コルチゾール

@sy9980

第1話

人の声は植物の発育によいと聞いていたので、私は北海道土産にもらったマリモに毎夜話しかけている。

少しでこぼこしていて、直径五センチほどの大きさだ。

くだらない話も全て受け止め、ただ黙って聞いていてくれる。

言い返されることもないから私のモヤモヤはいつの間にかスッキリして、そばにいるのがとても心地よい。置かれている場所はわが家の癒しの空間となった。

そうこうするうち、私のマリモへの愛はだんだんと深まってきた。マリモの方でも、きっと私の声の振動で細胞が刺激されて、そのうち緑がキラキラ輝き始めるかもしれない。 さて、今日も今日とてまたぼやいているけれど、

「夕べの飲み会で、誰彼かまわずまとわりつくのはやめろって、上司に耳打ちされたの。会話が盛り上がってた時によ。

取引先のハイスペ男子もたくさん参加してて、もうちょっとで二人くらい連絡先ゲットできそうだったのに。ほんっと、もったいないことしたわ。

まあ、積極的にボディタッチしても、相手の反応は薄かったけどね」

私が少しずつ変色しているマリモに気がつくのは、まだ先のこと。

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