俺を捨てる幼馴染と拾う幼馴染

リラックス夢土

第1話



 俺には秘密の彼女がいる。

 なぜ彼女のことを秘密にしているかというと彼女は俺の恋人だがイトコでもあるからだ。


 イトコなら結婚できるがそれでも世間の目はイトコ同士で付き合うことに冷たい目を向ける。

 血が濃すぎると産まれてくる子供に悪影響だとか近親愛自体に嫌悪感を示す奴らもいるのだ。


 だが俺はそんなことを気にしなかった。

 彼女とは幼馴染でもあるし昔から好意を持っていたから三年前に告白してOKしてもらえた時は最高に嬉しくてその日は祝い酒を飲み過ぎてしまったくらいだ。


 そして今日、彼女に俺は呼び出された。



「あのさ、健介けんすけ。私と別れてちょうだい」


「は? な、なんでだよっ!?」



 別れる理由なんか俺には考えつかない。



「実はさ、私、結婚することにしたんだ」


「へ? け、結婚って、だ、誰と……? まさか俺か……?」



 俺は彼女に結婚を申し込んだ記憶はない。



「健介って、昔から頭悪いわよね。本気でイトコ同士で結婚できるとか思ってたわけ? 健介のことは私の中ではただのイトコでしかないの」


「そ、そんな、俺が告白したら付き合うのOKしてくれたのは香織かおりだろ?」


「あ~、あの時はさ、私も25歳でまだ処女だったからヤバいなあと思って健介なら知らない男じゃないし身元分かってるからって初体験の相手にちょうどいいって思っただけなんだよね」


「はあ!? 俺を処女捨てるための道具扱いしたのかよ!」



 俺は一気に怒りのボルテージが上がる。



「別に健介だって私の処女もらって嬉しがってたじゃん。お互い様でしょ。それに私は妊娠してるの」


「に、妊娠っ!?」


「アハハッ! 心配しないで健介。あんたの子供じゃないからさ。それでこの子供の父親の彼と結婚することにしたの。ちなみにその彼は健介の同級生の和彦かずひこくんよ。というわけだから、バイバ~イ!!」



 彼女は笑いながら行ってしまう。

 三年目にして明かされた真実に俺は衝撃が強過ぎてしばらくその場を動けなかった。


 だが段々と我に返り俺は自分の彼女に利用されたあげく同級生に寝取られたという事実に猛烈に腹が立った。

 和彦という同級生と俺と彼女は何度か一緒に遊んだこともある。



「クソッ! 和彦の野郎も香織も許せねええぇーっ!!」



 俺はその場で大声で叫んだ。

 すると女の声が聞こえる。



「あの、大丈夫ですか? 良かったらこれ飲むと落ち着きますよ」


「ああ?」



 その女は俺と同じくらいの年齢でどこかで見たような顔をしていた。

 怒りに震える俺にその女はホットココアの缶を差し出している。


 そのココアを見て俺は遠い記憶を思い出した。



「もしかして心愛ここあちゃん……?」


「はい、昔、健介くんの隣りに住んでた心愛です。引っ越してから会えなくなっちゃったけどまたこの近所に引っ越して来たんですよ」



 俺の隣りに住んでいた心愛ちゃんは自分の名前と同じココアが大好きな女の子だった。

 香織とは親戚を通しての幼馴染だったが心愛ちゃんは家が隣り同士の幼馴染だ。



「ありがとう、心愛ちゃん。なんか恰好悪いとこ見せちまって……」


「いえ、さっきの女の人って健介くんのイトコの香織さんですよね。もしかして香織さんと健介くんは付き合っていたんですか?」


「あ、ああ、実はそうなんだ……」


「私で良かったら話を聞きますよ。健介くんの怒ってること全部話しちゃえば楽になると思うよ」



 優しく微笑む心愛ちゃんに促されて俺は近くのカフェに入り今までの香織とのことを全部心愛ちゃんに話した。

 心愛ちゃんは黙って俺の話を聞いた後にニコリと優しく笑みを浮かべる。



「世の中には因果応報って言葉があるんです。健介くんを利用した香織さんには必ず神様が天罰を与えますよ。だから健介くんはもうそのことは忘れた方がいいです」


「天罰か……神様が本当にいるなら香織と和彦に天罰を与えて欲しいよ……」


「健介くん。神様はいますよ。健介くんのことをずっと見守っている神様が」


「俺にとっては心愛ちゃんが女神様に思えるよ。だって心愛ちゃんに話を聞いてもらったら心が軽くなったし……」


「フフフ、嬉しいですけど女神って嫉妬深いから気をつけないといけないかもですよ」



 微笑む心愛ちゃんに癒された俺の心に新しい感情が生まれる。



 俺は心愛ちゃんと一緒にいたい。



 そう思った俺は玉砕覚悟で心愛ちゃんに告白した。



「あ、あの、心愛ちゃんと再会してすごく心が和んでこんな嬉しい気持ちになったの初めてなんだ。情けない俺だけど心愛ちゃんのこと好きになったみたい。俺と付き合ってくれないかな?」



 心愛ちゃんは驚いた表情をした後に笑顔で頷く。



「はい。私もずっと昔から健介くんのこと好きだったからいいですよ」


「ありがとう、心愛ちゃん。これからよろしく」


「こちらこそよろしくお願いします、健介くん。あ、ちょっとだけ電話して来ていいですか?」


「ああ、いいよ」



 心愛ちゃんはカフェの外に出て携帯電話でどこかに電話をしていたがすぐに戻って来た。

 その後は時間を忘れるぐらい心愛ちゃんと楽しくおしゃべりをして心愛ちゃんが「そろそろ帰る」というので俺はカフェの前で心愛ちゃんと別れた。



 ああ、今日は最悪な日だと思ったけど最高の日だったな。





 それから数日後、自宅にいると俺の携帯電話が鳴る。

 かけてきたのは俺の母親だ。



「もしもし、母さん?」


『ちょっと健介! 大変よ! イトコの香織ちゃんが刺されて亡くなったらしいわよ! しかもその香織ちゃんを刺したのは健介の同級生の和彦くんだったらしくて和彦くんが警察に逮捕されたんだって!』


「なんだって!? 香織が和彦に刺されて死んだだと!?」


『なんでそんな馬鹿なことを和彦くんもしたのかしらねえ。とりあえず今からお母さんは香織ちゃんの家に行って来るけど健介も行く?』


「……いや、俺はやることあるから行けないよ。葬式には出るからさ」



 母親との電話を切り俺は喜びに震える。



 香織が和彦に殺されるなんて、ざまあだな!

 なんで和彦が香織を殺したか知らねえがいい気味だぜ!

 これが神様の天罰ってやつか? アハハハッ!!






 心愛が自宅のリビングにいると心愛の父親が声をかけてくる。



「可愛い心愛。お前の想い人を苦しめた二人は始末したぞ。しかしあの和彦という男も馬鹿な男よ。闇バイトで稼げるように誘導したらわしらの言う通りに香織という女の家に強盗に入りおった。強盗に入った他のメンバーに和彦を脅させたら奴は香織の腹部を刺したらしい。お腹には自分の子供がいることを知らなかったようだな。和彦はそのままサツに逮捕させた。これで心愛も初恋の相手と気兼ねなく付き合えるな」


「ありがとう、お父様。後は私の養子縁組する話を早く進めてね。私の実家が極道だって健介くんに知られないうちに」


「ああ。お前の願いならなんでも叶えてやろう。それが母さんの遺言だからな」



 父親と別れた心愛は自分の部屋に入り健介の写真を見ながら微笑む。



「健介くん。あなたの女神はずっとずっと昔からあなたを見ていたのよ。誰にもあなたは渡さないわ。あなたは私だけのモノよ。愛してるわ、健介くん。これ以上浮気しちゃダメよ、フフフッ」



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