配信切り忘れで漏らした失言で大炎上。引退を覚悟したが、マネージャーの提案は方向性チェンジ!??清純派への憧れを捨てられないメリイサキの悪戦苦闘。

@Asa6425

第1話 大炎上から始まる再起動。

素晴らしい"アイドル"とは何か。


それは、無論──キナコマイだ。


彼女は、一言でいうとあらゆる存在(宇宙人を含む)から結婚を懇願されるカリスマ的アイドル。

この結婚がリスクになるご時世において、凄まじい存在であった。


まさに、傾国の姫。


「それに加え彼女は、手芸が得意で家庭的。更に学力もあるという。

まさに、完璧な存在でして……」


それに対して私は───


と、ワンルームで現実逃避をしているのは、アイドル配信者のメリイサキ。


彼女は今絶賛、大炎上していたのである。


「どうして……切り忘れちゃうかな配信」


手にはエナドリ。配信は、今は確実に切ってる。が、もう遅い。


頭を抱えて「なんで私はあんなこと言ったんだろ」


私──メリイサキは、これまでキナコマイの真似事をしていた。


清楚でいて潔白で、清純派として売り込んでは、手芸や料理が出来ると言って。


結果、ファンは着いたけど。

私、キナコマイほどトークが上手じゃないからそこまで伸びず。


歳と鬱憤ばかりを重ねて行き。


結果───「お前らは良いよな。

アイドル見て応援するだけの立場で。目指す側からしちゃ、羨ましいよホント」


私も、そんな楽な立場でいれば良かったかな?って、それは私のプライドが許さないか。


なんて、ファンに対して嘲笑をかましてしまったのである。


「もう、拡散されまくってるよね」


引退、考えるかと。震えたため息を吐いていると、着信。


このゆるかわメロディは、マネージャー?

出てみると、険しい声が聞こえて来た。


「メリイサキさん、これは大変なことになりましたね」


「ごめんなさいっ!」


私は咄嗟に謝った。

目を瞑りながら。

通話を切る準備もしている。


人格攻撃されそうになった時、切って逃げる為。

マネージャーはそんな事しないと信じてるけど。念の為に。


マネージャーは、険しく続ける。

「まさか、配信を切り忘れてあんな事を言ってしまうなんて」


(私が悪かったから、攻撃的な事だけは言わないで)


通話終了のボタン。そのスレスレで震える指。グッと閉じた瞼のシワが増す。


「うかつでしたね」


(く……来る。いや、来たら切るんだ。切る。そして、逃げる)

恐怖のあまり、奥歯がギギギと音を立てる。


「よし……」


口角は左右に引き伸ばされ、そのまま引きちぎれそうだ。


「清純派アイドルは捨てて、この方向でやりましょう。今のあなたには、これが最善ですし」


(え……)


「そもそも、あなたには砕けた感じのキャラが向いてますからね」


「え!??」


「寧ろ、やっと出してくれたかって感じです」


マネージャーから出た言葉は、あまりに予想外だった。そして、別に大して険しくもなかった。


思わず、口をついて「あの、マネージャー? それは一体、どういう……」


「どういうって、言葉の通りだけど」


それで、と淡々と「次にあなたがする事は、『清純派を偽ってゴメンなさい』をした後に『これからは、この方向性キャラで頑張ります』」


そう、誠意を改める事ですね。


と、マネージャーは締めくくった。


「え、なにそれ?」

ますます意味が分からない。

あっさりし過ぎてるのもそうだけど、私に清純派アイドルを捨てろと?


「まあ、あなたはこれまで清純派アイドルのキナコマイを追ってきた。なので、きっと清純派を捨てる事に抵抗があるのでしょう」


(いや、なんで私の心見透かしてんの!?)と、思いつつ。


「それは、そうじゃん。だって、私から清純派を捨てたら何が残るの? キナコマイちゃん追っかけて挫折した中途半端のアイドルモドキ?」


堰を切ったように言葉が出る。

もはやそれは、私の核を晒しているに等しかった。

そんくらい声が上擦ってる。


「寧ろ捨てられない方が、中途半端なアイドルモドキですよ。

あなた、現状を理解してますか?」


肩がぴくりと跳ねる。


「登録者は82人。でもライブの視聴数は2。

配信切り忘れの失言で大バズりしたのが奇跡ってレベルのアイドル志望者」


更に。


「括弧、キナコマイ信者のワナビー。

それも、大して似てない。

なんならファンから烏滸がましいって思われるレベル。


そんなヤベー底辺なんですよあなたは」


と、追撃が来たところで、

私は通話を切った。


効きすぎて目がパキパキになるくらいだった。

(おえ、吐きそう)


ブロックしようとしたタイミングで、メッセージ。


「すみません。言い過ぎました」


再び通話に出る。


「つ、次……そんな感じの口撃、してきたらバックれますからね」


「分かりました。ただ、私は勿体ないって思ってるんです。あなたには、あなたの個性があるのに。

それを殺すやり方に固執してしまってるのが」


「私の個性……」

思ってもみないマネージャーの言葉につい言い淀む。


マネージャーは困ったように続ける。

「そうですよ。

本来、あなたは毒っ気と親しみやすさを併せ持つ、可愛いキャラクターなんです」


それなのに……。と、今度は沈むマネージャー。


「毒っ気と親しみ安さを、併せ持つ可愛いキャラクター……」

困惑のあまりつい、オウム返し。けれど続けて、

「でもそれ、言われた事ない」


「それはきっと、あなたと話すと、不思議とそれが当たり前に感じてしまうから」


言う必要を感じないんですよ。

少なくとも私は、そうでした。

と、しみじみと言うマネージャー。


「え、なにその在り来りなこじつけ感。流石の私も騙されないよそれには」


「そう、そのノリです!」


「え?」


「すみません。正直ちょっと盛りました」


「やっぱり」沈むメリイサキ。


けれど、とマネージャーは続ける。

「これは、キナコマイには出せなくて、あなたなら出せる。毒っ気のある可愛いノリなんですよ」


そして、それは多くの人に刺さる!と、今度は自信のある声のマネージャー。


あまりにふわふわした、意見に疑念が湧いてやまないメリイサキ。

「ほんとに、視聴者の皆。ほんとに、このマネージャーの言ってる事合ってるの?」


配信は切ってるが、ついそんな言葉が出てしまう。口角は不自然に歪んでいた。


マネージャーは呆れた感じで。

「何を言ってるんですか。

まあ、取り敢えず次へ行きましょう」


「ちょ、ちょっと待って!」

また声が上擦ってしまう。


「何ですか? この期に及んで、逃げ腰ですか? それともまだキナコマイへの未練があるんですか?」


「だ、だって。 キナコマイは私の目標で……出来ればコラボして友達にもなりたくて……」


でも、こんな炎上が服着て歩いてるような方向性。絶対NG認定される。

訥々とつとつと漏れる言葉。

それは、私の根底にある願望。

そう、私はキナコマイみたいになりたいのではなく。


憧れのキナコマイと友達になりたいんだった。


そこへ、マネージャーは冷たく。

「諦めてください。今、この瞬間あなたはキナコマイとは全く違う属性になったんです。

というか、そもそもあなたはキナコマイに近づける素質がなかっ……」


通話をまた切ってしまった。

分かってるよ。

5年やって伸びてない時点で。

私がキナコマイとは全然違うことなんて。


でも、もし多くの人に見られて。

それキッカケでキナコマイと絡めたら最高じゃん。


可能性は限りなく低そうだけど、もう引き返せない。怖いんだよ。


それに後悔したくない。

あと少し貫いとけばよかったって。


ふとスマホを見ると、メッセージが来ていた。


「すみません。つい熱くなってしまって。気を付けます」


再び通話に出た。


「言葉の針が鋭すぎるよ」


「そうですよね。以後はもっとまろやかにします」


「お願い」


「はい。でも、何度も言いますが。

メリイサキさんは、もっと砕けていいんです」

マネージャーは切実に続ける。


「確かに、キナコマイは魅力的です。美人でスタイル良くて、なんでも出来る上に清純派。

あらゆる記事で、『神様が丁寧に作り上げた最高傑作』と崇められる理由も分かります」


真似したくなる気持ちも分かります。でも、あなたは正直言って──とても、神様が丁寧に作った人間には見えない。


そこで、また通話を切ろうとするも、マネージャーが叫ぶ。


「切らないでください!最後まで聞いてください!」


思わず指が止まる。怯んでしまったのだ。


マネージャーは続ける。


「でも、だからこそ。アイドルをやりたいのなら、"キナコマイ"は諦めて。一旦、他人から言われたあなたの良さを伸ばすべきなんです!」


でないと、勿体なさすぎますよ。


「え……」あまりの迫力と、胸を刺すような言葉の数々に口が強張る。


「なので、取り敢えずこのままで生配信やってあなたの根っこを見せつけてやりましょ!


それで、キナコマイの才能に魅せられ潰れてる中途半端なあなたを脱しましょう!」


「あ、え?」

キナコマイの才能に魅せられて潰れてるあなた?

もしかして、マネージャーには私がそんな風に。


と、引っかかったけど。

何か、胸の底から湧き上がる不思議な感覚が気掛かりだった。


「はい。今配信つけて。やってやりましょう。メリイサキさん」


私はため息をつく。


「どのみち、それ以外アイドルの道は残されてないんでしょ。でも、やるからには伸ばす」


そしてあばよくば、キナコマイちゃんと友達になって……。


「もし出来なかったら」と、声を落とす私。

「分かってます。私が責任を持って

弁明とあなたの世話を頑張ります」


うん、と息を呑む。


そうして、メリイサキは

キナコマイの友達候補(仮)でもなければ、清純派ですらない。


独自の毒ありキャラとして。

再始動を果たした。


そしてそれが、功を成してファンに『今の方が好き』と言われるのはまた別の話。


更に何年後か先に、ふと過去を振り返り……。


『合わない役を自ら選んで演じてる、中途半端なイタい人だった』と、思えるのもまた。


───キナコマイに認知され、意外な反応をされるのもまた。


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