荊棘と鋼鉄の王冠 ~亡国の庭師姫と魂を商う古き妖~
離風
第1話 雪原の庭師と囚われの古き妖
シャベルが
カン、カン、カン。
ここはラインハルト帝国軍事学院。
銅像が
彼は折り目正しいダブルブレストの軍用コートを
「……皮肉なものね」
白い息を吐き出すと、それがマフラーの
もし十二年前なら、私が今立っているこの場所は「ラインハルト」ではなく「
しかし今や、あの精密な
そして私、サラ。かつてノヴゴロド王国の
今では灰色のみすぼらしい
「おい! そこの
背後から蒸気機関の
私はすぐに頭を下げ、肩を
「さっさと動け! 今日は『
声の主は金髪の貴族の少年で、白い手袋をはめた指で私を指差し、まるで道端の石ころでも見るような眼差しだった。
「大変申し訳ございません、
私は深く頭を垂れ、帽子の縁で深緑の瞳を隠した。彼らの視線が、私の殺意に気づかないように。
「ふん、使えない
貴族の少年は
「そういえば、この呪われた場所は昔『魔女の聖地』とかいう場所だったらしいな? 聞くところによると、あの魔女どもは木の枝と水晶を振り回して踊っていただけらしい。我らの
「ハハハ、
彼らは談笑しながら暖かい教室棟へと入っていき、蒸気パイプから噴き出す熱気が瞬く間に彼らの背中を
シャベルを握る手に力を込めた。
爪が
木の枝を振り回す?
違う。あれは枝なんかじゃない。
目を閉じ、深く息を吸い込む。感じ取れる。この厚いコンクリートと積雪の下、この学院の地底深くで、焼き払われた
彼らは叫んでいる。彼らは鮮血を
私がたった一つ念じるだけで、この木の
けれど私は手を
掌の中で、発芽させようとしていた種子が、再び休眠状態へと戻る。
「……耐えるのよ」
自分に言い聞かせる。
まだその時ではない。私は最後の
私は再びシャベルを持ち上げ、皇帝の
この
午後の鐘が鳴り響いた時、後方勤務を
彼は
「サラ、
「地下牢、ですか?」
私は一瞬呆けた。あそこは学院の
「海軍が昨日、奇妙な『貨物』を送ってきたんだ」
軍需官は歯の隙間から声を絞り出すように言った。
「あの
彼は鉄製のバケツを私の足元に投げつけた。
バケツの中には数切れの血まみれの生肉が入っており、鼻を突く生臭い海の匂いがした。
「いいか、あれに話しかけるな。目も合わせるな。もし腕や脚を失っても、学院は一切責任を負わんからな」
そのバケツを見つめ、心の中に妙な予感が湧き上がるのを感じた。
海軍? 南方からの貨物?
この鋼鉄に支配された内陸の学院で、海の生臭い匂いが現れるなど初めてのことだ。
私は重い鉄バケツを手に取り、機械油の匂いが漂う廊下を抜けて、学院の地下最深部へと向かった。
階段が下へと延びるにつれ、空気は湿って冷たく粘りつくようになる。整然としていた煉瓦の壁は水が
ここもかつてはボヘミアの魔女たちが星辰の薬剤を貯蔵していた
廊下の突き当たりには、
中にはベッドもなければ
その「貨物」を見た。
それは――いや、「彼女」だ。
彼女は半身を濁った水に浸し、両手を太い
それは驚くほど美しい
「
思わず古語で
それは七魔女建国伝説の中にしか存在しない生物だ。彼女たちは長い寿命と人の心を見抜く
ガチャン。重い鉄バケツを置く音が、静寂な地下牢に響いた。
声を聞いたのか、水槽の中の女性がゆっくりと目を開いた。
その瞬間、まるで深海の
それは金色の
彼女は私が手にしている肉には目もくれず、私の顔をじっと見つめ、軽く空気を嗅いだ。
「面白いわね」
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