ウミチの魔女 ver1.0

エネ2

ver1.0/ep_00_序章


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  ワタシ ニハ

    アナタノ  千 カラ ガ

       ヒツヨウ   デス




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 ep_00 ≪序章≫ 生贄と最終兵器

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 まさか、人生初のトレジャーハントで、それも最初の初トラップで自分が死ぬとは。


 俺の名前は、九十木(くとおぎ)トウキ。

 地球から72227光年。

 遠路はるばるやってきた、この未知の惑星で、まさかの即死トラップ。

 ゲームで1ドット分だけ落ちて死ぬ主人公の気持ちが、今なら分かる。

 あれは1ドットに見えて、実はどうしようもないくらい絶望的な高低差なんですよ。

 そう今の俺みたいに。


 いや準備はしてきたよ? これでも。

 いわゆる”探検初心者”に優しい便利アイテム。

 例えば、危険を感知すると自動で回避するリュック。

 こいつは、床が抜け落ちて危険を感知した瞬間、”緊急回避します”と機械的なボイスを発しながら、ホバリングでどこかへ飛んでいった。

 俺を置き去りにして。


 純真無垢な垂直落下。

 真っ暗な穴の中を自由落下しながら、ヘッドライトの先に見えたのは、

 いかにも”即死ですよ”と言わんばかりに無数に並べられた、自分より大きな黒い牙達。

 考える間もなく正面から落ちた俺を、いただきますとばかりにお出迎えすると、俺の全身は串刺しになっていた。


 ――以上が、今から5秒ほど前の出来事である。


「そういえば、走馬灯も無かったような」


 痛みも無い。

 て事はあれ、俺、もしかして助かる?

 などと、のん気な事を考えていると――


『サンプル情報、確認。”脳記憶”及びゲノム解析、開始』


 突然、少女の声が頭に響く。


『――身体損傷箇所、多数。うーむ、”器”の方は即死だな。

 とりあえず心肺機能はこちらで何とかするか』


 大人びた口調で、恐ろしい言葉を淡々と呟く少女。

 が、やはり声だけで、周囲に誰かがいる気配は無い。

 ――というか、心臓止まってるの俺!?


『――ほう、こやつ”異国”の者か? 変わった言語体系を持っているな。

 ややこしいので、”こちら”に合わせておくか』


 おーい。


『修復プログラム起動』


 声を発したつもりだったが、音が出ない。

 どうやら喉が潰れているようだ。


『粒子結合開始』


 いででででデッ!!!!


 少女の声とともに、体を千切られる様な激痛が走った。

 胸、腹、両手足、身体の至るところに失神レベルの極痛が襲いかかる。


 これは何としてでも、止めさせなければ。

 なんせ、死ぬより痛い。

 声を出せないので、試しに念じて通話を試みる。

 が、通じない。

 いや、そりゃ期待はしてなかったよ?


『――あっ』


 アっ?

 やった!! 通じた!!?

 一筋の希望の光に安堵する。


『そうだ血液。確か人間というのは、血液がないとダメだったな。

 でも、人間の血は持っておらんな。代わりに”これ”をぶち込むか』


 ただの絶望だった。

 突如、肺に火が入った様に胸が熱くなったかと思うと、口から何かを吐き出していた。


『上手く”湖血”-ウミチが馴染むと良いが……』


 ゴッ――フッ。

 たぶん人体に最も必要で大切な赤い液体の代わりに、

 マグマを口から流し込まれている感覚。

 しかも口だけじゃなく、全身の穴という穴に流し込まれているような。


『ふむ。”贄”としてはランク圏外だが、久方ぶりの供物だし、贅沢は言えぬな』


 もうダメだ。

 思えば短い人生だった。

 伝説のトレジャーハンターになる男の、偉大なる船出。


『おっと、どうやら”血”を流し込み過ぎたようだ』


 からの、史上最速の冒険記エンド。


一先ずひとまずシステムチェックを開始するか』


 ――システムスキャン開始――


 ”未来撃狙”-オートエイム……error

 ”無限縛鎖”-マルチロック……error

 ”永劫追跡”-ホーミング……error

 ”咆光衝束”-レーザー……error


 急に理解不能な言葉が、超音速で聞こえてくる。

 少女の声なのか、機械が喋っているようにも思える。


 ――スキャン継続中……


 ”独立傀機”-ビット……error

 ”神喰斬戮”-ブレード……error

 ”崩界円舞”-サークル……error

 ”天地断裂”-ヴァーチカル……error


 ――”事象闘噐”-フェノメノン…………ok


 そういえば、20年ローンで買った宇宙探査艇。

 支払いどうしよう。


『エラー率92%。実装可能なのは、たった1つか。

 まあ平和な今じゃ、”最終兵器”な私の力は、”何の意味も無い”だろうがな』


 あと、入り口で置いてきたサポートメカ、ちゃんと帰れたかな。

 せっかくじいちゃんが作ってくれたのに、全然使いこなせなかったな……。

 今はどうでも良いことばかりが、頭に浮かぶ。


『そ※だ、痛み※魂が枯れ※しまってはいかん※で、痛覚は遮断※※おこう』


 少女の声が、朧げにしか聞こえない。

 気付くと痛みが無くなっていた。

 それと同時に、意識が遠のき出す。

 ――そうか、これでいよいよ”終わり”って事か。


『”楔属”-コネクト、完了――』


 19で念願の宇宙開拓人の資格を取ってから、さらに1年の準備期間。

 ようやくはじめての宇宙探査に出た所で、いきなりブラックホールで遭難。


 今思えば、そのワープ先の未知なる惑星から出ていた謎の救難信号をキャッチしたのが、運のツキだった。


 信号元は、おそらくこの”謎の塔”。

 だがここに入った瞬間、その救難信号は消えて――”救助完了。無事に成功しました。”って、腕時計型端末にいきなり表示されるんだぜ?

 これは明らかに、俺みたいな宇宙開拓人の初心者に向けた悪質な宇宙トラップ(イタズラ)だぜ、くそったれ。


「まじ、やってらんねぇ」


 こうして俺――九十木(クトオギ)トウキ”の、”人”としての生涯は幕を閉じた。


 伝説の宇宙トレジャーハンターになり、一攫千金で惑星開拓して俺の王国を作る。

 そして、星を救った無敵の英雄としてモテモテまくり、星を跨いで夜も眠れぬハーレム生活を送る。

 そんなささやかな俺の願い達は、全て夢の藻屑となった。


 未知なる冒険への、胸が高鳴る第一歩は、暗闇へと真っ逆さま。

 落ちた先で、古代最終兵器の”贄”となってしまった。

 しかし、これは新たな冒険の始まりに過ぎなかった。


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