学内一の陽キャに恋をされてしまった

@komari8944

第1話

弓削ゆげ暦、現在高校二年生の16歳 性別は女 身長168cm体重57kg。頭脳明晰、才色兼備。普通ならクラスの中心となるような彼女だが高校入学から誰とも関わらず一人を貫いた。結果着いた呼び名は深窓の佳人。


その呼び名が着くことで学生からは敬遠され、ほとんど声をかけられることはなくなっていた。

自分にとって声をかけられないというのは都合が良かった。人と関わりたいなんて思ったこともなく、高校に言っているのも将来のための知識をつける必要があったから。


だから人と関わることなんて無駄なことはしたくない。

したくないのに今目の前にいるこの女は最近、何故か僕に声をかけるようになった。


「こよみちゃ〜ん、この後ひまー?」


この女の名前は雪芽ゆきめ みどり。誰にでも分け隔てなく優しくクラスの人気者、所謂陽キャというやつだ。人柄もよく落ち着きがあり、可愛い顔をした彼女の周りには人が集まり輪を形成する。

このクラスでは彼女が中心であると言ってもいい。そんな不満も何もないような女が何故か僕に声をかけてくる。

最初は無視をしておけばいつか諦めてくれるだろうと思っていたのだが、もう1週間も無視し続けているのに未だにめげずに声をかけてくる。

そんな鋼メンタルな彼女にこのまま無視しても意味がないことはこの一週間で理解できた。


だから少し趣向を変えようと思う。


「うるさい、邪魔だから話しかけないで。」


僕はそう一言冷たく言い放ち、呆然とした彼女を尻目に机から本を取り出し読み始める。

さすがに鋼のメンタルを持った彼女でもここまではっきり言えばもう話しかけないだろう。

その証拠に彼女は俯いたまま黙っている。

少し良心が傷むがしょうがない。


「こよみちゃん!初めて喋ってくれた!声かわいいね。」


前言撤回この女は鋼どころかダイヤモンド級のメンタルを持っているらしい。

明らかな拒絶に対する返答がこんなポジティブに帰ってきたことは今までない。

しかも何故かニヤニヤしている。

少し気持ち悪いな。


━━━━

そのまま無視をして本を読んでから1時間ほどがたった。

気づけば彼女と僕以外のクラスメイトは教室にはいない。

彼女もこの1時間喋らずずっとこちらを見ているだけだった。


そろそろ帰ろうと思い本を閉じ、帰りの準備をしようと立ち上がった時、唐突に彼女に手を掴まれた。

初めてのことに少し驚き、彼女の方を振り向くと何故か顔の赤い女がいた。


「こよみちゃん……大事な話があるの。少し聞いてくれない……。」


そう神妙な面持ちで言う彼女を見て、これが彼女が僕に話しかけていた理由だったのかと合点がいった。

今から聞く話に対して返答をすればまたひとりで静かな時間を過ごせるのだろう。


「……なに?」


僕が聞いてから少しの沈黙があった。

それほど言いずらいことなのだろうか。

もしかしてクラスの邪魔だから消えてくれとかだろうか。だとしたら申し訳ないが受けることはできない、できるだけ穏便に一人の時間を過ごしたいのだが。

とひとりで考えあぐねていると意を決したように彼女が声を張り上げた。


「こよみさん!私と付き合って欲しいの!」


彼女のお願いは案外大したことの無いものだった。たしかにクラスで誰とも話していないがどこかに付き合うだけでまた平穏に戻れるなら全然割り切れる願いだ。


「まぁ別にいいけど」


そう一言呟くと


「え?本当に!」


彼女は満面の笑みを向けてきた。僕にどこかに付き合ってもらうだけで何故ここまで笑顔になれるんだろう。

まぁ彼女は陽キャという別の生き物だから僕が理解できる日は来ないんだろうけど。


「それで、どこに付き合えばいいの?」


僕がそう彼女に問いかけると彼女は何故か絶望したような顔になり、うずくまってしまった。

何か気に障ることでも言ったのだろうか。

さすがにここでうずくまられると後味が悪い。

普通なら悪かったところを謝るんだろうが僕には何が悪かったのか理解ができていない。

だから正直に言うしかないだろう。


「僕…何か気に障るようなことを言ったのかもしれない…ごめん…できれば機嫌を直して欲しい……。」


何故僕が彼女にこんな下手に出てるのかは分からないがひとまずこれでいいだろう。


「……お願いひとつ絶対に聞いて欲しい……。」


そう彼女の唇から小さく言葉漏れ出た。

そんな簡単なことでいいなら了承しよう。

幸い彼女から僕に対する敵意は感じられなかったから。


「ん〜まぁそれぐらいならいいよ。」


そう返すと彼女はまた笑顔になり、その願いを口にしてきた。


「弓削 暦さん、私と恋人になって。」


僕は驚きのあまり、少しの間脳がショートしていた。

彼女が何を言っているのか脳が理解できていなかったからだ。

僕に恋人になって欲しいということは僕に好意があるということなのか。

話しかけてから1週間で?今日初めて会話をしたのに?よく分からない……。

分からないが僕には恋人は必要ない。

それは断言出来る。

だから…


「……むり。」


そう僕の気持ちを告げると彼女は小悪魔的な笑みを浮かべスマホを取りだし音声を流した。


『お願いひとつ絶対に聞いて欲しい……。

ん〜まぁそれぐらいならいいよ。』


流された音声を聞いて自分が嵌められたことに気がついた。

もう言質は取られてしまっていた。

もう逃げ道は塞がれている。

目の前には小悪魔のような笑みを浮かべた女がいる。


「お願い聞いてくれるんだよね?」


そう聞かれると僕にはもう答えはひとつしか用意されていないようなものだ。


「……うん。」


その僕の不服そうな声を聞き、彼女は満足したように言葉を繰り出す。


「じゃあこれから恋人としてよろしくね。」

と…。

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