ぷらいまる。
茅花
恋文の行方
廊下を歩いていた。ガラスに映った自分を見て、鎖骨まで伸びてしまった髪を切りたいなと思う。でも結べなくなっても困る。ショートにしたら男に間違えられる。
「安里先輩!」
背後から名前を呼ばれて振り返った。女の子二人が私を見上げている。
「お疲れ様です」
おじぎをした黒髪のショートカットは同じ剣道部の後輩ミッちゃんだ。
「先輩あの、・・・ねえ自分で言える?」
ミッちゃんの隣にいる子を私は知らないが、もじもじした態度から予想ができた。二人は「でも」「だって」と押し付け合うように小さな声で話して、結果ミッちゃんが話すことに決まった。
「遼太郎先輩に」
「わかった」
そうだと思った。私は彼女らに向かって右手を広げる。恋文かLineのIDを渡して欲しいとか、そんなところだろう。案の定私の手のひらに付箋が貼られた。見ないようにして両の手を合わせる。
「お、お願いします」
「任された」
二人が深々と頭を下げてくる。私は片手を挙げてそれを返事とした。顔をあげたお友達は不安そうにも、でも満ち足りた風にも見える。
遼太郎は中学からの友人で、そのため私はこうやってキューピッド役を頼まれることが多々ある。
「安里先輩かっこいいね」
私が歩き出すと二人が話し始めたが、聞こえないふりをする。
「うん!先輩は強くてかっこいいの」
「うん」
それは私にとって最高の褒め言葉だった。照れくさいけれど、もっと聴いていたいような。
「かっこいいね。強そう」
でも強そうって、どうよ。あんまり嬉しくない。
「遼太郎、お届け物です」
「うわ、またかよ」
一緒にいた将二が眉毛を八の字にする。同情しているのだとわかる。
予想通り遼太郎は情けない顔をした。その表情をする時の彼は子供っぽくて、とても可愛らしい。それからいつもと同じように「はあ~~~っ」と長い溜息を吐く。
最初の頃は「おにいさんモテるねえ」なんて茶化していたものだけど、こうも頻繁で本人が乗り気でないのを目の当たりにするとそれもする気にはならなくなった。
「私が話しようか?」
「・・・頼めるか?」
「担々麺な」
「俺は冷やし中華」
「なんでおまえもなんだよ」
高校入学後すぐに開幕した彼のモテ期は少なくとも卒業するまで続くのだろう。一年生の終わりにピークを迎えて以後は落ち着いたかに見えたが、二年生の七月になった今では後輩からの求愛が後を絶たないでいる。
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