3
控えめな態度である雪乃のクラスの交友関係は、限定的なものに落ち着いた。
その中に直が含まれるのは、静かな性質が似ていたからだろう。
2人きりになっても、お互いに沈黙を苦にしていないのが感じ取れる。
担任から頼まれた作業――ホッチキスで書類を留める音だけが教室の中に響く。パチン、パチンと。
雪乃がミスを恐れて慎重に手を動かしているのに対して、直はメトロノームのように小気味よいテンポでこなしていく。これで完成度は2人とも変わらない出来だった。
全てを捌き切った直は、作業に集中している雪乃に視線を送った。
「……どうかしたの?」
瞳の奥に僅かに恐怖が滲む。
普段から、雪乃は他人からの注目を怖がっている素振りがあった。
「手伝う」
直は雪乃の手元にあった書類を取った。
その行動には、雪乃は気まずそうに謝る。
「ごめんなさい、遅くて……」
「別にいい」
淡々とした返事であるが、そこに怒りや呆れが含まれていないことは雪乃にも通じた。
ポコンッ
雪乃のスマホが鳴った。驚いたように肩が跳ねる。
「ごめん、返事を急ぐから」と言い、藍色のカバーがついたそれを操作する。
直の作業を進める手も止まらない。
パチン
ポコンッ
パチン
ポコンッ
パチン
ポコンッ
連続して届く通知音に、直は眉をひそめた。
相手は雪乃からの返信を待ちきれないようだった。
メッセージを送信し終えたのか、カバーを閉じると音は途絶えた。
「うるさくて、ごめんなさい」
そう謝るが、視線はスマホに固定されていて、相手の反応を気にしているのは明らかだった。
直は冷めたような目でそれを見るが、雪乃は気付かない。
「終わった」
綺麗にまとめられた束を抱え、「帰るよ」と直は立ち上がる。それに習うように雪乃も動き出す。
教室に鍵をかけ、書類と共に職員室に運ばなければならない。
廊下は隙間風が吹いているのか、空気が漏れ出るような音と冷たい空気に満ちていた。
ポコンッ
また始まったその音に、慌てて雪乃はサイレントモードにしようとするが、焦るほど上手くいかない。
手から落ちたそれが、床を滑る。直の上履きの先に当たり、表示画面には“碧葉くん”の文字が見えた。
ポコンッ
“返事をくれないなら、迎えに行く”
直は指でスマホを掴み上げると、目の前に差し出した。
表示内容に雪乃は静かに呼吸を乱した。
「……ごめん、迎えが来るみたいで。さ、先に帰ってもいい?」
「うん」
「本当にごめんなさい」
弾かれたように雪乃は走り出した。もう周りなど見えていないかのように急いでいる。
直の視線はそれを追わず、窓の外へと向けられる。
校門の外には、まだ誰もいなかった。
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