スクールジャイアントキリング
@rakunosukedao
第1話
私立・荒金工業高校。全校生徒、わずか500名。
この狭い学び舎では、入学した瞬間にスマートフォンへ強制インストールされるアプリ『阿修羅(アシュラ)』が、生徒の「価値」を決定する。
僕、佐藤ケンジは、校門の前で自分の順位を確認し、息を呑んだ。
【阿修羅・全校総合ランキング】
1位:御門 蓮(2年生)
2位:九条 龍也(3年生・番長)
……(超えられない壁)……
45位:一条 雅(1年1組ヘッド・学年1位)
……
130位:大剛 慎司(1年4組ヘッド・1年生最弱ヘッド)
……
499位:佐藤 ケンジ(1年生)
500位:トモ(1年生)
「……499位。下から二番目だ」
「気にすんなって。俺なんか不動の500位、底なし沼の住人だぜ?」
隣でヘラヘラと笑うのは、情報屋のトモだ。
「この学校じゃ、1年生のヘッドはだいたい50位以内に食い込むのが常識なんだ。1組の一条なんかはすでに45位。でも、俺たちの4組のヘッド、大剛は130位……。5つのクラスの中で、4組は『最弱の寄せ集め』ってバカにされてるのさ」
トモが指差すスマホ画面の頂点には、2年生にして1位を独占する**『御門 蓮』**の名前があった。3年生の番長・九条さえも凌駕する「怪物」が2年生にいること自体、この学校の異常さを物語っている。
4組の教室は、他のクラスに比べて少し冷え切った空気だった。
教卓にドカッと座る大剛は、不機嫌そうにスマートフォンを眺めている。
「チッ……130位だと? 他の組のヘッドは二桁順位だってのによ……」
大剛は苛立ちをぶつけるように、一番後ろの席に座っていた僕を睨みつけた。
「おい、そこの499位。お前みたいなモヤシが同じクラスにいるから、俺の評価まで下がるんだよ。今日からお前は、俺がランクを上げるための『サンドバッグ』になれ」
大剛が立ち上がる。130位とはいえ、中学時代に柔道で県大会に出たという実績は伊達じゃない。丸太のような腕が、僕の顔面めがけて振り下ろされた。
その瞬間――。
恐怖で視界が歪むのと同時に、僕の「臆病者の生存本能」が覚醒した。
何年もいじめられ、殴られる直前の空気の変化、肩の揺れ、視線の動きを察知してきた僕の「眼」が、大剛の動きを捉えた。
(右――大振り。踏み込みがわずかに浅い!)
僕は無意識に、首をわずか数センチ左に傾けた。
ドォォン! と、僕の耳元を風が切り裂き、後ろのロッカーが激しく凹む。
「……避けた……!?」
大剛が、そしてクラス中の連中が目を見開く。
「……嫌だ」
「あぁ……?」
「サンドバッグにはならない。……一週間だ。一週間後、あんたを倒して、僕がこの4組のヘッドになる」
静まり返る教室。
全校499位のモヤシが、130位のヘッドに宣戦布告した。それは、4組の最底辺から、学校の頂点に君臨する御門と九条への、あまりにも無謀な挑戦状だった。
「ケンジ! お前、本気かよ! 大剛はヘッドの中じゃ最弱だが、それでも130位。俺たちみたいなゴミとは住む世界が違うんだぞ!」
放課後の屋上。トモが顔を真っ青にして叫ぶ。
「でも、見えたんだ。あいつの動き、全部わかった気がした。……トモ、僕に喧嘩を教えてくれ」
トモは一瞬呆れたが、やがて不敵な笑みを浮かべてスマホの隠しサイトを開いた。
「いいぜ。この学校はたった500人。全員の癖、弱点、過去の敗北データ……俺のスマホには全部入ってる。大剛は強いが、右フックを打つ時に、柔道の癖で左足の重心が浮く。そこを突けば、お前のその『眼』を武器にできるかもしれない」
トモが画面を見せる。そこには大剛が過去に敗北した時の、わずかな足元の乱れが映し出されていた。
「一週間で、499位が130位を喰う。……こんな面白いジャイアントキリング、俺がプロデュースしてやるよ」
こうして、全校500人の序列をひっくり返す、孤独で泥臭い下剋上が始まった。
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