するのか。

それともどっかり別小説として出した方がいいかは、こちらの小説を読んでくれた皆さんの反応を見て決めます。



肩の力を抜いて、気軽に読んでもらえるようなものにしていきたいと思っています。

こちらの話の続きに興味が湧いたら、登録と応援を、よろしくお願いします。

モチベーションアップして、どんどん書けるようになると思いますので、ぜひお願いします!


以上作者でした。

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