汝、運命を変えてゆけ~ハマったゲームの次回作主人公となったイカレゲーマー、生まれ変わった世界を楽しみ尽くす~
ウユウ ミツル
第一章 汝、ゲームを楽しむべし
第1話 夢中の結果
しばらくの間一日一回更新します
暗い六畳半。
遮光カーテンで外界と隔てられたその場所を、モニターの光だけが映し出す。
ゲームの情報を書いた紙、カップ麺の山が散乱するその部屋の真ん中で、俺は――人生最後の瞬間を迎えていた。
「ぐっ……! ……!」
胸が痛い。刺されたように痛い。
理由はわかっている。五徹して食事もとっていないからだ。そりゃいくらピッチピチの17歳だろうが何だろうが死ぬよな。
命の危機が迫る中――だが、俺は誰に助けを求めることもない。
どうせこの家には誰もいないし――そんなことよりもすることがあるからだ。
俺は体を震わせながら、モニターを睨むように見つめる。
そこに映し出されていたのは、人生を賭けてやりこんだゲーム「
そこにいる俺が愛したキャラクターたちは、笑っている。
数多の冒険とイベントを乗り越え。
世界の運命を変え、自分の人生を変え。
こちらを見て確かな信頼と熱い絆を胸に、笑っている。
――今の俺と同じように、笑っているのだ。
……ああ。
俺もこんなふうに、この世界で彼らと笑って過ごしたい。
この人たちのヒーローになりたい。
推しの役に立ちたい。
そうすれば――。
「……」
その続きは、乾いた喉を通り、かすれて部屋に霧散する。
ああ、なんだよ。ちゃんと声が出ないじゃないか。目も霞むし、なんかこれ、ヤバそうなやつか。
いや、そんなことどうでもいい。それよりも、俺は。
――この世界を、遊びつくしたい。
だから。
「ゲーム、スタート……」
最後の力を振り絞って、ゲームを起動する。
そうして、俺の人生はあっけなく終了した。
******
トン。
……どこかからゆっくりと落とされた。
その衝撃で体が少し痛む中、俺はそう知覚した。
なんだ、せっかく気持ちよく寝てたというのに、なんだこの揺れは。もしかして地震か?
せっかく久しぶりに快眠していたというのに。まあいいや、さっさとナンユケにログインしよ。
やけにすっきりとした目覚めを邪魔されて憤慨しつつ、俺はとりあえず目を開けることにした。
隣にあったのは――醜く小さなナニカの死骸。
その怪物は、ぼろきれを纏い、緑色の肌をして、苦痛に歪んだ顔をこちらに晒していた。
その手には小さな体に見合った棒――しかし人を撲殺しうるを有している。
日本では……というか現実世界では見ることなどできない醜悪な姿。
それが光に包まれて消えていく瞬間を、目の前でつぶさに見てしまった。
「あぅ!? ……?」
うお、リアリティ!!!??
そう叫ぼうとしていたのが、出てきたのは17歳で変声期も終えた俺の声とは似ても似つかないもの。
びっくりして喉を触ろうとしたのだが、その前に手に視線がいった。
「うぁ!?」
するとそこにはぷにぷにした手……おててと呼んだ方が差し支えないほど可愛らしいものがあった。
それだけではない。ただ座っているだけと言うのに、明らかに視線が地面に近い。
いや……待て待て。
なんかおかしい。今俺どうなってるんだ?
痛くはないけどなんか体が思うように動かないし。
驚いて叫ぼうとしても変な声しか出ないし。
というかこの体――俺、赤ちゃんになってる?
何もわからない。だが事態は進んでいく。
俺が動かないことを察したように、視界の外から怪物の死体と同じような姿かたちをした生物がこちらに近寄ってきた。
間違いない、小鬼――ゴブリンだ。
「gugyagyagyagya……」
「あう!?」
ゴブリンの手には研がれることなく錆びた剣が握られている。その切れ味はそれほどにしろ、幼児の俺を叩き潰すくらいはできるだろう。
すぐさまここから逃げなければ。そう思い立ち上がろうとするが――まだ体が成長しきってないのか、フラフラとしてすぐに手が地面についてしまう。
「gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
その間にゴブリンはこちらに迫ってくる。まずい、このままでは撲殺されてしまう。
いやだ、さっき心臓発作で俺は思い知ったのだ。
あんな痛い思いはもうごめんだ。
「う~!」
気合を入れて足に力を入れる。腰に力を入れ安定させ、大地を踏みしめるように膝を伸ばす。
そして――小さくではあるが一歩、二歩と踏み出せた。
「gyaaaooooooooooooo!!!」
だがそんなことではゴブリンから逃げられるわけもなく、俺と同じくらいの体躯が迫ってきた。
……あ、これもう死ぬな。
臨死体験。
その四文字が脳内で踊るが、もう一歩だけ、何とか歩を進めて――。
「うおおおおおおおおおお!
喜色に塗れた声とともに、俺とゴブリンの剣の間に、誰かが割り込んできた。
「gya!?」
「こんなめでたい日に、ゴブリンは余計だよ!」
俺もゴブリンも何が起こったかわからないでいると、声の主はノリノリでガントレットで剣を弾き飛ばす。
そのままワンツーと二発ゴブリンに拳を入れ――最後に魔法を行使した。
「
「gyaaaaaaa!!」
その言葉とともに、こぶし大の火の玉が生成される。
それが直撃したゴブリンはなすすべもなく、燃えて――そのまま光の粒となって消えていった。
「うし、これで全滅させてやったな。もう大丈夫だぞ、来次」
驚いて声の出ない俺の頭をガシガシと撫でてくるその女性は、一言で言えば女ヤンキーであった。
染めたのであろうプリン色の髪、なぜかドラゴンの描かれた光沢のある緑色のスカジャン、そして何より鋭い三白眼。
小柄な体というのにその眼光は俺を射抜くようだったが、にししという擬音が似合う屈託のない笑みがその怖さを打ち消していた。
いや、それよりも。俺は二十歳前後であろうヤンキーの言葉を聞き流しながら思考に耽る。
――
聞き覚えのある単語を聞いて心臓が痛いほどに高鳴る。
もしファイアボールと詠唱していたら違う可能性があるが、アル・イルと言って火の玉が出てくる世界。
そして、今しがた光の泡となって消えたゴブリンは、カテゴリー7の『バベル』の存在をこの上なく表している。
これらが意味することとは。
「うぁ?(もしかしてここは――ナンユケの世界なのか?)」
「あれ、どうした? もしかして地面に置くとき乱暴だったか? 頭打ってないか?」
唯一の生きがいだった「汝高みを超えてゆけ」――ナンユケ。
その世界に転生したのなら。
今までの知識が全て使えるのなら。
……よし、決めた。
「うぁ!」
これは神様が前世で大変だった分、くれたプレゼントのようなものだろう。
なら、俺は転生したこの世界を心から楽しむんだ!
そして、推しを推して推して推して推して……推しまくる!!!
「ううん、もしかしてモンスター見たから怖がってんのかな。教育上よくない顔してるもんな」
そうと決まれば話は早い。現状把握からするとしよう。
ええと、この荒野はどこかわからないのはいいとして、とにかくこの人は誰だろう。
ナンユケ――「汝高みを超えてゆけ」では見たことがないし、モブの一人なのかもしれないが――。
そこまで考えたところで、先ほどからスルーしていた目の前のヤンキーの言葉がやけにクリアに聞こえた。
「ごめんなあ。ママがちょっと目を離したばっかりに」
「……う?」
……は?
この人が俺の?
「……まんまぁ?」
え、嘘でしょ?
俺が呆けたような声をあげた、その瞬間。
「うおおおおおお!!? 歩いたと思ったらしゃべったあああああああああ!? うちの子天才ぃいいいいいいいいいいいい!!!」
「んぁぁ!?」
そんなこんなで俺は、これからの期待と決意を胸に秘める間もなく――高い高いをされ、胸に抱き入れられた。
────────
《ナンユケ運営からのお願い》
初めまして、「
この度はナンユケを先行プレイしていただきありがとうございます。
この
これからの彼ら彼女らの活躍をどうか温かい目で見てもらえるよう、よろしくお願いします。
では、お楽しみください。
~~~~~~
それと、作者からのお知らせは「~~~~~~」で区切った箇所に書いていきますので、よろしくお願いします。
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