Ave Maria
逢坂らと
アヴェ・マリア
三人の、少年がいた。
背は小さいが頑張り屋のプルービア、
しっかり者で面倒見の良いロサ、
お
三人は、いつも仲良しで
よく、古びた廃墟の教会へ遊びに来ていた。
プルービアは毎日、
飾られてあるボロボロの
マリア像に向かってこう言った。
あゝ!かなしき
お聞きください
私は朝が怖いのです
私たちは朝まで安らかに眠ります
けれども
私はいつまでも眠っていたいのです
幸せな夢をずっと見ていたいのです
この世は悪夢も同然だと思っていた。
ロサはみんなが幸せならそれで良かった。
あゝ!やさしき乙女よ
私の家族を、
お守りください。
私の身はどうなっても構いません
全ての人が幸せでありますように
ロサにはたくさんの弟妹たちがいた。
ロサは長男であった。
そして少し老いた父と、
病気がちな母もいた。
アモルはこのマリア像に
恋心を抱いていた。
あゝ!美しき聖母様!
どうか私を
この
私は貴女様に救われたいのです。
プルービアとロサ、そして聖母マリアしか
アモルの眼中になかった。
———————————————
そんなある日、
アモルは13歳になった。
その日は3人で、アモルの誕生祝いを
聖母マリアの
きっと運がなかったのだろう。
昼過ぎに、ロサの母の体調が悪化したのだ。
誕生祝いは中止となった。
その晩、ロサの母が死んだ。
そして悲しみのあまり、ロサの父も病に倒れ、
一晩も経たずに亡くなった。
ロサが1人で、家を支え、
弟妹たちを守らないといけなくなった。
ロサのいない、
プルービアとアモルだけの日々が続いた。
それから一年、今度はロサの誕生日が来た。
プルービアは、長らく会えていない大切な仲間に
何か特別なことをしてやりたかった。
だからプルービアは、その小さな頭で一生懸命考えて、
ロサに宝石を渡そうと考えた。
宝石を渡すのは友情の証だ。
ロサは
好きだった。
しかし珍しい色で、ましてや宝石なんて
そう簡単には売っていない。
けれど幸運なことにプルービアは良い噂を聞いた。
この町の向こう、山奥に住む
とある伯爵夫人がその色の宝石を持っているというのだ。
くだらない、子供の安易な考えである。
通じるはずもないが、
プルービアはその夫人の家を訪ねた。
夫人はプルービアを見るなり
嫌に甲高い声を上げ
プルービアの頬に両手を当てて、微笑んでみせた。
不思議な感覚だった。
プルービアは今まで、
このような行為をされたことがなかった。
この人こそが聖母マリアなのではないか、
と思うほど美しい姿、動きだった。
一方、アモルは孤独だった。
ロサと会えなくなってから半年、
プルービアが行方不明になって3ヶ月が経った。
あゝ!女神様よ
私は一生独りで生きてゆくのでしょうか?
…いいえ、私は貴女の下へ参ります
今、すぐにでも貴女の下へ参りたいのです
その夜、アモルのいる教会に
1人の男が訪ねてきた。
神父らしき格好をしていた。
アモルは必至の思いで男に
どうか、私をマリア様の下へ連れて行ってください。
何でもしますから、今すぐに!…お願いします!
男は軽く微笑んだ。
そのままアモルの手を引き、
綺麗な教会へと向かった。
着いた教会は恐ろしく綺麗だった。
アモルは見たことのない世界に感動した。
もっと、世界はもっと汚く、古びたものだと思っていたから。
本当に、恐ろしかった。
恐ろしい、夜でした。
神父に目玉を舐められたのです。
食べられはしませんでした。
アモルの綺麗な
舐められたのでした。
生まれて初めての経験で、とてもショックでした。
アモルは裸足で、寒い冬の夜を駆け抜けて
いつもの教会廃墟へと向かいました。
聖母マリアはいつでも微笑んでいました。
アモルはその、一枚の絵画に抱きつき、
そして目を閉じました。
それ以来、アモルの声を聞いた者はいませんでした。
———————————
さて、家事に追われていたロサの下に
一つの噂がやってきました。
綺麗なブレンドの髪を持つ少年が、
伯爵夫人に殺された、というのです。
この地域で金髪は珍しいものでした。
ロサははっきりとわかりました。
プルービアだ。
プルービアが殺された。
ロサは急いで教会廃墟へと向かいました。
走って走って走りまくった。
弟妹たちも、成長した。
食事は用意してあるから、しばらくは大丈夫だろう。
教会の中は、ひどい異臭でした。
ものすごく臭かった。
覗いてみると、そこには
それはまだ、人の形を残していました。
骨になっていてもわかる、それは美しい少年でした。
ロサはその場に
ひたすらに祈りました。
目の前のマリア像に向かって、
ひたすら叫んでいました。
あゝ聖母マリア様よ!!!
貴女は怖くて仕方なかったでしょう
大人になるということは
私たちにとってとても恐ろしいことなのです
大切な人を2人も、失った。
あれだけ、毎日のように願っていたのに。
私はどうなっても良い、ただ2人を、
プルービアとアモルを天国に行かせてやってください。
彼らをお守りください。
私にはまだ家族がいます。
この地獄で生きる使命が残っています。
しかし彼らには家族がいないのです。
独りなのです。
あゝ!儚き乙女よ!!!
彼らを、苦しみから解放してやってください。
どうか、お願いします。
アーメン
【終】
牡丹雪が降り頻る聖夜に。
Ave Maria 逢坂らと @anizyatosakko
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます