8月25日

駅前

若い男の二人組、何かの撮影の準備をしている。

カメラを持つ男とパーカーを着た男。

パーカーの男、目深にフードを被りその上からヘッドフォンをする。　

駅

改札を通る二人組。

カメラを伏せながら入る。

踊り場

初老の男が一心不乱にパンチをしている。

二人組、伏せていたカメラを踊り場の方へ向ける。

カメラの小窓には、パンチを繰り出している男が映っている。

パーカーの男が喋りだす。

パーカー男

「はーい、始まりました！気になる？突撃チャンネル！」

カメラの男、合いの手を入れる。

パーカー男

「えー、今日はですね、寸止めパンチおじさんに突撃しまぁ〜す♪」

カメラ男

「危なくない？」

カメラの男の乾いた笑い声。

パーカー男

「俺ね、アイツの被害者なんすよ。」

カメラ男

「と言うと？」

パーカー男

「音楽聞いてて気付いてないと思ったのか、いきなり繰り出されたの。」

カメラ男

「マジか。」

パーカーの男、パンチを空に繰り出す。

カメラの男、乾いた笑い声で返す。

パーカー男

「今日は、パンチの真意を確かめようと思いまーす！」

二人組、男に近付く。

男、気にせずパンチを繰り出している。

パーカーの男に気付いて近付く。

パーカー男

「おっ、来ましたねぇ。」

パーカーの男にパンチを繰り出そうとした瞬間、カメラの男が割って入る。

男、カメラに驚いて尻餅をつく。

その様子に大笑いする二人組。

男、恐れ慄く表情で後退りする。

ジリジリ迫る二人組。

パーカー男

「どうしたんですかぁ？」

男、素早く去ろうとする。

パーカー男

「ちょっと待ってくださいよぉ〜。」

執拗に追い掛ける二人組。

パーカー男

「お話聞かせてくださいよぉ〜。」

三人で駅の外に出る。

パーカー男

「ねぇってば、おい！」

二人組、男を取り押さえる。

パーカー男

「僕、怒ってるんですよぉ？

このままケーサツ行ったって良いんですよ？」

男　　

「……。」

パーカー男

「黙るなよなぁ、おい！」　

カメラ男

「まぁまぁ、落ち着いてー。」

パーカーの男、カメラに向き直る。

パーカー男

「失礼しました♪」

カメラ男

「まぁ、殴られそうになったんだから仕方ないよね。」

パーカー男

「おじさん、僕達ぃ、ちゃんとお話してくだされば、何もしませんよぉ？」

男、恐怖の表情から一転、大声で笑いだす。

二人組が怯んだ瞬間にすり抜ける。

男　　

「そうか！狩られた恨みだな！」

パーカー男

「え……？」

男　

「俺はお前達を地球に還しているんだ！」

カメラ男

「は……？」

四方八方にパンチしながら暴れる男。

二人組、呆然と眺めている。

男　　

「ほらほら、これで還る、還れるぞ！

有り難く思え！」

男の手がカメラレンズに当たる。

カメラ男

「おい！弁償だぞ！」

男、カメラレンズに戸惑う。

カメラの男、その様子を収めるべく身体を向ける。

男、恐れ慄く表情に戻る。

カメラ男

「ねぇ、弁償だよ？おじさん。」

二人組、男に近付く。

男、カメラを呆然と眺めている。

「確実に当てたのに……？」

と何度も呟きながら崩れ落ちる。

正面を向いたまま呟き続けている。

瞳孔が縮み、瞳に光が入っていない。

二人組、男の異常さに気付き、ゆっくりと距離を取る。

カメラの男、男の肩を指先で揺さぶる。

呟いたまま、反応しない男。

カメラ男

「……やべぇよ。」

二人組、男から走って逃げていく。

固まったまま呟き続ける男。

そこに駅員が走ってくる。

駅員

「大丈夫でしたか？」

男、空を見つめながら呟き続ける。

駅員、心配して男の肩に手を掛ける。

男の肩がビクッと震える。

慌てて手を離す駅員。

駅員

「大丈夫、、、ですか？」

男　

「俺が当てたのに俺が当てたのに俺が当て……。」

駅員

「もう危険ですから、辞めてください。」

男　

「おr……かr……。」

駅員

「……。」

男、寂しく笑いながら呟き続ける。

駅員、仕方なく様子を見る。

駅員

「……せめて、違う所でやってください。」

男　

「何故だ何故だ何故だ何故だナz……。」

駅員

「……。」

男　

「ははははは。」

男、力無く立ち上がりフラフラと歩きだす。

支えようとは思うが一歩が踏み出せずにいる駅員。

男の姿がゆっくりと夕日に消えていく。

駅員、男を見送る。

苦虫を噛み締めた表情で事務所に戻る。