聖夜を作り出した悲劇
時雨悟はち
本編
ふと感じたひんやりした感触に、思わずルージュは空を見上げた。
ライトアップされた街の光を飲み込んだ雪の結晶に、好機の目を光らせた。
「じぃ!みて、ゆきだよ!」
「おぉ、本当じゃなぁ。綺麗な夜空じゃ」
白い息すらも虹色に輝くような夜空の下。この街ロスウィーンには年に1度の聖夜が訪れていた。
町を見渡せば明るく飾られ、軒先には様々な露店が特別に出店していた。
ルージュたちも手にはごちそうとケーキを持っており、じぃと呼ばれた老人はこっそりと流行りのおもちゃを買っていた。
軒先に並ぶ露店を過ぎれば、すっかりとそこは静かな街になっていた。月明りを反射する細かな雪に照らされる道を、二人で白濁した息をまといながら歩いていた。
「くつした、つぎもおもちゃはいってるかな?」
「入ってるさ。ルージュは、いい子にしとったろう?」
老人の問いかけに、ルージュは元気よく返事をした。
「サンタクロースは、次はルジュにどんなおもちゃくれるかな?」
「そうだなぁ~。ルージュはどんなおもちゃが欲しいんじゃ?」
「う~ん……」
口に指をあてて、ルージュは色々なおもちゃを話した。
取って外して組みかえるおもちゃ。リアルな家を模したおもちゃ。どのおもちゃも、子供からすれば色々な好奇心がくすぐられるものだった。
その話を聞きながら、老人は「聖夜に吊るした靴下」で買ったおもちゃを大事そうに手に持っていた。
ロスウィーンには、とある伝統行事があった。
年に一度来る聖夜の日。軒先に靴下を吊るすと中におもちゃが入れられているという不思議な伝統「
こうした伝統が定着したのには、ロスウィーンの家庭でよく話されるとある伝記が関係していた。
決して明るくない。だけど、その心に優しさと希望を灯してくれるお話が、今もこのロスウィーンにはちゃんと語り継がれていた。
きっとその時も、こんなふうに雪の降る夜だったのだろう。毎年、ロスウィーンの街に住む人々は、今年もそんなことを思っていた。
伝記 「聖夜を作り出した悲劇」
ロスウィーンの街の中に、とあるおもちゃ屋を営む姉妹がいた。
姉の名前はタクロ。二十歳の女性で、ショートヘアをさらに括りそのよく見える顔を満面の笑みに染め上げている子だ。その笑顔で老若男女問わず、皆に好かれている子だ。
妹の名前はロース。十九歳の少女で、こちらは対照的にロングの髪をなびかせている。今は家具屋から取り寄せた少しいい椅子に座り黙々とおもちゃを作っていた。子供たちに対してもあまり感情的にならないが、優しい笑みと声色でいつも静かに子供たちと遊んでいた。
二人の営む店「聖夜に吊るした靴下」は、大盛況とまではいかずとも近隣には愛され、親しまれている店だった。毎日、少しずつ作られる新たなおもちゃがショーケースに並ぶ。その姿を、毎日子供はワクワクした目で眺めていた。
そして今日も、そのおもちゃを見に来た人たちに囲まれ、静かで優しい日々を変わらず過ごしていた。
「タクロちゃん、これは?」
タクロのもとに来た女の子は、その手におままごと用で使う食材を模したおもちゃを持っていた。
「これはね、おもちゃのご飯とお鍋だよ。ほら、こうして引っ張ってみると~?」
と言って引っ張ると、おもちゃは真ん中の線でぱっかりと二つに割れた。
「すご~い!」
「あははっ。はい、どうぞ」
と言って手渡すと、女の子は笑顔でそれを受け取った。
その姿を見て、タクロは体の底から感じるような嬉しさを感じた。元より他人の嬉しそうな顔がおもちゃと同じくらいには好きだった彼女は、子供たちの笑顔を見られるこの仕事が大好きだった。
部屋の中では暖炉がぱちぱちと音を立てながら炎を上げている。そのそばには、紙を折っているロースが毛布を膝に掛けて座っていた。椅子を囲むように数人の子供たちがそのしぐさを見物していた。
「ほんと、毎日来ちゃってごめんなさいね?」
「いえいえ。私もロースも、いつも子供たちに元気をもらっていますから」
「そういってくれると嬉しいわ。あの子、一回はこの店に来ないと家で拗ねちゃうから」
と言いながら笑う子供の母親も、密かにこの店のおもちゃファンだという事を姉妹は知っていた。
子供に囲まれるロースは、何も語らないがその口に笑みを浮かべていた。
「……できた。サンタクロースだよ」
「すげぇ!」
「かわいー!」
ロースが作り上げたその折り紙を、子供たちはキラキラした目で見ていた。
「サンタさんとトナカイさん、どっちが欲しいかな?」
ロースがそう聞くと、子供たちは思い思いにほしいものを上げた。でもやっぱり、サンタクロースのほうを欲しがる子供のほうが多かった。
だがロースにとって、どちらのほうが多いかは関係なかった。子供たちがこぞって欲しがる、という事がロースにとっては最も大事で嬉しいことだった。
その姿を見ながら、タクロはまた笑顔を浮かべてきてくれたお客様と話し始めた。子供たちが喜ぶ以上に、ロースが作ったおもちゃが売れることが何よりの喜びだったから。
「じゃあ、ありがとうございました!また明日も来てくださいね!」
「ロス姉ちゃんとタクロちゃん、また明日ね~!」
子供たちは日が暮れてきたタイミングでぞろぞろと帰り始めた。そしてたった今最後の子供が帰っていった。
ドアにぶら下げた「OPEN」の札を裏返し「CLOSE」に変える。窓の外を見ると、先ほど帰っていった親子が、店先で飼っているトナカイのサンに触れあっていた。サンは心なしか嬉しそうにしていた。
「タク姉、ご飯作ろ」
「ええ。今日は何が食べたい?」
「寒いし……ミートソースグラタンが食べたい」
タクロは笑顔でわかったと言い、キッチンで玉ねぎを取り出した。
外はもう月に照らされ始めている。星が輝き、街は昏く眠り、色々な家から聞こえ香ってくる夕飯の気配が街を包み込んでいた。差別や偏見。様々な生きづらさがあるこの世界で、小さな片隅にひっそりと住むタクロとロースは小さな幸せを重ねていた。
「いただきま~す」
暖炉の火がぱちぱちと鳴るだけの静かな部屋。その部屋で二人和やかな会話をしていた。そうしていると、ふとロースが窓の外に目を運ばせた。
「どうしたの?」
「雪が降ってるから、明日はみんな来れないのかなぁって」
ロースの言葉に、タクロも外に目を運んだ。確かに、外には白い鱗粉のような雪がパラパラと降っていた。
「そういえばもうすぐ聖夜祭かぁ……。今年はどんなおもちゃ持っていく?」
聖夜祭。ロスウィーンでの恒例行事の一つで、冬の雪が降り始めるこの時期に火を焚いて店を並べ、雪と共に降りてくるとされているロスウィーンの初代国王をもてなす。という体の祭りだ。
区画ごとに分けられて行われ、その区画内の店が集まって露店を出す。おもちゃ屋を営むタクロたちも、露店を出すために作るおもちゃを何にするかで悩んでいた。
「靴下に入れられるくらいのサイズにして、いつもみたいな大きな靴下じゃなくて、どこでも吊り下げられているくらいの靴下に入れて売るのも楽しそうじゃない?」
「それいいね!ロスは何か案があったりする?」
「人形とか、棒状のおもちゃとか……?」
毎年この時期になると、二人は靴下に包む商品について悩むことになる。子供たちが楽しめて、どこにもないようなおもちゃというポリシーにプラスで靴下に入れても良く見えるという条件が追加されるのだ。だけど、この時間は二人にとって悩みになっても苦痛にはならなかった。どんなアイデアでも、それを叶えるためのアイデアを二人で出し合い、形にする。そんな時間が、二人にとっては年に一度の楽しみだった。
窓の外に降る雪と暖炉で燃える焚火が紅白の対比を生み出している。室温以上に暖かに感じる部屋の中で、二人はおもちゃについて楽しく話していた。
そして、すべての街の明かりが消え去った真夜中。二人のおもちゃ屋の焚火も消え、眠りについた時間。
まだ鱗粉の舞う空を、月光を浴びながら滑っていくそりがあった。
そりを引くトナカイ。そりには大きな白い袋に、一人の人影。その姿は、この地で夢を象徴していると言っても過言ではない存在に酷似していた。
遅くまで働いていた町人が。ふと冬の空に想いを馳せたくなった夫婦が。そして、何かに誘われるように目を覚まし、窓の外を除いた子供がその姿を確認した。
「あ、あれは……?」
「嘘……そりに、大きな袋……」
大人たちがそうして慌てふためく中、子供だけは、その目をキラキラと輝かせ、つい叫んでしまった。
「……サンタさんだ‼」
朝日が淡く空を染める時間。布団でぐっすりと眠っていたロースのもとにタクロがどたどたと走って入ってきた。
「ねぇ!今年もなんか入ってた!」
「んぅ……?もしかして、また『本物のサンタクロース』が来たの?」
眩しそうにするロースの前で、タクロはその首を縦に何度も振った。
「そっか……一体、どこのおもちゃ屋がそんなことしてるんだろ……」
「だから、この一帯にはうちしかおもちゃ屋はないの!これ、きっと本物のサンタさんのだよ!」
楽し気にそういうタクロの言葉を、考えるような顔をしてスルーした。しかしそんなことも気にならないほどタクロが熱狂しているのには、ちゃんとした理由があった。
この頃毎年、ここら辺の街では「本物のサンタクロース」という事件が起こっていた。事件と言ってもそれは名ばかりで、内容は「聖夜祭が近づくと、軒先に吊るした靴下におもちゃが一つ入っている」というものだ。初めに起こったときは誰もが自分だけかと思い、それほど騒ぎにならなかった。しかし、二年、三年と続くとその噂はみなが口にするようになっていき、今では本物なんて呼ばれるようになった。
おもちゃ屋が配っているわけでもない、謎に包まれた奇跡のような出来事。そんな出来事に、街の人々は聖夜祭にさらなる楽しみを見つけたような気持ちになっていた。
「今年はリアルな動きをする人形だったよ~!ほら、ロスの分もあるから。男の子と女の子、どっちがいい?」
「じゃあ、男の子」
まだ眠そうなロースの返事に、タクロは笑顔で人形を差し出した。ロースはしぱしぱする目を吊り上げ、笑顔でそれを受け取った。
聖夜の日に降る奇跡。その奇跡に、タクロはいつも心を弾ませていた。弾みすぎて、周りが見えていなかった。
だからその見えていない死角で眠っていた悲劇に、目を向けることができなかった。
死角で眠っていた悲劇は、突如として牙をむいた。
~一年が過ぎ去ったころ~
今年もまた一段と冷える季節が来た。店先の掃除をしながら、タクロはそう感じた。
「寒いだろう~。ごめんねサン、こんな寒い外にしかいさせられなくて」
そういいながら人参を食べさせる。サンは何も気にしていないように人参をポリポリと食べ始めた。
店先を見ると、すでに見たことのない人たちで列がなされていた。
今日もまたすごい人だな、とタクロは思った。
たまたま、内陸に住む貴族である「ヒクネト」がこの店を来訪したのが事のきっかけだった。冬に入りきらない秋、馬車でやってきたヒクネトは、この店のおもちゃを物色し始めた。
「い、いらっしゃいませ~……。本日は、どういったおもちゃをご所望ですか?」
相手が貴族であるがため、タクロはその身をぶるぶると震わせながら接客を始めた。
「ふむ……。娘よ」
「は、はいっ!」
「実は、我が息子が誕生記念に見たことのないおもちゃを所望している。何か、そういったものはあるのか?」
見たことのないおもちゃ、と言えばこの店だ。そういう自信があったため、タクロは張り切っていくつかのおもちゃを勧めた。木のブロックをはめてくっつけて形を作るおもちゃなどを勧め、そのすべてでヒクネトは感嘆を漏らしていた。
「ほう……。こんな面白いおもちゃがこの世にはあるのか……」
「あ、ありがとうございます!」
「特に、この食材などを模したものは素晴らしい。学びと遊びを両立することのできる唯一のおもちゃだ」
ヒクネトはおもちゃの人参を手に、ロースのおもちゃを褒めちぎった。お気に召したようで、タクロも安堵と喜びの息をふぅと吐き捨てた。
ヒクネトはそのおもちゃを買い、店を出ていった。小袋に詰め込んだ金貨を渡されたときはぎょっとしたが、タクロは世界をよく知る貴族から認められたことに心の底から喜びを感じていた。
と言った経緯から、タクロたちの店は「見たことのないおもちゃを作る」とよく噂され、客足が増え始
めた。
そのせいで、あの頃よく来てくれた近隣の子供たちと触れ合う機会が減ってしまった。そのことを、度々二人は食卓で愚痴るようにもなっていった。
「いっそのこと、顔なじみのお客さんだけしか入れないようにする?」
とタクロは聞いたことがあった。だが、その申し出にロースは首を横に振った。
「それは、私たちの信念から大きくそれる。言ったでしょ?私は、この世界で下向く人たちの手の中に、楽しいおもちゃを届けたいの」
「でも……ロスだって、あの子たちとの時間が無くなって……」
「タク姉。それはそれで、これはこれだよ」
タクロからすればその答えは面白いものではなかった。そんなにも信念が大事なのだろうか。来る客の中には、私たちのおもちゃを転売していくような輩だって少なくない。
なぜそんな輩の為にあの子たちの時間を割かなければならないのだろうか。そう思えば思うほどに、彼女らの溝は深まっていった。
そうして、二人は憂鬱な経営を続けた。毎日毎日初めて見る多くのお客を捌き、疲れきった体でご飯を作る気も起きなくて、パンを数切に常備食を少し食べて泥のように眠る。そうして朝を迎えればまた、楽しくないお店が始まってしまう。
いつしか、二人でゆっくりと食べる夕食の時間も。聖夜祭で出すおもちゃを相談することも。二人の間にあった楽しかった時間は無くなっていってしまった。
そうしてそのまんま。気が付けば冬に入って聖夜祭が近づいてきた。
寝起きの欠伸に白く靄が掛かる。あまりにも寒い部屋の中を震えながら進み暖炉に火を点けた。軒先に出ると、吊るされた靴下に今年も何かが入っていた。
「今年も、入ってたな……」
数年前までは楽しみだったこれにも、すっかり感情を持たなくなってしまった。いつも面白い仕掛けのおもちゃだと思っていた。だけどそのおもちゃが、有名になっても何も変わらないように見えて、近頃はえらく妬ましく感じてしまうようになってしまった。
眠たそうな顔をしてロースも起きてきた。タクロの手に収まっているおもちゃを横目に軽い朝食を準備し始めた。
こんな些細な幸せも、もう共有できないという事に心が締め付けられるような想いをした。
締め付けられる心を抱えながら、タクロも朝ご飯の準備をし始めた時だった。
ガンガンとドアに拳が打ち付けられる音が突如として響き始めた。
「ロース・サロンタ!今すぐ出てこい!」
叩きつけた声が呼んだのはローズの名前だった。
タクロは怯えた顔で体を強張らせていた。だが、ロースは恐れ知らずかのようにドアに近付き開いた。
外で部隊をなしていたのは、中央王政の衛兵だった。それにタクロは酷く恐れおののいた。なぜなら彼らが動くとき、たいていは凶悪犯などを捕まえる時だけだから。
「……この店に、何用?」
「ロースさん……。あなたのこと、すごい人だと思っていたのですが……。とんだ極悪人だったようですね?」
奥から聞こえてきた声を、二人はもう覚えていなかった。だがその人物は確かに一度、この店に関わった人物だ。そして同時に、彼女らの心が離れてしまう現況にもなった人物であった。
「忘れたのですか?この私、ヒクネトを」
ヒクネトはそういいながら、その顔をにやけさせた。にやけながら、そのコートの中からおもちゃを取り出した。
「おや?お顔が強張っているようですが?」
「……」
「ロス……?」
店の奥にいたタクロから、その顔は見えない。だからロスの様子はヒクネトの言葉を信じるしかなかったのだ。
「驚きましたよ。まさか内陸の宮殿である私の家に吊るしている靴下の中に、見覚えのないおもちゃが入っていたのですから」
「だ……だから、何?」
「まだとぼけるつもりですか?この見たことのない独創的な創り……。こんなおもちゃ、あなたたち以外で作る人がいないんですよ」
意地の悪い笑みを浮かべ、確証を得たとでも言わんばかりの物言いだった。
たった一人の大切な家族がそんな風に言われて、タクロが我慢できるわけがなかった。
「だから何だって言うの?」
「タク姉……」
「そんなの、あんたの近くに住んでる貴族がいたずらでもしたんじゃないの?」
そういいながらおもちゃをひったくってみた。本当に自分たちのものなのか確かめたかったからだ。
だが、そのおもちゃを見てタクロの口はつぐまれた。
なぜならそのおもちゃは、今朝見たものと同じもの。軒先の靴下に入っていたものと全く同じものだったからだ。
「……」
「おや?急に黙ってどうしたのですか?あれだけ威勢がよかったのに」
「嘘……」
あまりにも衝撃的すぎてロースのほうを向いた。ロースは、その顔を伏せ異常なほどの汗をかいていたのを今でも思い出す。
やがてふらつき始め、後ろで待機していた衛兵たちが構えだす。ここまでくれば、タクロだって彼らが何を疑ってここに来たのか予想が付いた。
恐らく、だが確実に。ロスは、魔女になっていた。
数百年前に魔法の存在が知れてから数年で、その魔法は禁忌として封印されることになる。未知のエネルギーから生み出される数多くの奇跡はいつの間にか、この世界を滅ぼしかねない危険な事象に様変わりした。だから、その大昔の王たちは協定を結び、この世界から魔法の一切を消すことにした。
それでもその禁忌に触れたいと思う人間は少なくない。そうした魔法を使う通称「魔女」たちは、貴族たちから総じて「魔女狩り」の対象となっていた。
「なんで……どうして、ロス?」
「違っ……私、は……」
否定しようとして、否定の言葉がつまる。ロスは、その顔を悲痛と罪悪に顔を歪ませていたと思う。
「この店の地下には、かつて大聖堂の地下室だった空間が広がっているでしょう?大聖堂と言えば……歴史上、最後まで魔女たちの拠点となっていた場所。ならば、魔導書の一つや二つあってもおかしくないでしょう?」
魔女を狩れば、莫大な富と確固たる地位を得られる。だからヒクネトは、この些細な疑いからでも衛兵を引き連れてきたのだ。
「ロースさん。大変心苦しいのですが……クフフ。大人しく投降すれば、公開処刑はやめて差し上げますが?」
「ちがぅ……嫌……わたし、あたしは……」
狼狽した顔が、みるみる青ざめていく。部屋の中をよろけ、机につまずいて派手に転倒してしまった。
「ロス!?」
「いや……いやいやいや!こないで!!!!!」
そう叫んだ瞬間。店の中にあるものすべてが、見えない力で吹き飛ばされた。出入り口に飛んでくる様々なものに、タクロもヒクネトも吹っ飛ばされた。
「キャッ⁉」
「うわぁっ!」
「あ……」
店からはじき出されたタクロの目には、絶望しきった顔でへたり込む妹の顔しか見えなかった。
「ロス……」
「違う……なんで、なんでこんな魔法……」
ロスの慌て方と青ざめ方から、自分でも望んでいない形で、魔力が暴発したことが分かった。
「見たか⁉あのものは魔女だ!捕まえろ!」
その掛け声と同時に、衛兵たちが中に突っ込んでいった。
「やだ!いやだ!」
また、見えない力が発揮され中の衛兵たちは吹き飛んだ。
「サン!逃げるよ!」
どこから現れたかわからないそりを引き、走っていくサンにロスは乗り込んだ。
そうしてそのまま、二人は空のかなたを走り去っていった。
「追いかけろ!二人は残ってこのものを捕えよ!」
二人を呆然と見ながら、抵抗もせずにタクロは囚われた。
聖夜祭当日。この片隅の街にあるおもちゃ屋から一人の魔女が見つかった。魔女本人は、飼っていたトナカイに乗ってどこかへ走り去っていった。
肌寒い地下牢の中で、ぼろぼろの服に割れた心を包んでタクロは蹲っていた。涙は枯れ、もはや外に悲しみを発散することができなくなっていた。
実妹が禁忌の魔女だった。そんな事実以上に、それを隠されていたことに酷く傷を負った。何も相談もなければ打ち明けられもせず。自分の知らないところで妹が禁忌に触れていたという事実に、裏切られたと思ってしまった。
色々と言われるだろう。罪人の妹。禁忌に触れたおもちゃ屋。ありとあらゆるところ、人物から妹への罵倒を聞くことになる。そうなってしまうだろうという予知が割れた心をさらに粉にしていった。
「タクロ・サロンタ。貴様の潔白が分かった。出ろ」
「え……」
気付かなかったが、いつの間にか数人の衛兵が牢の前に立っていた。
訳の分からないまま新たな服を着せられ、あの店の前へと連れていかれた。
「潔白の証拠となった日記は返しておく。ヒクネト様の、せめてもの慈悲だそうだ」
ヒクネトからすれば妹は大罪人だ。例えタクロからすれば大切な家族だろうが、その事実は変わらないしその認識を間違いとも思わなかった。
去っていく衛兵から早々に目をそらし、鍵のかかっていない店の中に入っていった。あの時に荒れた以上に部屋がひっくり返されていて、おもちゃがほとんど消えていた。きっと、ヒクネトたちの調査以外の人物が盗みにでも入ったのだろう。まだ遠くの地では高値で売れるだろうから。
「ロス……ロスのものが……」
それでも、ロスと一緒に楽しく過ごしてきた日々を思い出すと、一つ一つのおもちゃに名残惜しさを感じてしまった。枯れ切った涙が一筋流れ、手の中にある唯一のロスの記録を胸で抱きしめていた。
荒れ切った思い出の店の真ん中で、涙しながら日記を確認してみた。
ロスが魔法を使い始めた理由は、子供たちにおもちゃを配って笑顔をさかしてほしいかららしい。魔法でおもちゃを増やし、聖夜の前日。真夜中の空をサンと共に駆け、おもちゃを配る「サンタクロース」を演じていたようだった。
読み進めていくほどおもちゃで笑顔になる子供たちについて書かれているのを見て、やっぱりロスはロスだな、なんて思ったりして少し笑顔になった。
だけど悲しみが消えるわけじゃない。荒れて思い出のかけらもなくなった店の中で、タクロは在りし日を思って無気力に倒れることしかできなかった。
無気力な日々を何もせずに過ごしていたある日。頬もやせこけ、まるでミイラのように生気のない姿で、このまま死ぬんだとさえ呆然と思っていたころ。
突如裏口が開き、足音が近づいてきた。
最初、泥棒が入ったのかと思った。それならそれでいい。そのまま、私を殺してくれと思った。
だが、近づいてきた足音は泥棒のものじゃなかった。足音はこのメインの部屋に真っすぐとやってきて、止まって、言葉を発した。
「……タク姉?」
「っ⁉」
思わず、栄養不足で動きそうになかった体が一気に起き上がった。裏口から入ってきたのは、あの日走り去っていったロスだった。
色んな感情が込み上げてきた。悲しみ、憤り、嬉しさ。喜怒哀楽色んなものが入り混じって、瘦せこけた顔は訳の分からない顔になっていた。
「……ロス……なんで?」
「……ごめんなさい」
「ごめんじゃ……いや、そうじゃ……」
考えがまとまらなくて、説教もしたいし再開した喜びを分け合いたいし、ハグしたい気持ちとつき話したい気持ちとで、体も訳の分からない動きをしていた。
ロスはそんなことお見通しだった。お見通しだったから、ハグをしてきた。
「ロス……!ちょっと……!」
「ごめんなさい……本当にごめんなさい……」
抱きしめた手が強く肩を掴む。顔を埋めた胸のあたりが熱くなっていく。それで、ロスも苦しかったことに気が付いた。
「……ううん。大丈夫……。おかえり、ロス」
「グズッ……うん。ただいま。ありがとう」
静かに、けど熱く泣いた。せき止められていた涙は、今やっと全部流れ出てきてくれた。
ひとしきり泣いた後。ロスはゆっくりとタクロから離れた。
「……ごめんなさい、お姉ちゃん。私は、とんでもないことをしてしまった。だから、今日一日休んだらまた逃げる」
「そんな……だったら私も」
「ダメ」
間髪入れずに拒否され、タクロは口をつぐんだ。
「……ごめん。でも、お姉ちゃんは来ちゃダメ」
「なんで……やだよ、ロスがいないなんて嫌だよ!」
「……お姉ちゃんには、私のせいで死んでほしくないの。これだけは、わがままを言わせてもらう」
タクロは、それが心底いやだった。日記を見て、ロスが悪いことをしていないことを理解していた。そして今、こうして謝っているのだからもうロスに対して文句も言いたいこともなかった。
だからこそ、もう一度こうして再会できた妹とまた離れるなんて、到底納得できるわけがなかった。そんなことを二つ返事で了承するわけがなかった。
それでもロスは、優しい顔をして引き留めようと掴んでいる手を掴んだ。
「……ごめんね、こんな妹で。私のことは忘れて、タク姉はちゃんと生きて」
「ロス……」
いつの間にか、タクロの手は離れていた。ゆっくりと下がっていく手に力が入ることはなかった。
それから、二人は久しぶりに食卓を囲んだ。椅子に座らず、誰の目にもつかないよう隠れながらの密かな食事だった。会話も弾まない傍から見たら陳家な食卓かもしれない。だけど久しぶりのその時間が二人にとっては少しだけ、救いになったように思えた。
深夜、眠りにつく妹の姿を見て、衝動を抑えられなさそうになるのをタクロは必死に抑え込んでいた。
月明りが窓から差し込む。この光が少しずつ動いていくのを、この日は史上最も恨んだ。
朝が来てしまった。うっすらと光差す空に、ロスは天を仰いで覚悟を決めた。
「ロス……」
「……お姉ちゃん。あの」
姉妹最後の会話。悔いを残さないように言葉を残そう。そうして、綺麗に別れられるように……。
「見つけたぞ!魔女だ‼」
「なっ⁉」
最後の言葉を残そうとした瞬間。突如街に、その大声が響き渡った。鳥はバサバサ飛び立ち、猫も犬も驚いて走る。その中で、姉妹以外の人間だけは好奇心とか使命とか、それぞれの思惑で街に飛び出してきていた。
見つかった。最後の最後、言葉を残すこともできないのかと絶望した。
ロスは、何かを手渡しそりに飛び乗った。そして、そのまま街を走り出した。
待て、だとか逃がすな、だとか。どたどたと鳴り響く足音はロスを捕まえようとする衛兵や市民たちのもの。その雑踏を追い越して、ロスに追い付きたくて走り出した。
「うぅ!待って!ロス、最後くらい……最後くらい!」
走って走って走る。か弱くて華奢な体で、走る市民を突き飛ばしながら先頭を目指して走った。
早朝にもかかわらず、街を疾走する人間たち。逃げなければいけないから、入り組んだ道を行くロスだが、その道を追うのはタクロからすれば簡単なことだった。
二人でよく逃げ回る時に使った道。この道で色んな人を巻いてきた。だからこそ、誰よりも早く彼女のあとを追うことができたのだ。
やがて追手がいなくなり、タクロとロスだけがこの街を一直線に走っていた。
「ロス!」
「タク姉……。ごめん、でもやっと話せる」
そういって、ロスは速度を緩めた。気が付けば二人でよく遊んだ広場に来ていた。
ロスに触れたかった。ロスと話したかった。だから、勢いよく手を伸ばした。
しかしそれは叶う寸前で潰えた。
飛び出した体は突如のしかかった重圧に押さえつけられた。そしてそれと同時に、混沌とした街に銃声が一発、大きく響いた。
「え……」
「命中!斬りおとせ!」
響いた声がヒクネトのものだと理解した瞬間。目の前にロスの頭が転がってきた。
目の前にあるのは、ロスの頭。その奥には、頭を失い力なく倒れこむロスの体と同時に体を貫かれている、もう一人の家族のサンがいた。
「あ……」
「……この街の魔女は、討ち取ったぞぉぉぉぉぉぉ!」
街中から響く大歓声。その声が遠のくように、現実から意識が乖離していくような、気がした。
「…………」
空っぽになった場所で、かつての思い出に浸る。もはやこの現実を受け入れがたいタクロは、妹の骨すら取り返せずに何もかもを失った。
唯一残っているのは、最後のくれたおもちゃのみだった。そのおもちゃもいじる気が起きず、ただただ手に持っているだけだった。頬はあの頃以上に痩せ、骨が浮かび上がってきた。そんな状態になってもなお、何かを考えることさえしたくなかった。思考を働かせれば、あの脳に焼き付いた光景がくっきりと目の前に投影されるから。
魔女が死んだという事件は、この世界の色々なものに影響を与えた。例えば、ヒクネトは魔女狩りの功績がたたえられてつい先日、世界統治局というこの世界で一番上と言っても過言ではないところへといった。そこでは、あの利益しか見えていないような目や観察眼はたいそう役立つそうだ。
それから、この片隅の街にすらその影響を受けていた。魔女がいたこの店は、街にとって呪いの館のようなもの。だから、この店には二度、火を放たれた。その火が、わずかに残っていたロスのおもちゃを燃やし尽くしていった。
いよいよ縋るものも、守るものもなくなってしまった。もともと消えかかっていた生きる意志の炎が、その火で完全に消し去られた。
死人のような生活。いや、生活と呼べるようなものでもない。でも、もう全部どうでもいい。水も食も何もいらない。埃かぶったこの思い出の中でゆっくりとロスのもとに行くんだ。
「……ん?」
そう思っていたら、手の中にあったおもちゃの仕掛けがふとした拍子に作動した。するりとスライドされたおもちゃの中からは、紙がポロリと出てきた。
直感的に、それがロースのものだとタクロは思った。そう思ったタクロは急いで紙を開いた。開いた中には、びっしりとロースからの手紙が書かれていた。
「タク姉へ
この手紙は、もう二度と会うことのないお姉ちゃんに最後に言いたいことをまとめたものです。読みたくないくらい恨んでいても、こんなもの見られないほど大変でも、どうかいつかはこの手紙を読んでほしいです。
私はこの数年間、魔法を使って色々な人におもちゃを届けていました。地下でたまたま見つけた本を使って魔法を使っていました。そのせいで迷惑をかけたこと、本当にごめんなさい。
思えばタク姉とはずっと一緒にいました。小さなころ買ってもらったおもちゃがきっかけで、ずっと二人でおもちゃを作っては交換していました。あの頃に香った故郷の香りは、一体何の香りだったのでしょうか。もう、私はそれを探すこともできません。大人になってから、大好きなおもちゃを作る仕事で生きていけるようになって私は日々幸せを噛み締めながら仕事をしていました。タク姉が私のおもちゃを触る度に嬉しそうにしていて、それがたまらなく嬉しかったんです。本当に。こんな日々がもっともっと過ごせたら良かったのに。
ごめんなさい、少し昔話をしてしまいました。
最期、ずっとぎくしゃくしてごめんなさい。私はずっと、また昔みたいなおもちゃ屋になりたいって思いながら、最初に二人でした約束ばっかにこだわっていました。タク姉がそんな私のことを心配してくれているのにも気が付いていたのに、それすら知らないふりをしてしまって、本当にごめん。そして、ありがとう。
それ以外にもお姉ちゃんには、たくさんの迷惑をかけてしまいました。だからどうか、私のことは忘れてください。忘れて、タク姉の好きな人生をまた1から歩んでください。
いつか神様のもとに上ったときには、私の名前なんて忘れてしまっていることを、遠くから願っています。
今までありがとう。お姉ちゃん。
ロースより」
タクロは泣いた。体内にもう何も残っていないと思っていたのに、目からは水があふれてやまなかった。
ロースがいなくなってしまった事実に胸に穴が開いた。ロースが残してくれたこの手紙が、最後の最後で縋るものを与えてくれた。
「……やらなきゃ」
何を言われても。何をされても。タクロは、もう一度立ち上がる。立ち上がらなければいけない。
たとえ大罪人の姉だろうが、たとえ魔女の嫌疑がある人物だろうが、そんなこと知ったことじゃない。
ロースがこの世界にいた。魔女じゃなくて、ロース・サロンタという子供の笑顔とおもちゃが大好きな少女がこの世界にいた。その事実を、風化させてはいけない。させるものか、とタクロは決心した。
ほとんど骨のみになった体を起こし、栄養失調で倒れそうな体を懸命に歩かせて食料に手を伸ばした。あまりにも酸っぱいトマトは、干からびかけた体にとっては十分なごちそうだった。
ぱちぱちと音を立てる暖炉のそばで、毛布を膝に掛けながら紙を折る。その姿を、数人の子供たちが囲んで眺めていた。
「すげぇ……!」
「どんどん出来上がっていく!」
「ふふっ。ほら、もう少しで全員分できるからね」
ただの正方形の紙だったものは、見る見るうちに形を成していく。その姿は、あの大人気な人物「サンタクロース」だった。
折り紙を折っている途中、年を召したマダムが手におもちゃをもって近づいてきた。
「タクロさん。このおもちゃは新作かい?」
「ええ。なかなか面白いでしょう?」
と尋ねると、マダムは顔をしかめつつ笑い、老人に若い子のセンスはわからんわい、と冗談を言った。その姿は、昔子供を連れてやってきていた時とはまるで違うようにも見えた。
タクロはあの後、店を復帰させた。最初のほうこそ、様々な批判や迷惑を被った。だが諦めずに、がむしゃらにやっているうちにいつしか昔の常連の手助けもあって何とか店を立て直すことに成功した。
人は、一つの大々的な事件が終わると、すぐに飽きていくものだ。だからタクロも、飽きられてから立て直すのにはそんな時間はかからなかった。
それ以降は、この小さなコミュニティでひっそりと営むおもちゃ屋として、今でも周りの人には愛されていた。
(ロス……。二人で作った空間、何とか取り戻したよ)
タクロは心の中でそう呟く。きっと、あの子は望んで地獄に行っているだろうから、きちんと下を向いて。
「……ほらできた。さ、サンタさんとトナカイさん、どっちがいいかな?」
と聞くと、子供たちはこぞってサンタを取ろうとした。やはり、いつの時代でもサンタクロースは人気なようだった。
「……そうだ。ねえ、今年のはもう決まった?」
タクロは、あることを思い出し、マダムにそう訊ねた。マダムは、首を横に振って
「ちょうどいいものが無くてねぇ。何がいいのかねぇあの子は」
と言った。
「きっとなんでも喜んでくれますよ」
「そうだといいけどね。近頃の若いもんは、すぐにイヤイヤ言うから適わないわ」
ふふっと笑いながら、一応タクロも靴下に入れるプレゼントをいくつか候補を出してあげた。
ロースがいたという事実を風化させないために何ができるのか必死に考えた。そうして自分が残せるものを考えた時、それは「本物のサンタクロース」と残すことだった。
幸い、近隣で仲良くしていた人たちは話を聞いてくれた。そういうお願いをした時も「タクロちゃんのためなら」と言って快く了承してくれた。そのおかげでタクロは、親が夜、子供に気付かれないようにおもちゃを入れる、という形で本物のサンタクロースを子供たちの中だけでも残すことができたのだ。
「あ!ねぇねぇタクロばぁば、雪だよ!」
「え……」
子供の声に、タクロは思わず窓の外を見た。そこには、あの鱗粉のような雪がまた、降っていた。思わず立ち上がり、窓の外を食い入るように見てしまった。
「ばぁば?」
「……ごめんね、ロス」
「ん?」
子供たちが不思議そうにタクロを見る。それにタクロが気付くことはない。
「タク姉」
「っ⁉」
不意に聞こえたその声に、暖炉のほうを振り向いた。
だけどそこに、ロースの姿はなかった。その代わりに、椅子を囲む子供たちの顔と、ロースが使っていたひざ掛け毛布がそこにはあった。
「どーしたの?」
「……いや、懐かしい夢を見ただけだよ」
「夢?」
そう。夢。懐かしくて、忘れられない夢を見た。
事実で、悪夢で、楽しい夢。忘れてはいけなくて、忘れたくなくて忘れられない。そんな夢をふと、椅子に見てしまった。
「……少し、昔話でもしようかね」
「昔話?」
「ああ。サンタクロースのお話よ」
サンタクロース、という言葉で子供たちは目を輝かせた。その姿に微笑みながら、タクロはこんな残酷ではない、優しい世界を聞かせてあげることにした。
遥か地底の底で、たった一人の大事な妹が笑っているようにと願いながら。
ロスウィーンの聖夜祭ももうすぐ終わる。ルージュと老人は、体が冷えているのを感じながら家にたどり着いた。
「ねぇ、じぃ」
「なんじゃ?」
「あのね、きょうも、サンタさんのでんき聞きたい!」
ルージュは老人にそう頼んだ。老人は笑顔で
「そうだなぁ。じゃあ、じぃは本を持っていくから、ルジュはベッドで待ってなさい」
と言った。ルージュはキラキラと目を光らせながら首を縦に振った。
ウキウキ気分でドアを開ける。そんなルージュの背後で、老人はこっそり、靴下の中におもちゃを差し込んだ。
そして、そのドアは閉められた。やがて中からは暖かな気配が漂い始める。
今や世界中で行われる大きな催し「
そしてそれが存在する限り、ロースの引き起こした事件と、タクロの思いは決して消えない。
呪いで、願いで。そんな複雑な意味を抱えた伝記を、ルージュ・サロンタは必ず語り継ぐ。
なぜなら彼女にとってその伝記は、先祖の消えない罪であり、同時に消してはいけない思い出だからだ。
伝記 「聖夜を作り出した悲劇」
著 タクロ・サロンタ
聖夜を作り出した悲劇 時雨悟はち @satohati
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