第6話 元アイドル、ようやく推しと認められる

 伯水はくすいに私からプロポーズして結婚を決めたのが昨年十一月のことです。プロポーズ直後にそのまま繋がりました。

 十二月にはお互いの家族に結婚相手として紹介しました。どちらの家族も突然のことに驚いていました。この未婚が普通のご時世ですから生涯独身だと思われていたようで、どちらの親も凄く喜んでいました。

 結婚は懲婚が施行されるよりも前にするということは決めていたので二月か三月頃と考えていました。ところが一月に私の妊娠が発覚したので色々と手続きがあるだろうと取り敢えず入籍だけを済ませたのです。


 伯水は妊娠した私を気遣って毎日のように会社帰りに私のマンションに寄ってくれるようになりました。大体はそのままお泊りして朝、私のマンションから会社に出勤してます。

 籍も入り、毎日のようにお泊りしているんですから、もう一緒に暮らそうよと私のマンションに伯水を呼び寄せました。ここが私たちが新婚生活を送る新居となったのです。


 一緒に暮らし始めると見えてくる新たな一面もありました。例えば髪の色が変わるだけで伯水はアイドルが分からなくなるのです。

 ある有名アイドルがドラマに出演するために髪の色を金から黒にしただけでその有名アイドルを新人アイドルだと思っていたことがありました。

 私がショートのウイグでも付けたら別人認定されてしまうのではないでしょうか。半世紀前のAIだってこのくらいは判別できたでしょう。

 まぁ、ともかく私たちは新婚生活をスタートさせたのです。


 引退した身ですから結婚したとしても何か発表する必要もありませんし現役時代のように記者やカメラマンが密かに張り込んでいて突然に報道されることもありません。

 個人的にアイドル時代に仲が良かった美樹乃とルイにだけは報告しておきたいと考えて連絡したらすぐに電話がかかってきました。美樹乃とルイは私の結婚を祝して食事会を開催してくれました。


 その食事会の数日後、伯水が落ち込んで帰ってきました。ショックを受けているようです。

「どうしたの?」

英空保えくぼちゃんが。英空保が……」

「英空保がどうしたの?」

「……結婚してた……」

 伯水が見せてくれたのは美樹乃のソーシャルネットの投稿。そこには美樹乃とルイと一緒に指輪をした左手を見せながら微笑んでいる英空保が写っています。

── 英空保から結婚したと連絡がありルイと祝福の食事会。たくさん惚気られたけど旦那さん最高に愉快な人

 そんなに惚気てなんかいませんよ。


 私、画面の中と実物とでそんなに違いはないと思っています。引退して一年になろうとしてますが劣化したとも思っていません。先日、美樹乃たちと食事会をした『しず香』のマスターからも『前よりもキレイになった』と言われましたし。

 ええ、それがお世辞だということはキチンと理解していますよ。


「伯水、左手を出して」

 何? という感じで半分涙目になってる伯水が左手を出します。

「その美樹乃の写真に写ってる英空保の指輪と自分の指輪を比べてみて」

 私たちの結婚指輪は夫婦で同じデザインです。と言うことは。

「あっ」

 そうでしょ、そうでしょ。

「同じだ」

 私も左手を伯水の左手に重ねます。その薬指には伯水と同じ指輪が嵌っています。もちろん写真に写ってる英空保がしてる指輪です。

美唯耶みいやって、似ているんじゃなくて英空保えくぼちゃん本人だったの?」

「だから最初からそう言ってるでしょ! 木田英空保は一ヶ月前に結婚しました。相手は西峰伯水。あなたとです!」

「俺、英空保ちゃんと結婚してたんだ」

「もう、今さらでしょ」

 結婚もしたし子供だってお腹ここにいます。

 英空保だと気付かれなかったからこそ私たちは今一緒にいます。


<了>

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

元アイドル、意外と気付かれない事実を突きつけられる 相内麗 @yukiy777

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画