影渡りの器 ~暗殺者、殺した最強王子を憑依させる~

昼間野日向

プロローグ

 人間の厄介なところとしては、その特異な魔力の吸収能力にある。魔族や魔法生物、あるいは死んだ仲間の魔力の根元を取り込む。それによる根元的な魔力の融合は、能力の劇的な向上や、新たな魔法への覚醒をもたらす。さらに、その肥大化した力は血統を通じて子へと譲渡される。世代を重ねるごとに、人間の力は底なしに深まっていくのだ。


 今日、この世界に点在する王国を治めている者たちは、かつて魔族と人間が争った大戦の英雄たちの末裔である。英雄の血、すなわち英雄の力は脈々と引き継がれる。ゆえに、その国を治めている王族とは、単なる支配者ではない。彼ら自身が国防力そのものであるため、その身柄には国庫を傾けるほどの厳重な警備が敷かれることとなる。特に、その国を継ぐであろう王子達は城の奥深く、何重もの結界に守られた鳥籠の中で生きることを強いられる。

 外の世界を自由に見る事は許されない。

 民衆と触れ合うことも許されない。

 ただひたすらに、死者の力をその身に蓄え、次代へと受け渡すための器として知識や教養を満たすだけの日々。


 大国ゾナリオの第一王子、ソルガ・ゾナリオ。

 彼はその歴史の中でも、最も多くの、そして最も強大な死を詰め込まれた存在だった。

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