「お決まり」を回避し続けたらいつの間にか美女達に囲まれていたようでして/なのむ

みゐ/なのむ

1話目 思惑通りに行かないのが始まりでして。

有名俳優、橋本雄也の父と料理研究家、兼動画投稿者の母を持っている自分、蒼井優(親バレしないように仮名)は決まった展開が気に入らない。


刺激こそが物事をより良くするという考えも無きにしも非ずだが、そんなのはどうでもいい。


彼が求めているのは普通の生活だ。


常識や一般というものから逸脱している漫画やアニメなどの「お決まり」な展開、普通な生活を求める彼にとっては何に変えても避けなければならないもの。


だから彼はここまでの人生を弄りにひねくり抜いて過ごしてきた。


誰も寄せ付けない性格こそが安定を生み出すと彼は考えていたからだ。


高校生活一日目というお決まり展開が起きそうな今日も、ひねくれた生活で安泰を紡いできた小中学校を糧に乗り越えようと思っているようだ。







「いやー、いい朝だね」


止まる気配のない目覚ましの音を自分の手で軽く抑え、一つ欠伸をする。


今日から始まる高校生活、ありふれた生活を続けるという強い意志の元で飛び起きにチャレンジ。失敗。


今日は運が悪いようだ。


時計が示す時刻は6時50分、学校は8時に登校すれば良いので十分間に合う時刻だ。


「おはよう、サボくん」


そう言って声を掛けるのは、窓際に置いているサボテン。声をかけてからカーテンを開けるのが自分のマイルーティンというやつだ。


リビングに行くと、既に起きて2人分のコーヒーを淹れてくれている母がいる。


「あら優、おはよう」


「ああ、おはよう」


何気ないこの挨拶も嫌いではない。

自分の生というものを実感させてくれる。


ちなみに、父は単身赴任で東京の方に住んでいるので長いことあっていない。が、テレビでは見ているので実質会っているようなものだと思っているのでまあいいだろう。


「そういえば、お父さんから連絡来てたわよ」


「何て?」


「連絡先だけ繋ぎたい、だって」


そういえば、単身赴任をしたのが中学に入る前だったからまだスマートフォンを持ってなかった時だ。


「わかった、QR送っとくから転送よろしく」


「はーい」


最近の世の中は便利になったもんだ。

若者が言う言葉じゃない気もするけどね。


母に淹れてもらったコーヒーを片手にリビングに座ろうとすると...


「おはよう!幼なじみさん!」


「...何でいるんだよ」


そこにはココアを両手に持って、端っこにちょこんと座っている金髪の幼なじみ。


「いつも、というか前までこんな早起きじゃ無かったはずだが?」


そう、何を隠そう中学校までは思うところはありながらもこの幼なじみ、成瀬朱莉と共に登校していた。


小さい頃から良く一緒に遊んでいたから分からなかったが、客観的に見ても今の彼女はまあ可愛らしいだろう。


小柄ながらも引き締まった体と大きめな胸、レギンスを履いていないので自然と入ってくる細くて艶やかな白色をした長い脚。


別にモテ願望はないが、羨ましくはある。


「高校初日ぐらいちゃんとするっての!!」


ほらほらここ座って、と言わんばかりに手をトントンとして隣に誘う朱莉。


断るのもあれなので腰をゆっくり降ろす。


「あの寝坊助さんがここまで早く来るとは流石の僕でも思わなかったよ」


「なんだとー!失礼な!両親だけで図に乗るんじゃないよ、このバカタレ!」


そう言ってココアを置いてぽこぽこ叩いてくる朱莉。

痛くも痒くもないがコーヒーが零れそうだからやめて欲しいな。


だが、この成瀬朱莉という人物は僕の両親を知る数少ない1人でもある。


もちろん彼女も状況を読んで、情報は公に出さずにしてくれているからそういう所はありがたい。


朱莉はマンションの2個隣の部屋に住んでいて、しょっちゅう遊びに来る。最近は勝手に上がり込んでゲームをしてるぐらいだ。


だが朝にはめっぽう弱く、一緒に行こう!と言う割に全然来ないのでこちらから起こしに行っていたのだ。


しばらくの間、朱莉とこれまでについて談笑しながら時を過ごし、行く時間になったので最後に朱莉にこう伝えておく。


「高校でも、目立つことはしたくないんだ。

そこだけよろしく頼むよ」


「はいはい、分かってますよー。その顔があればまあまあモテると思うんだけどなあ」


勘弁してくれよ、とは思ったがまあいいけどさ、と言ってあっさり手を引いてくれた。


でも少し気になるので鏡の前で「俺ってイケメンなのか?」と自問していた所、え、キモと普通に気色悪がられたのでもう不用意には考えないようにしよう。





朱莉が早起きだったこともあり、学校には予定よりも早く着いた。


高校生活一日目なので、談笑の声が聞こえることもなく自分の席を確認し静かに席に着いた。


隣の人はまだ来ていないらしい。


自分のクラスは1年A組で、朱莉と同じだった。


知らない人が増えたため、僕と朱莉の関係を知る人も多くないので自分には話しかけないでくれている。


まもなくするとチャイムが鳴り、みんな席に着いた、隣の人は依然として来ていないようだが。


ガラガラとスライド式である教室のドアが開き担任らしき女性が入ってくる。


「今日からこのクラスの担任、神室だ。1年間よろしく頼む」


軽く自己紹介をして、今日の流れを説明して最後に出席を取るようだ。


小中学校と1番を譲って来なかった蒼井、という苗字だが、愛野という苗字が目の前の席に座っており2番目に名前が呼ばれる。


そうやって知らない人達の名前と、その人の相槌が何回も聞こえてくる。


聞くだけあまり意味はないので、こういう時のために持ってきた文庫本に手を付けようとすると...


「すいませーん!!遅れましたああ!」


そうやって勢いよく入ってくる元気ハツラツな女子生徒A。


「初日から遅刻か。まあいいお前が霧雨か?」


「はい!遅れてしまいすみません!」


「まあいい、席に着け」


そう言って担任が促すとありがとうございます、と言って小走りに動き出す女子生徒A改め霧雨。


霧雨、霧雨...どこかで見た名前だな。

あれ?もしかしなくてもこれは...


「よろしくね!優くん!」


「...」


ああ終わった。

隣の奴だったようだ。







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