第5話 分かたれる道

失われた街を離れて間もなく、空気が張りつめた。


黒猫が足を止め、低く喉を鳴らす。

ミィも耳を伏せ、シャオはキースの影に隠れるように立った。


「……来るな」


次の瞬間、前方の岩陰から人影が現れた。

探索者ギルド――それも、武装した一団だ。


「ここで会うとはな、キース」


先頭に立つ女探索者が名を呼ぶ。

その声に、敵意はない。だが、迷いもなかった。


「失われた街の件、報告は受けている。

 君は“浄化せず、討伐もせず、放置した”」


「違う」

キースは静かに言った。

「終わらせただけだ」


女は一瞬、目を伏せ、それから首を振る。


「我々の判断は違う。

 亡霊は再発生の可能性がある。

 街は殲滅対象だ」


背後の探索者たちが、武器を構える。

ミィが一歩前に出かけ、キースはそっと手を伸ばした。


「やめろ。戦う話じゃない」


「なら、道を譲れ」


女の声は冷たい。

「ここから先は、ギルドが管理する」


キースは、猫たちを見下ろした。

ミィは不安そうに、黒猫は静かに、シャオは必死に見上げている。


【スキル〈まねきねこ〉が反応しています】

【進化段階:影響範囲・拡張可能】


――使えば、止められる。

この場を、力で収めることもできる。


だが。


キースは、首を振った。


「……俺は、管理されるために旅をしてるんじゃない」


剣を抜かないまま、一歩前に出る。


「ギルドの判断が正しい場所もある。

 でも、全部じゃない」


女は、しばらく黙っていた。

やがて、短く息を吐く。


「……なら、ここで別れだ」


彼女は部下たちに合図し、別の道へ進んだ。

振り返らない。


しばらく、誰も動かなかった。


風が吹き、砂が足元を流れる。


「……一人になったな」


キースの呟きに、ミィが鳴く。

黒猫が前に出て、道を示すように歩き始めた。

シャオも遅れながら続く。


「一人じゃないか」


キースは苦笑し、歩き出す。


分かたれた道。

正しさは一つじゃない。


だからこそ、探索者は選ぶ。


誰かの判断ではなく、

自分と、隣を歩く存在のために。


旅は続く。

より孤独に、だが――より自由に。

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