余命数日の公爵令嬢の影に転生した俺、毒を喰らって最強の影の大精霊になる

@jutomofumofu

第一部:俺(影の大精霊)爆誕

影のヒーロー


「影は、光に殺される。そんな当たり前のことを、俺は消えゆく意識の中で理解した」


通り魔に襲われたのは、学校をサボった罰だ。


俺は豚みたいな奴隷商人のおっさんの影に転生していた。奴隷商人のあまりにも下衆な態度に愛想がついた。


「お、抜けるのか?てことは、こいつ死ぬよ?」


他の影の小精霊が言う。


それに答えず移動しながら、他の人の影で休憩を取る。


「早く退けよ」


そんな感じで追い出されるを繰り返していると、


正午の太陽が真上に来て、影が極限まで小さくなった瞬間。逃げ場を失い、蒸発するように消えかけていた俺。慌てて、大きなお屋敷の一部屋に駆け込む。


ダメだ…もう。


その瞬間、鉢植えが置かれて、影が維持できた。


「ごほっごほっ」


苦しそうに咳き込む少女に弱ってる影は言った。


「私のせいなの…この子についてあげて」


そう言い残すと、少女の影を離れ太陽に身を投じた。チリッ、と黒い霧が光に溶けて消えていった。慌てて少女の影に潜り込む。


「あれ?苦しくない」


少女は両親のもとに走った。母親の方が悲鳴をあげた。


「走ってはだめだ!」


父親が止めるのも無視して、抱きついた。


「おお!セレナに新しい影だ!」「良かったわ!」


両親の影も歓迎ムードだった。どうやら少女の名前はセレナというらしい。


「私治ったの!ほら、咳が出ないでしょう?」


その声を聞いて、俺は驚いた。 (…まさか、俺が影に入っただけで? 豚おやじの影にいた時は、ただ泥みたいに重いだけだったのに…セレナの素質か?)


母親の影が語りかけてくる。


「実は、メイドのアリスが私たちの宿主たちに分からない程度に毒を盛ってるみたいなの」


「薬どうしますか?」


執事が時計を見る。父親は「まだ不安だ。さあ、部屋に行こう」とセレナの手を引く。


「新入り、アリスが今、毒薬を調合し始めたぜ。作っちまえば何とでもなるからな」


すれ違ったメイドが頭を下げると、影が言った。


アリスはどこにでもいるような普通の子だった。しかし、影に禍々しくツノが生えている。その影が、ニヤリと歪んだ。


「お疲れさん新入り。お前の主、あと数回で『あっち』に行けるぜ」


その言葉を聞いた瞬間、俺の影が怒りで黒く染まった。


「さあ、お嬢様口を開けてください。あーん」

 

アリスが持ってきた「お薬(毒)」を、セレナが口にする寸前、影を伸ばして、液体の中から毒の成分だけを濾し取るように吸い上げる。


死を覚悟した。


しかし自分の中で何かが爆ぜるような音がした。


「レベルが上がりました。【影の大精霊:幼体】へ進化。スキル『毒素捕食』『影操(ぬいぐるみ)』を獲得しました」


毒を食べて膨れ上がった魔力。それを使って、セレナが心細そうに抱きしめている「ぬいぐるみ」の腕を、影の中からグイッと動かす。


毒を盛ったアリスを、ぬいぐるみの目がギロリと睨みつける。アリスだけが「えっ?」と顔を青くする。



毒を食らい、レベルの上がった俺の影が、床を這ってアリスの影へと迫る。 セレナの足元から伸びた影は、まるで黒い入道雲が湧き上がるようにボコボコと膨れ上がり、アリスの足元を絡めとった。


「ひゃっ!?」


何もない場所で、アリスが盛大に転ぶ。手にした毒入りのコップが宙を舞い、彼女自身の顔にバシャリとかかった。


「きゃあっ!?ど、毒が!誰か水を!」


その時、父親の様相が変化した。


「なんだと…?」


父親が詰め寄る前に母親がアリスをぼこぼこにしていた。


両親の足元では、両親の影がハイタッチしてきた。「おいおい新入り、初日から派手にやったな!」「最高!あのメイドの顔見た?」と影たちがきゃっきゃっと大騒ぎする。


「お前はこの子のヒーローだ!」

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