第2話 デイリーダンジョン
「これでどう戦えと」
『ユニークスキル:デイリーダンジョン』なんて聞いたことないぞ。ダンジョン攻略に役に立つ戦力が得られるとはとても……。
「とにかく一回使ってみないと何もわからないな。といってもここじゃ何か」
俺は騒がしいダンジョンを出て、ザムザム森を少し歩き、木々に囲まれて誰の姿も周囲に見えないところで両手を前に出し意識を集中した。
デイリーダンジョン、創造――。
強く念じて力を込めると、人が悠々入れるほど大きな謎の白い楕円が出現した。
自分のユニークスキルだからわかる、これがデイリーダンジョンとやらの入り口だと。
とにかく中を見てみようとする直前、入り口の横にある木の幹に文字が投影されていることに気付いた。
【塔】ダンジョン クラス☆☆
・獣の巣
・魔法阻害
・鉱石増量
……なんだこれは?
これも俺のユニークスキルだろう。
思うにこれは、このデイリーダンジョンの説明ということのような気がする。
「もしかして、ただのダンジョンじゃなくいろんな『味付け』がされてるのか」
この中で特に気になるのは・魔法阻害 だが、俺は魔法は使えないから不利にはならないし、その点は問題はない。
「行ってみなきゃ始まらない、か」
俺は渦巻く白い楕円の中へと、意を決して一歩踏み出した。
そこは確かに塔だった。
人工的な石造りの建物の窓からは空が見える。
どこの景色か? それはわからない。ユニークスキルで作ったダンジョンだし、どこでもない謎の空間なんじゃないかな。
やはりあの白い楕円の渦はデイリーダンジョンの入り口で、くぐった瞬間、景色が森から石造りの塔の中へと切り替わった。
さて白い楕円のある地点は小部屋っぽいところで、目の前には通路がある。
通路を歩いて進み始めたが、すぐに普通のダンジョンと違うなと思った。
違う点はもちろん。
「俺だけだ! 独り占めだこのダンジョンは」
普通のダンジョンは人だらけだったが、このダンジョンは俺がユニークスキルで作ったのだから当然、俺以外誰もいない。
つまり宝もモンスターも他の人に取られるってことがない。
ダンジョン黄金時代、その弊害を完全に無視できる。
「ここなら稼ぎ放題だ! ははっ…………っ!」
馬鹿みたいに笑ってたら通路の曲がり角でまずいものを見つけて、俺は慌てて隠れた。
そこにいたのは――。
(アーマードボア!?)
ザムザム森の迷宮の最深部に出てくるモンスターって話だぞ?
そんなもの勝てるわけない! 見た目も鎧を着た猪みたいで絶対強い。
別の道から探索した方がよさそうだな、いったん引き返して他の方向に行こう。
(こっちには……エッジラビット!)
だが別方向にはさらに強い、ザムザム森の迷宮より危険な『無音の深穴』ダンジョンにいるモンスターがいた。ある程度経験を積んだ冒険者じゃなきゃ全滅覚悟と聞いたことがある。
「もしかしてこんなモンスターばっかりいるのかこのダンジョン」
・獣の巣
そうだ、そんなことが書いてあったな。
たしかに獣系のモンスターばかりだ。
しかも俺にとっては化物クラスのモンスターばかりだし、このダンジョンきつ……しまった!
エッジラビットの赤い瞳と目があってしまった。
と思うやいなや、耳の刃を振り回しながら追いかけてくる!
追いつかれたら死ぬ、と全力で逃走し入って来た楕円のゲートに飛び込む!
すると景色は一変し、元いたザムザム森の中に俺はいた。
背後にはまだダンジョンへの入り口が口を開けているが、何分経とうとそこから耳刃兎が出てくることはなかった。
「助かった……ダンジョン内のモンスターは出てこれないみたいだな」
しかし、これはアテが外れたな。
自分だけのダンジョンなら稼ぎ放題でギルドが立て直せるハッピーエンドだと思ったけれど、そもそも俺の力が足りなくてモンスターを倒せないとは。
考えてみればこのユニークスキルが直接戦闘力を増すわけじゃないからなあ。
「ダンジョンがあっても攻略できないんじゃ意味がない、八方塞がりだ」
ザクザクザク。
ん? なんの音だ?
ひゅっ。
「うおおおおお!?」
風切り音がした瞬間、振り返った俺の目の前には鋭い槍の穂先が突き出された。
「んっ? なんと、人間だったか」
「あっっっっぶ!?」
「失礼。こんなところに人間がいるとは思わなかったのだ。ははっ」
槍を納めたのは、背の高い銀髪の女冒険者だった。
銀の胸当てを装備し槍を手に真っ直ぐ立つ姿は、騎士然とした雰囲気を漂わせている。
「冒険者?」
「今はな。お前もだろう?」
「今はね。でもなんで冒険者がダンジョンじゃなくてここで槍を」
「わかるだろう? 私もやれるものならダンジョンを探索して己を鍛えたいが、やれやれ、あれではダンジョンだか祭り会場だか」
なるほど、人だらけのダンジョンで実のない探索をするなら、森で野生の獣を狩る方がマシってことか。
稀に突然変異のモンスターもいるらしいし。
「私は主のために己を鍛え上げなければならないのに、困ったものだ。モンスターと思うがままに戦えるダンジョンがあればな。お前もそう思うだろう?」
たしかにこの人の装備は泥だらけだ、せっかくきれいに磨かれた胸当てにも泥が跳ねている。ダンジョンのモンスターのかわりに今日も色々獣を狩っているんだろう。
……ダンジョンのモンスターの代わりに?
待てよ、それならもしかして。
「どうした? 考え込んで」
「ダンジョンのモンスターをあなたは倒せるってことですよね?」
「無論だ。……と言いたいところだが、あの『金鹿の角』の冒険者が攻略を公言している『濡れ牢獄』並のモンスターになると無理だ。もっと精進せねばなと思っている」
『金鹿の角』はウィンダムでも有名なギルドだ。新進気鋭のギルドで、若く優秀な冒険者が多く所属している。彼らはうちの冒険者では気軽に挑めない高難度のダンジョンを攻略することで大きな成果を上げている。ルーミア湖にある『濡れ牢獄』もかなり厳しいダンジョンとして知られているし。
だが、逆に言えばそれより簡単な、『無音の洞穴』のモンスターならこの人は――。
「もし好きなだけ魔物と戦えるダンジョンがあれば相当いい訓練になるだろう。だが、そんなダンジョンもう残ってな――」
「あります」
天を仰ぎかけた女戦士の動きが止まった。
「何があると?」
「一人だけのダンジョンが……ここに」
俺はダンジョンの入り口の楕円を指差した。
「俺のユニークスキルは『デイリーダンジョン』。一日一個ダンジョンを創造できるユニークスキルです。当然、他に誰も中にはいません」
俺がモンスターに勝てなくても、ギルドに素材を持ち帰る方法がたった今見つかった。
「このデイリーダンジョンを貸し出します」
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