翳り

人は不完全な死体として生まれて徐々に完全な死体になっていく、と誰かが言っていた。

なら彼女は今どれくらいの死体なのだろうか。

不完全な状態を仮に50%と置いたら大体95%くらいにはなるだろう。

それくらいの時間しか、もう残っていないらしい。

診察室の加湿器がたてる音と、先生がマウスをクリックする音がやけに大きく聞こえる。

モニターに表示された彼女の内臓には明らかな靄がかかっていて、なにか不吉な形に見えた気がした。

彼女と私は姉妹として育てられたが、正確には違うらしい。

従姉妹だか再従姉妹だからしく、血は繋がっているはずだ。

でも血のつながりなんて調べなければわからないから気にしていないし、物心ついた時には既に彼女はお姉ちゃんで、私は妹だった。それでいい。

ところで余命4ヶ月というのは一般的にどれくらいなのだろう。

ついさっき禿げた医者に言われた数字は4ヶ月から半年、だった。

姉はガーンと言って、1人で笑っていた。

病名を宣告された時も同じことをして1人でくすくす笑っていた。

そういうところが好きだなと思う。

でも今はそんなどころじゃない。余命4ヶ月だ。長く持っても半年。

そんなのってない。

ようやくキラキラキャンパスライフ(自称)を送り始めて、毎日楽しくって仕方ないと言っていたのに、なんで80億人の中から姉が、19にもなっていない姉が、どうして。

悪いことも恨みを買うようなことも何もしていなかったのに。

病院に向かう前、姉にそれを言ったら、

「美人薄明っていうでしょ？そういうことよ！」

と言ってまた1人で笑っていた。

私は笑えなかった。

ちなみに診察室から出てからは私に小声で、

「最近余命バトル流行ってるらしいし、最先端だねっ」

と言って微笑んでいた。

もう流行りは過ぎている気がすると返すと、若干悲しそうにしていた。