第九話

田中さんに案内されて、私たちは倉庫エリアへと向かった。

エレベーターで地下二階へ。

エレベーターの中も、ハイテクだった。


壁には透明なディスプレイが埋め込まれていて、現在の階数、速度、外の天気まで表示されている。


「今日の天気:晴れ、気温22度、湿度45%、風速2m/s」


こんな情報、エレベーターに必要?

でも、この学園では、こういう「過剰な情報提供」が当たり前なんだ。

扉が開いた瞬間、


「うわ……」


思わず声が出た。

そこは、想像を絶する光景だった。

倉庫は、体育館三つ分はあるだろう巨大な空間だ。天井は高く、無数の荷物が整然と積み上げられている。


でも驚いたのは、その「システム」だった。

床全面が、淡く光っている。

青白い光が、格子状に床を覆っている。

まるで、トロンの世界に迷い込んだみたいだ。


「これ、重量センサー床です」


田中さんが説明する。


「荷物を置くと、自動で重量と内容物をスキャンします。RFID(無線タグ)と連動していて、どの荷物がどこにあるか、リアルタイムで把握できるんです」

「すげー……」


瑠衣が呟く。

私も、同じように驚いていた。

床に荷物を置くだけで、重量と内容物が分かる。

しかも、位置情報まで記録される。


これなら、荷物を探す手間が省ける。

天井を見上げると、そこには無数のレールが張り巡らされていた。

そのレールに沿って、小型のロボットアームが動き回っている。荷物を掴んで、別の場所へと運んでいるのだ。


ロボットアームは、まるで生き物のように滑らかに動く。

荷物を掴む時も、優しく、でも確実に。

落とすことなく、正確に目的地へと運ぶ。


「自動搬送システムです。人間が運ぶには重すぎる荷物や、高所の荷物は、このシステムが自動で運びます」


田中さんが続ける。


「AI が最適なルートを計算して、最短時間で運搬します」

「へー……」


私は感心する。

人間とAI、ロボットが協力して作業をする。

これが、この学園の「普通」なんだ。


「皆さんには、このARゴーグルを装着してもらいます」


田中さんが、私たちにゴーグルを手渡した。

ゴーグルは、軽くて、装着しても違和感がない。

装着すると、視界に様々な情報が表示された。

運ぶべき荷物が、緑色に光って見える。

その荷物の上には、重量、内容物、運搬先が表示されている。

さらに、最適なルートまで、矢印で示されている。


「すごい……」


思わず呟く。

これ、某ECサイトの巨大倉庫よりも100倍くらいすごいやつじゃん。

いや、もっとすごいかも。

視界の端には、自分の作業効率、消費カロリー、心拍数まで表示されている。

完全に、ゲームのHUD(ヘッドアップディスプレイ)だ。


「では、作業開始です。頑張ってくださいね」


田中さんがそう言って、私たちを倉庫に残して去っていった。

私と瑠衣は、顔を見合わせた。


「じゃ、やりますか」

「りょーかい」


瑠衣が親指を立てる。

私は、ARゴーグルが示す最初の荷物に向かった。

段ボール箱。サイズは中くらい。

重量表示を見ると、

『32kg』


「……重っ」


持ち上げた瞬間、思わず声が出た。

予想以上に重い。

腕がプルプルする。

三十二キロって、10kgの米三袋分だよ?

無理無理無理。

でも、持ち上げないと。

私は、歯を食いしばって、荷物を持ち上げた。


『ピピッ』


SAが反応した。


『作業効率:95%。良好です』

『心拍数:82bpm。正常範囲』

『筋肉負荷:中程度』


「……AIに励まされても嬉しくない」


思わず呟く。

というか、筋肉負荷まで測るな。

私は、ARゴーグルが示すルートに沿って、荷物を運ぶ。

矢印に従って歩くと、最短ルートで目的地に着く。

便利だけど、なんだか自分が機械になった気分だ。

隣を見ると、瑠衣も同じように荷物と格闘していた。


「だるー……これマジ無理」

「頑張ろう」


私が励ます。


「ひなちん、余裕そうじゃん」

「全然余裕じゃないよ」


私は苦笑する。

実際、腕がもう限界に近い。

でも、弱音を吐いたら、瑠衣も諦めちゃうかもしれない。

だから、私は笑顔を作る。

こうして、私たちの重労働が始まった。


作業を始めて三十分。

私の体は、すでに悲鳴を上げていた。

腕が痛い。

腰が痛い。

足も痛い。

全身が痛い。


「もう無理……」


瑠衣が、荷物を置いて、その場にしゃがみ込む。


「瑠衣、大丈夫?」

「全然大丈夫じゃない……」


瑠衣が、涙目で言う。

私も、同じ気持ちだ。

でも、まだ三十分しか経ってない。

あと七時間半もある。

絶望的だ。

その時、


『ピピッ』


SAが反応した。


『休憩時間超過。作業効率低下を検知』

『作業を再開してください』

『休憩は、規定の時間内でお願いします』


「休憩してないんだけど!」


瑠衣が叫ぶ。


「ただ、しゃがんでただけなんだけど!」


『しゃがむ行為は、休憩と判定されます』


「理不尽!」


瑠衣が、SAに向かって叫ぶ。

私は、思わず笑ってしまった。


「瑠衣、AIに文句言っても無駄だよ」

「分かってるけど! でも言いたくなるじゃん!」


瑠衣が、むくれる。

その顔が、可愛くて、私はまた笑ってしまった。


「ひなちん、笑わないでよ」

「ごめんごめん」


私は、瑠衣の肩を叩く。


「でも、頑張ろう。一万三千五百SPのために」

「……そうだね」


瑠衣が、立ち上がる。


「金のためなら、頑張れる」

「それでいいと思う」


私たちは、再び作業を開始した。

でも、

作業を再開して十分後、


『ピピッ』


SAが、また反応した。

『作業効率:78%。低下しています』

『心拍数:95bpm。やや高め』

『疲労度:42%』

『このペースでは、目標作業量を達成できません』

『作業速度を15%向上させてください』


「無理言わないで!」


私は、思わず叫ぶ。


「これ以上、どうやって速くするの!」


『最適な動線を提示します』


ARゴーグルに、新しいルートが表示された。

さっきよりも、複雑なルート。

でも、確かに、これなら少し早く運べるかもしれない。


「……分かったよ」


私は、ため息をつきながら、新しいルートに従う。

AIの指示に従うしかない。

この学園では、AIに逆らうことはできない。

それが、この学園のルールだ。



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春、息ができない人と、恋と課金 ころね @korone_

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