あの筆入れや、今、何処?

なかむら恵美

第1話



    


中学に入った時から、10年ぐらい。 

ずっと愛用していたのに、筆入れがある。


本革製の、一寸いいやつ。

全体朱色に薄いオレンジを混ぜたような色で、真ん中でチャック形式。

左右それぞれに葡萄柄。蔦に絡まった葡萄がたわわに実っている構図で、

かなりお気に入りでした。

母親が買ってくれたんだと思う。    


中には入れていたのは、2Bの鉛筆5、6本と、15センチの定規。

消しゴム。 以上で結構、パンパンだった。

赤青鉛筆も入れていただろうか?

それとは別に、革製のペンケース。

小学校を出る時に、隣家の人から貰った、お手製品も携える。

色が黄色で、筆入れと並べると映えるのだ。

こちらにも軽い筆記具を2,3、入れていた。

大嫌いな授業でも、一応はやる気になる(?)。なんて効果は、全くなかった。



高校時代。2年生か、3年生の時。

授業中、某先生が、まっすぐにわたしの席に来る。 

(えっ、何?何かした?)

既にビックリ。小心者は、困ったちゃん。

いきなり例の筆入れを手に取って、「ふーん」。

しげしげと見廻していたのには、驚いた。

教師は教卓に立つから、室内一望。生徒の机上だって目に入る。

「一寸、見せてね」

ぐらいは言って欲しかったなぁ。


そんな思い出深い筆入れであるが、知らない間に行方不明に。

あの筆入れさんは今、何処?ペンケースはフニャフニャだが、今もある。

     


      ○教卓の 教師も欲すも 革製の

           筆入れあの子の 机・定位置

                         <短歌 なかむら>

                              

                                 <了>


    

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あの筆入れや、今、何処? なかむら恵美 @003025

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