『直腐の魔眼』—— 対人関係トポロジーにおける観測圧の考察
雪沢 凛
第1話 あたし、やばいもの見えてない?
「またああいう本読んでるよ」
「まあ、いつものことじゃん」
「しかも『この二人推してます』って普通に言うタイプだし」
否定はしなかった。だって事実だし。
教室の後ろ扉に立ちながら、最新刊のBLライトノベルを手にしていた。表紙の二人は、どう見ても意味深な笑顔を浮かべている。隠す気も、恥じる気も、最初からない。
「ねえ、坂本と青木って、どっちが攻めだと思う?」
隣の席の子が、声を潜めて聞いてくる。
「それ聞く? どう考えても坂本――」
そこまで言いかけて、言葉が止まった。
……え?
坂本の肩のあたりに、何かが見えた。
光でも、影でもない。空気に溶け込みそうなほど細い――一本の
「……?」
瞬きをしても、その線は消えなかった。坂本の肩から、青木の手首へと、確かにつながっている。
「青木」
坂本がタオルを放り投げる。
「リュック、またずれてるぞ」
「自分でできるって」
「毎回そう言うよな」
そう言いながら、坂本は当然みたいに手を伸ばして、青木の肩紐を直した。
その瞬間――線が、はっきりと光った。
「……あ」
息を吸い込んだ。
怖かったわけじゃない。
むしろ――胸のど真ん中を撃ち抜かれたみたいな感覚だった。
「急に黙ってどうしたの?」
「ううん……ちょっと、衝撃受けただけ」
視線が、前の二人から離れない。
「ねえさ、」小声で聞く。「坂本が怪我したら、青木って真っ先に駆け寄ると思う?」
「そりゃそうでしょ。あの二人、仲いいし」
「じゃあ、もし青木が急にいなくなったら?」
「坂本、学校中探し回るんじゃない?」
笑った。
しかも、止まらなかった。
「なにその顔。気持ち悪いんだけど」
「だって――」
本で顔を隠しながら、声が震える。
「これ、妄想じゃない気がする」
チャイムが鳴る。
坂本は自然に青木が片付け終わるのを待って、二人並んで教室を出ていった。
線は伸びても、切れることはなかった。
深く息を吸う。
もしこの世界に、本当に「腐女子限定の特殊能力」なんてものが存在するなら――
「……当たりすぎでしょ」
そう思わずにはいられなかった。
当たりすぎて、少しだけ――世界が簡単すぎる気がした。
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