*ムカつく料理人

ゆび ななお

*ムカつく料理人

 俺達山賊団のアジトのある、山。そのふもとにちっちぇえケチくせえ村がある。

俺達はそこに良く押し寄せてマァ。流石に、縄張りなんで略奪はしなかったが、まあ随分な我が儘をしてるんだが……。


 この前、都から来たっていう、スゲエムカつく料理人の野郎が、店を開きやがった。

 当然、みかじめを取りに。俺達は行ったわけなんだが。

 やたら身なりもいいし、洗練された、その料理人の野郎は。


「おつかれさまです、山賊さんたち」


 とか舐めた事言いやがって。俺達が凄んだら。


「これをどうぞ」


 とか言って、微笑を浮かべて。やたらな高級酒を飲ませてきやがる。


「うめえ……」


 部下の一人が、生まれて初めての美酒に泣きやがった。

 今日は分が悪い。引き揚げて出直しだ。

 俺達が引き上げにかかった様子を見ると。

 その料理人は言いやがった。


「毎度有難うございます。又のご来店を」


 なんなんだ? 俺達は一銭も金払わないで酒飲んだのに。


 ムカつく野郎だ、また来よう。


*続く*


*ムカつく料理人2


 俺達の山賊団のアジトがある山の麓の村に。

 ムカつく料理人がいる話はしたよな?


 俺達は今日もアイツの店に行った。


「あら~。いらっしゃいませ。何食べます?イノシシの肉、入ってますよ?」


 料理人の野郎は、呑気に抜かしやがる。挑発してやがるな?


「おう!! さっさと出せや!! 毒でも仕込んでるんだろうが、このタフガイの俺らが。毒なんかで死ぬわけがねえ!! 皿まで美味しく食べてやるから、ガンガン持ってこい!!」


 山賊の副頭目の俺がそう言うと、部下どもがやんやと騒ぐ。


 で、俺はゲラゲラ笑いながら料理人を見た。はっは!困ってやがるだろうと思ってな!!

 ……でもよ。目がヤバかった。スゲエ静か。全く怒ってねえのが、更に怖い。


「ふふ……。お待ちを。絶品を献じて見せますよ」


 自信たっぷりにそう抜かす料理人。すげえムカつく、なんだこの自信は!!


「うめえ……」


 部下がまた泣きやがった。でてきたイノシシ肉料理を食って。

 くそう、またケチのつけようがねえ。引き揚げることにした。


「毎度有難うございます、またのお越しを」


 爽やかな顔して笑いやがる、料理人。ムカつく奴だし、ムカつく店だ。


 また来よう。



*続く

*ムカつく料理人3


 おう、俺だ。例の山賊の副頭目だ。

 頭目に怒られた。お前ら、あの料理人に舐められてるらしいなって。


 だから今日は決める。店をぶっ壊してやる。

 部下に槌(ハンマー)をもたせて、山をかけ降る。麓の村に突っ込むぞ!!


「いらっしゃいませ」


 うおっ!!でやがった、ムカつく料理人野郎!!


「おい料理人、生憎だが。今日は酒も飯もいらん。お前の店を壊しに来た!!」


 俺が叫ぶと……。


「困りましたね。それは困ります。まあ取り敢えず、卓について下さい。最期になるので、取って置きの食事を出しますよ。食材を取っておいてもしょうがないですから」


 ははっはは!! やったぜ、やっと困りやがった!!


「いいぜ。最後にウメエ飯食わせろや!!」


 俺達は愉快に、卓についた。


「最後の味を。お味わい下さい」


 料理人の奴は何者だ?何というかどう見ても、宮廷料理を出してきやがった。


「ウメエ……」「旨い……」「かーちゃん、ウメエよぉ……」


 ダ、ダメだ!!部下が料理と酒に骨抜きにされて。使いモンにならない!!!


「て、てめえら!!いつまで喰ってやがる、引き揚げるぞ!!」


 そう怒鳴る俺に、料理人の奴が耳打ちして来た。


「お見逃し下さり、有難う御座います。またのお越しをお待ちしています」


 うおお!!! 何だこの余裕は!! ムカつく奴だムカつく奴だ!!


 しかし、料理も酒も旨いから。


 また来よう。



*続く


*ムカつく料理人4


 おう、おれだ。山賊の副頭目だ。今日はな、じつは戦争の準備してる。


「貴様らぁ!!官軍の討伐隊が来る!!だが恐れるな!所詮都の弱兵だ!!木っ端みじんにしてやろうぜ!!」


 とか頭目が言っているが。俺は知っている。官軍はガチで強い。武装もいいし、戦法もいい。

 勝てるわけがねえ。


 ってワケなんだけど、俺達は。麓の村で山賊団の兵隊を展開させて。官軍を迎え撃つ準備を整えた。


「どうしたんですか?」


 でた、ムカつく料理人だ。やさしい笑顔しやがって、コイツが天下一品にヤバい奴であることは。

 大体俺にはわかってきている。


「勝てねえ戦するんだよ」


 俺は憮然としてそう言った。だって勝てるわけがねえからな。でも、俺を少しは人間にしてくれた頭目に筋は通すんだ。俺がムカつく料理人にそう言うと。


「ほう?」


 って、物スゲエ愉快そうな顔して、料理人は一回さがって。

 調理用具と、食材を抱えて。


「官軍はどの街に今いるのですか?」


 とか聞いてきやがった。


「どうする気だよ?」


 と俺が聞くと、料理人はすげえ自信ある顔をして。


「料理で止めてまいります」


 と言って馬を駆って村を出て行った。


 なんだアイツ?



*続く


*ムカつく料理人5


 ふむ。なんだアイツは。

 私は官軍の将、コッパール。山賊の討伐に来た軍隊の司令官だ。


「司令、怪しい奴を捕えました!!」


 部下はそう言うが、このひったてられたはずの男。

 縄目にもかからず、のんびりとこっちに歩いてくる。手には調理鞄、背には食材の包み。


「……きさま、料理人か?」


 私はそいつに問うた。


「はい。将軍。戦争はよくありません。おやめください」


 なんだこのトンチキは。賊を討伐せずに国の安全が成り立つとでも思っているのか?

 私がそう怒鳴りつけると、この料理人。ケロッとした顔で言い放つ。


「では、この半年間。山賊は近隣に害をなしましたか?」


 妙な事を聞いてくるが、書士官に確かめると、確かにこの半年、山賊は大人しいらしい。


「……理由を知っているのか? 山賊が大人しいワケを?」


 私がそう聞くと。

 料理人は将軍たる私の目を。なにも恐れの無いように、まっすぐと見てくる。


「理由は簡単です。私です。私があの山の麓に、料理店を開いてる」


 ? 意味が解らない。何を言っているんだコイツは。しかし。

 なにか理屈がありそうだ。


*続く

*ムカつく料理人6


「どうぞ」


 さて、コッパール将軍とは私の事で。私の前に一皿のスープを出してきている、この男は。

 今回の我らの征伐対象の山賊団との戦争をに反対し。


「私の料理は戦意を消す」


 とまで言い切る、一種の異常な自信家な料理家なわけだが。

 そいつが、まずは一皿味わってほしいというので。

 私も受けることにしたわけだ。毒?それはあるかもしれんが、その様な卑怯な男には見えない。それを自分で見分けられないほどに、私の目が慧眼で無かったら。私もまた将としては届かない者であるワケである。そうではないさ。


「ふむ……。これはカボチャか。それに、なんだ?」

「パセリアッセではありません。バジルアッセですね。おたのしみを」


 ふむ……。これは。味は何というかそれほど奇異ではない。が、なんだ?

 喰っているうちに、我が身に満ちてくる……。安らぎ?


「次は。鯛のカルパッチョですね。どうぞ。じつはミントがヴィネガーソースに仕込んであります」

「うむ……」


 旨味。爽やかさ。歯ごたえ善し、のど越し良好。


 落ち着く……。成程大したものだ……。こんなものを常食していれば。あらくれた山賊の戦意も消えようと云うモノ。納得させられる。


「おい、料理人。封じ込めるのか? 山賊どもを、この料理で。なれば我らも戦争などをするつもりはない。その方が効率がはるかに良い治安法だからな」


 私がそう聞くと。


「はい、お任せ下されませ。彼ら山賊は、二度と矛を握らぬでありましょう」


 自信満々の微笑み。それを見て確信した。コイツはやれる。

 それから。こいつは。明らかな変種人類だと。


 *続く

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*ムカつく料理人 ゆび ななお @yakitoriyaroho

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