引退したSランク冒険者の早過ぎるまったり喫茶店生活

水定ゆう

第1話 Sランク冒険者達の日常

 熱い……あまりにも熱い。

 全身から汗が噴き出ると、脱水症状で倒れそうだぜ。


 手にしている剣から、俺は手がすり抜けてしまうそう。

 大量の汗のせいで、せっかく手袋を付けているのに蒸れる。

 そのせいか全く意味が無く、ズルッと抜けた。


「どうします、ハレ」

「んなもん決まってんだろ」


 仲間の女性。守護騎士と呼ばれる、防御に適した騎士が一人。

 見方によっては、銀色にも思えてしまう、美しい髪色をした金髪の女性騎士。

 クラウディアが俺に訊ねて来た。


 けど答えなんて決まっている。

 ここが熱いのは目の前に居る魔物に適した環境だから。

 そのせいでダンジョンはマグマで埋め尽くされている。


「サラマンダー。追い詰めたのは変わりねぇんだよ!」


 目の前に居るのは、龍のような、それでいてヘビのようにしなやかな魔物。

 火属性の魔物の中ではかなり有名な方で、名前はサラマンダー。

 マグマの中に住むとされる巨大な怪物は、俺達の獲物として立ちはだかっていた。


「もう少しで魔王城なんだ。こんな所で負けてられるかよ!」


 俺達は冒険者だ。行くは魔王城を根城にしている、この大陸の魔王の討伐。

 八つの大陸の一つに君臨し、八大魔王の冠を欲しいままにしている。

 この大陸最大の脅威。ソイツに挑むために、俺は冒険者になった。世界の平和のため、そのためならサラマンダーくらい倒せなくて何になる。


「その意気はよし、だな」

「ザンダス!?」


 頼もしい仲間はまだ居る。そのうちの一人、屈強な肉体を武器にする武術家。

 全身の筋肉が今にも弾けてしまいそうで、着ているタンクトップはピチピチに悲鳴を上げている。

 ザンダス、俺と同じで前線を張る冒険者は、ハンバーグ大の拳を構える。


「だが油断はするな、ハレ」

「ああ、油断なんてしねぇぜ。スノーラ、援護してくれ、頼むっ!」


 頼りになる仲間がもう一人、

 唯一の後衛にして、僅か十二歳で卓越した魔法の使い手になった少女。

 クールに澄まし、寝ぼけた半月状の眼を上げる。スノーラは、手にしている飾りの杖を振るった。


「うん、分かった。我が唱えしは氷の源、吹雪ふぶけ絶望の音、響かせるは永劫の夢—エタニティ・ブリザード!」


 スノーラは何の前触れもなくとんでもない魔法を繰り出した。

 しかも詠唱をしているのに迫力は全く無い。

 そう、あの詠唱も全ては飾り。スノーラの天性の才能の前では、全ては振りでしかない。


 ゴォォォォォォォォォォォォォォォ……ギュン!


 マグマが一瞬にして凍ってしまった。

 聞いたこともない音が響き、頭の中にあったイメージを壊す。

 ヒュゥ~やグォ~を期待するのは間違いで、絶望とはすぐ近く、背中を撫で回していたらしい。


 カッチン!


 マグマが凍り付き、俺達まで凍えそうだった。

 でもその辺は配慮していたらしいな。

 流石はスノーラ、いつの間にか魔法を重ね掛けてしていたらしく、俺達の体はポカポカに温かい。まあ、今の俺は祝福のおかげで燃え上がるように内側から温もっているけどな。


「さ、寒いけど……寒く無いですね?」

「ああ、こんなに寒そうなのにな」


 世界は瞬く間に氷の世界だ。

 サラマンダーに適していたマグマ色の景色は無い。

 真っ赤が真っ青にたちまち変わってしまうと、自然と意識が寒くなって来た。


「んなもん関係無いってよ!」


 そうだ、今の俺や俺達には関係無い。

 何せスノーラの魔法のおかげで、内側からポカポカしている。

 寧ろ熱いくらいで、俺は全身から異様な汗が噴き出た。


「サラマンダーの体が凍り付いている、今がチャンスだ!」


 サラマンダーの体は凍ってしまっている。

 マグマのように高温の体が、凍ってしまうとは恐れ入った。

 マジでスノーラの氷属性魔法はヤバすぎて、サラマンダーの威勢が無くなる。


「サラァァァァァァァァァァァァァァァ!」


 マジで泣き喚いているようにしか聞こえない。

 サラマンダーの奴、風邪でも引いたんじゃないのか?

 それくらい寒そうで、鼻から凍った炎が、鼻水のように垂れている。


「寒そうですね、サラマンダーは」

「だろうな。これだけ環境が変わったんだ」


 環境の余りの変化にサラマンダーの体が付いて行けない。

 魔物とは言え、結局生物であることには変わりない。

 凍り付き、関節の動きが絶妙に悪くなると、サラマンダーは身動きが取れなくなる。


「一気に決めるぞ、クラウディア、ザンダス!」

「「はい」ああ」


 俺はクラウディア、ザンダス、二人に声を掛けた。

 三人の連携攻撃で、サラマンダーを一気に倒す。

 この状況ならば簡単に崩せる筈で、もはや敵でさえない。


「俺とクラウディアで前に出る。ザンダスは脇から入ってくれ」

「ふん、いいだろう」

「はい、分かっていますよ」


 俺達三人は同時攻撃に移った。

 まずザンダスは脇から入って貰う。

 俺とクラウディア、若干俺が後ろに回ると、サラマンダーは力を振り絞る。


「来るよ、サラマンダーの攻撃」


 スノーラは魔法を使わず温存。

 分析に徹すると、サラマンダーの動きを測る。

 顎を上げた。きっと何か仕掛け絵来るのか、喉の辺りが動いたぞ。


「サラファァァァァァァァァァァァァァァ!」


 サラマンダーは口から火を吐く。

 マグマの力を体の中で更に燃え上がらせて、高火力の炎を生み出す。

 それを口から咆哮と共に吐き出すが、何故か少し弱い。

 って、スノーラの魔法のおかげだよな。マジでナイスだぜ、スノーラ。


「私が受けますよ」


 割って入るクラウディア。

 左手に装備した盾を前に突き出す。

 炎を大きな盾を使って抑え込もうとすると、炎は盾に弾かれる。


ガツン!


 サラマンダーの吐き出した炎。

 それはクラウディアが構えた盾によって防がれる。

 全てを吸収してみせると、炎の勢いは弱まった。


「受け切りましたよ」

「ありがとな、クラウディア」


 俺はクラウディアの後ろに隠れた。

 そのおかげで、炎をまともに浴びない。

 ただでさえ威力はよくなっていたけれど、変に火傷は嫌だよな。


「今ですよ、ハレ」

「ああ、任せとけ」


 クラウディアの背中から俺は飛び出す。

 サラマンダーに奇襲を仕掛けると、視線をパッと奪う。

 奪われている時点で襲い。首を上げた瞬間、ザンダスの拳が空を裂く。


破雷弔パライソス流拳術—雷々百拳らいらいひゃっこ!」


 ザンダスの拳に雷が纏われる。

 そのままサラマンダーの顎に直撃。

 一度に百発のも拳を高速で叩き込むと、顎は粉々に砕ける。


「サラァァァァァァァァァァァァァァァッ!」


 喉奥で悲鳴を上げていた。

 けれどここまでは余興で、本番はこれから。

 俺は真上を取ると、両手で剣を構える。

 掲げた剣身は半分に割けると、俺の祝福を乗せて、極太ブレードに変わった。


「行くぜ、俺の愛剣、そらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 俺は剣を振り抜いた。極太ブレードがサラマンダーを飲み込んだ。

 サラマンダーの体を真っ二つにしてみせる。

 内側から弾けた炎が眩しくて、俺のことを焼き払おうとするが、そんなもの届かない。


 パサッ!


 上手くパーカーを払った。

 俺の着ている服に、火の粉が飛ぶ。

 でも残念で、パチンと弾いてみせると、俺は無傷で地面に着地した。


「よっと」


 カチャン! と音を立て、鞘に剣を納める。

 俺の、俺達の勝ちで終わったらしい。

 サラマンダーは真っ二つにされて息を吹き返すことは無く、体の内側で魔石が粉々になると、マグマがドロッと溶けだして、凍り付いた。


「ふぅ。しゃっ! 俺達の勝ちだな」

「はい、勝ちですね」

「そうだな。だが、ハレ、クラウディア、あまり喜び過ぎるな。謙虚に過ごせ」


 俺とクラウディアは大いに喜んだ。

 けれど格闘家であり、武人でもあるザンダスは、こんなことでは喜ばない。

 謙虚にって言われても、そんなの無理に決まってるだろ!?


「おいおい、謙虚に言ってよ。勝ったら嬉しいだろ?」

「お前はテンションが高過ぎるんだ」

「んだと!? その方が元気でいいだろうが!」


 テンションが高いの何が悪いんだよ?

 俺は無理してでもテンションを上げているんだ。

 暗いよりも明るい方が元気そうで、平和の使者っぽいだろ?

 って思ったが、そんなことには誰も興味が無さそう。


「ふぅ。倒せた……でも、魔石が」

「粉々ですね」


 スノーラは粉々になった魔石を見た。

 恨めしそう、と言うよりも悲しそうだ。

 やり過ぎた……んだよな。クラウディアもそんな顔するなって、俺だけが悪いみたいだろ!?


「ハレ、やり過ぎだ」

「ううっ……悪かったよ。でも倒せたんだからいいだろ!? 結果オーライってことでな」


 ザンダスに怒られる俺。結局倒せたのに怒られるのかよ。

 結果オーライってことでよくね? これでまた平和になったんだ。

 やり切ったって気持ちで、爽快な心を湧き上がらせる。


「なっ!」

「「「まあ、そうですね」だな」うん」

「いや、結果オーライだろ!?」


 倒せたんだ。結果オーライだろ?

 まあ、魔石があれば換金出来たんだけどさ。

 やっちまったのか、俺は? なんか申し訳ない気持ちになると、素直には喜べなかった。

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