人類は皆薄毛であることの証明

柿市杮

人類は皆薄毛であることの新しい証明

 どうも、柿市杮といいます。高校では理系を選択しています。理系といえば数学ですね! 僕は特に数学と生物が好きなんですよ。

 ところで数学といえば、こんなジョークを聞いたことはありませんか?


『世の中の人間は全てハゲである』


 これはネットでもよく紹介されているパラドックスで、『数学的帰納法』というテクニックを使うことでいつも証明されています。

 ですが、僕はいつもそれを見るたび思うのです。「これじゃだめだ!」と。

 まず、証明方法が一つしかないというのが気に食わないですね。色々な道筋があってこそ数学は面白いのですから。

 そしてもう一つ、圧倒的に気に食わないポイントがあります。それはなんなのかを説明するために、一度従来の証明方法を確認してみましょう。


 ここでは、先述の『数学的帰納法』というものを使います。知っている前提で話を進めるので、知らない方は検索してみてください。比較的理解はしやすいと思います。

 それでは、全人類をハゲだと証明しましょう。


 まず、髪の本数が0の人はハゲです。これに異論を差し込む余地はどこにもありません。次に、髪の毛がk本(kは自然数)ある人はハゲだと仮定します。そして最後に、ハゲに一本ぐらい髪の毛が増えたところでハゲであることは変わりません。つまり、髪の毛がk+1本の人もハゲです。


 以上のことから、全人類は皆ハゲです。


 ……と言われて、納得できましたか? そうですね、一つおかしなところがあったはずです。それは『ハゲに一本ぐらい髪の毛が増えたところでハゲであることは変わりません』という部分です。これは一切の証明もなく用いられており、またハゲの定義も明確ではありません。こんなガバガバな論理で僕も皆さんもハゲであると結論づけるのはいささか早計ではないでしょうか。


 そのため、今回は全く違うアプローチで、定義もしっかりと定めて完璧な証明を目指します。遅くなりましたが、本編開始です。


 最初に断っておきますが、今回は全人類が『ハゲ』であることではなく『薄毛』であることを証明します。また、僕は数学ガチ勢ではないので、おかしなところがあったら鬼の首を取ったように指摘するのではなく、優しく教えてください。


 それではまず、『薄毛でない人』が何なのか定義します。まずはこんな感じでしょうか。


『薄毛でない人とは、頭部のうち毛髪で覆われておらず頭皮が露出している部分の見かけ上の面積が、見かけ上の頭部の面積の半分未満である人のことである』


 ちなみにここでいう『見かけ上の面積』とは頭部の表面積ではなく、写真に撮った時のように一枚絵にしたとき、そこに写っている面積ということです。


 一見ちゃんと定義できているようですが、まだ足りません。たとえば頭頂部だけがハゲている人を下から見上げた時、頭皮が露出している部分は見えず毛髪で覆われている部分だけです。よって定義よりこの人は薄毛ではなくフサフサであるということになりますが、これは明らかに間違いですね。見かけ上の面積なので、視点を弄ることでハゲ隠しができてしまうのです。よって、毛髪が生える場所全てを一度に見えるようにするため、定義に『真上から頭頂部を見たとき』という条件が加わります。


 さらにこの定義では、『本来薄いが普段はボリュームを多く見せている』タイプの薄毛を薄毛だと判別することができません。そのため、水を被ると頭部が残念になる方も、強風にあおられてセットが崩れると頭皮が見える方も、全て等しく豊髪となってしまい、これも明らかにおかしいです。このようなごまかしを防ぐため、『どのような髪型になっても』という文章も定義には必要です。


 そして観測者と頭部の距離によって見え方が変わることを考慮し、『観測者は自由に距離を変えられ、またどの距離でも頭部をはっきりと観測できる』という文も加えましょう。


 それでは最後にかつらや帽子を取り去るための『頭皮を遮っていいのは毛髪だけ』という一文を加え、薄毛でない人はこう定義されました。


『毛髪がどんな状況でも、真上から頭頂部を見た時に毛髪に覆われておらず頭皮が露出している部分の見かけの面積が、真上から頭頂部を見た時の頭部の見かけの面積の50%未満であること。また観測者は必要に応じて頭部からの距離を自由に変えることができ、どんな距離だとしても観測者は頭頂部をはっきりと観測することができる。毛髪以外の頭頂部を覆う、または隠すもの(帽子、かつらなど)は存在しないものとする』


 これに当てはまる人は薄毛ではなく、当てはまらない人は薄毛です。


 それでは次に、人間のデータを揃えましょう。さまざまな文献から、次のように考えます。


・毛髪の直径は0.1mm

・頭に生えている毛髪の総本数は十万本

・毛髪の断面は円

・人の頭を真上から見た形は楕円とし、その長径は9cm、短径は8cmとする


 頭の形など簡略化したところはありますが、概ね納得できる数値でしょう。それでは、証明に入ります。

 ちなみに円周率は3.14とします。


<証明>

 人間のデータより、頭頂部を真上から見た時の見かけの面積は8×9×3.14=226.08(cm2)……①

 頭頂部が地面に対して垂直方向に向いている時、人間の頭髪を全て地面に対して垂直に立たせた状態を考える。真上から頭部を見ると毛髪は直径0.1mm=0.01cmの円の形になるため(観測者は頭頂部から自由に距離を取れるので、毛髪がどんな長さでもそう見ることができる)、毛髪一本で覆える頭皮の見かけの面積は

 0.005×0.005×3.14= 0.0000785(cm2)

 これが十万個頭皮に存在するので、毛髪全体で覆っている頭皮の見かけの面積は

 0.0000785×100000=7.85(cm2)……②

 ①、②より、頭部の見かけの面積に対して毛髪に覆われておらず頭皮が露出している部分の見かけの面積の割合は


 100−7.85÷226.08×100=100−3.472222……≒96.5(%)


 これは薄毛でない人の定義に当てはまらないので、薄毛。




 かなり大雑把ですが、以上、証明でした。たとえあなたが薄毛で悩んでいても、全人類が味方であるとこれで分かったので、もう心配しないでください!

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