闇バイト先は魔王城

水帆

第1話 トンネルの向こうは魔王城だった

 国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。


 とか、


 トンネルの向こうは、不思議の街でした。


 とか。

 有名なフレーズあるじゃん?


 でもさ。

 また全然違うケースもあるわけよ。


 これは、トンネルの向こうが魔王城だった俺の話である。




 

 物語の始まりは、その2時間前。

 

 ボロい賃貸アパートの一室。

 俺は、米の入っていない米びつを眺めながら、何度目か分からないため息をついた。


「やばい……このままだと、本当にまずい」


 勤めていた清掃会社をクビになってから、大した学歴もなく転職回数も多い俺は、ことごとく中途採用面接に落ち続けていた。


 今はコンビニの深夜バイトで食いつないでいるが、今月の家賃の振込日が来週に迫っている。


 実は既に2ヶ月家賃を滞納していて、もし今月も払えないと退去しなくてはいけない約束だった。


 俺は肩を落とし、昨日ネットで見つけた求人広告を再び開いた。


 ――ホワイト案件。日当10万~(日払い可)。年齢、経験不問。即日採用。やる気さえあれば誰でも簡単に稼げるお仕事です!


 ……もう、見るからに怪しい。

 だって作業内容すら書いていないもん。

 怖すぎ。

  

 だけど、家賃が払えない……

 

 俺の両親は駆け落ちして俺を産み、2人とも早くに死んでしまったから、こんな時に金銭的に頼れるような親戚とかも俺にはいない。


 面接にも落ちまくるし、なんだか俺にはどこにも居場所がないような気持ちになってくる。


 そんな俺が手っ取り早く金を手にして生きていくためには、もう他に手段が思い浮かばなかった。


 俺は意を決して求人広告に書かれていた連絡先にメッセージアプリで連絡した。

 するとすぐに返信が来た。


「ヒト不足だから助かるよ。いつから働ける? ちょうどヒトが足りないんだが、今日は厳しいか?」


 男は「ゾロ」と名乗った。

 明らかに偽名だ。スマホを持つ手に汗が滲んだ。


「本当に1日で10万稼げるんですか」


「上手い奴ならもっと稼げるよ」


「あの、今日も空いてます」

 

「いいね。じゃあ、今から指示する場所にすぐ来てくれ。服装は動きやすくて目立たないやつなら何でもいい。指定の場所に着いたらトンネルがあるから、そこを抜けた先で他のスタッフと合流して」


 そうして俺は指示された場所に向かい、長いトンネルを恐る恐る歩いていった。

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