失格

雨宮翠紗

天使失格(1)

『天使失格』

「お前はもう天使ではない」

放たれた言葉。

もがれた羽。

———それでもなお、彼は死ねない。


* * *


「· · · · · ·久しぶりだな」

 その声の主は、天使であった。

 純白の羽、青みがかった銀の髪、碧の瞳、透き通るように白い肌。一人ならざる者の姿。


 雲の上———天界から、この地上———下界に降りて来た彼は、人の犯した罪を知ることができた。そうして、悪人を善にするのが彼の役割だった。


「· · · · · ·人が、いない」


 およそ3年ぶりに降りた下界には、出歩く人がまるでいなかった。散歩をする人も、買い物をする人も、道端で話し込む人も、誰も。


 扉に錠がかけられ、窓は布で目張りされ、人々は家の中に引きこもっていた。


「何故人々は、外にいないのですか?」


 彼はホームレスの女性に尋ねた。彼女は、声を絞り出す様にして答えた。


「· · · · · ·皆死にたくないんだろ」


 諦めた様な表情。

 いつも人が溢れ返っているスラムに、老婆独りしかいない。


「どういうことですか?」


「処刑されるんだよ、誰彼構わず」


 彼等の間を、冷たい風が通っていく。


そこに、


「お前らは何故、ここにいる? 誰の許可を得た?」


 傭兵が来た。



 その彼の罪は、


殺人28件

暴力861件

他にも数多あった。


「お前は· · · · · ·」


 天使を見て、彼が言う。口の端が、歪んで———。


「来い。そっちのババアは許してやる」


 そう言い、天使の手を拘束して連れ去った。人を傷つけることを禁じられている天使は、抵抗できない———。


 馬に引かせた車に天使をつないで、傭兵は笑った。


「これできっと、階下は喜んでくれるだろう。そうすれば、俺の階級は上がる· · · · · ·」


 何も言わず、天使はだじっとしていた。



 王城に着くなり、天使は王の前に引きずり出された。

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