復讐のため禁忌の力に手を染めた少年x父の罪で感情を失い能力を得た少女。AIに奔走された二人の運命が汚染された「ダンジョン」で交錯する《マギ・ガイア・ツクヨム:終焉のレゾナンス》
なつきコイン
第1話 喪失の北地(ノーザン・ロスト)
回転翼が空気を叩く轟音が、頭蓋骨を直接揺さぶっているようだった。
FC2098年、晩秋の岩手。
輸送ヘリのカーゴルームは、汗と機械油、そして吐き気を催すほどの緊張感で満たされていた。
これから死地へ送り込まれる「ダンジョンハンター養成学校(DHTS)」の候補生たち。
彼らの多くは震え、あるいは空元気のような談笑で恐怖を誤魔化している。
だが、ユウキだけは違った。
彼は強化ガラスの窓に額を押し当て、眼下に広がるその光景を、網膜に焼き付けるように凝視していた。
「……あれが」
北上山地の稜線は、どす黒い腫瘍のような「霧」に侵食されていた。
かつて世界最先端の科学都市、岩手リニアコライダー(ILC)が存在した場所。
今はもう、地図には「汚染区域」としてしか記されていない。
紫黒色の霧――未知の素粒子ダークマター。
物理法則を無視して渦巻くその闇を見下ろした瞬間、ユウキの脳裏で、十年前の記憶が暴力的に再生された。
――鼓膜を裂くようなサイレンの音。
――視界を埋め尽くす、毒々しい紫色の奔流。
――逃げ惑う人々の悲鳴と、肉が潰れる湿った音。
『逃げろ、ユウキ!』
父の絶叫。
振り返った視線の先で、巨大な多脚の魔獣が父の両足を紙屑のように引きちぎった光景。
鮮血の赤と、ダークマターの紫が混じり合う、冒涜的な色彩。
あの日、誇り高い父は死んだ。肉体は生き残ったが、心を失った。
避難所の冷たい床で、汚れた毛布にくるまりながら、「俺は悪くない、俺は間違っていなかった」と呪詛のように繰り返すだけの廃人。
そんな父に容赦なく罵声を浴びせる人たち。
父はILCを誘致した主導者であった。
まさに、避難所での生活は、地獄だった。
それに耐えかねて、補償金を手にして男と消えた母。
残されたのは、やり場のない憤怒と、飢えた獣のような復讐心だけ。
助けの手は一つとして差し伸べられなかった。
「おい、顔色が悪いぞ。酔ったか?」
隣に座る候補生が、気遣うように声をかけてきた。
ユウキはゆっくりと視線を戻す。
その瞳の暗さに、相手が息を呑んでたじろぐのがわかった。
「……いや。獲物を見つけただけだ」
「獲物?」
「あそこにいる全てだ。一匹残らず殺して、あの場所を更地に戻す」
ユウキの呟きは、エンジンの轟音にかき消されたかもしれない。
だが、その声に宿る底冷えするような殺気は、周囲の空気を確実に凍らせた。
機体が大きく傾き、降下を始める。
眼下に迫る旧ILC研究所の廃墟は、まるで巨大な墓標のようにそびえ立っていた。
魔獣を資源(魔石)に変えるための狩り場?
違う。
ユウキにとってここは、奪われた人生を取り戻すための戦場であり、呪いを終わらせるための処刑場だ。
軍支給の安っぽい振動剣(バイブロ・ブレード)の柄を、指が白くなるほど強く握りしめる。
痛みだけが、彼を正気に繋ぎ止めていた。
「待ってろよ、魔王」
ヘリのハッチが開く。
吹き込んできた風は、鉄錆と血の臭いがした。
ヘリがDHTSの訓練キャンプに着陸する。
砂埃の中、一際目を引く一団がいた。
白を基調とした機能的なスーツを纏い、感情を削ぎ落としたような美貌の少女――レナ。
その後ろには、不釣り合いな猫耳のヘッドギアと尻尾型のデバイスを揺らし、飴玉を転がしている少女、アリサが控えている。
「あいつが……上代の娘」
ユウキの拳が、みしりと鳴った。
あの事故の責任者である上代研究員の娘。
彼女は事故当時、ILCの保育所にいながら生き残り、それどころかダークマターによる「ギフト」を得たという。
「あ、レナ。また誰かさんがこっちを刺すような目で見てるにゃぁ」
アリサが面倒臭そうに語尾を伸ばした。
レナは一瞬だけユウキに視線を向けたが、すぐに興味を失ったように逸らした。
その瞳には、血の通った人間らしい色彩は存在しない。
「……訓練開始。目標、先行する魔獣群の排除」
レナの低く、静かな声が響く。
その瞬間、彼女の周囲の空間が歪んだ。
重力制御か、あるいは空間の圧縮か。
彼女は一歩踏み出しただけで、数十メートル先の魔獣の群れへと「転移」に近い速度で肉薄した。
閃光。
次の瞬間、巨大な牙を持つ魔獣たちが、悲鳴を上げる間もなく霧散し魔石へと変わる。
圧倒的な、力の差。
「ふん、化け物め」
ユウキは吐き捨てた。
彼の手にあるのは、軍から支給された平凡な振動剣。
今のままでは、あの女には届かない。
ましてや、
「焦るなよ、ユウキ。憎しみは、鋭すぎると己を折るぞ」
不意に背後から声をかけられ、ユウキは肩を震わせた。
そこには、かつてユウキの家族を救い出した自衛隊員、南雲が立っていた。
現在はDHTSの教官として出向している男だ。
「南雲教官……」
「お前の目はいい。だが、まだ足りない。力が、決定的に」
南雲は影を帯びた瞳で、ユウキの胸元を見つめた。
その視線は、ユウキの奥底に眠るドス黒い破壊衝動を肯定しているかのようだった。
北の大地を吹き抜ける風は、凍えるように冷たい。
ユウキの復讐劇は、まだ冷え切った導火線に火がついたばかりだった。
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