どすこい黒鉄海!~鳥類転生托卵場所~転生したらカッコウに托卵されたので、横綱が全員投げ飛ばしたるわい!ガハハ!
水森つかさ
第1話 悪役横綱は光のはてに
「弱い!弱すぎる! こんなんで横綱に挑むんか!」横綱黒鉄海は組み合った相手に向けて叫んだ。
土俵上、黒鉄海は相手を睨みつけた。喉輪で相手を起こし、一気に突き放す。百五十キロの体が、まるでロケットのように前に進む。対戦相手は為す術もなく吹っ飛び、土俵下の砂かぶりまで転がった。
『黒鉄海の勝ちです!強い!これで37連勝!横綱黒鉄海を止めることができる力士は存在するのか!?』テレビ中継のアナウンサーは叫んだ。
行司の軍配が上がる。だが黒鉄海は勝ち名乗りを受けながらも、倒れた相手を見下ろして言い放った。
「もっと稽古せえ。こんな生ぬるい相撲取っとったら、土俵が泣くわ」
観客席からブーイングが起こる。
『黒鉄海関、また過激な発言ですね……』
『まあ、あれが彼のスタイルですから』解説者は苦笑いだ。
百八十センチ、百五十キロ。力士としては決して大型ではない。だが、その馬力は桁外れだった。突進力、押し込む力、相手を吹き飛ばす瞬発力。全てが常軌を逸している。
そして何より、その口の悪さで有名だった。
マスコミは「現代の悪役横綱」と書き立てた。ファンは二極化した。熱狂的な支持者と、激しい批判者。
そんな周囲の騒ぎを、黒鉄海は意に介さなかった。
「ワシは正直に言うとるだけや。弱い奴は弱い。強い奴は強い。それだけのことやないか
ワシかてワシより強いヤツがいれば負ける。……まあ、そんなヤツはおらんがな!ガハハ!」
取組後の囲み取材で、黒鉄海は不敵に笑った。
「ですが、横綱。明日の取組相手は出可杉関です。250キロを超える巨漢。大関昇進後の今場所、負け無しの絶好調です」記者は言った。
だが黒鉄海は不敵に笑った。
「でかいだけのヤツなんか、ワシのぶちかまし一発で終わりや。
ワシのぶちかましを受け止められる奴なんか、今の相撲界にはおらんわい!ガハハ……」
「なんと傲慢な……」
「しかし、横綱は頭2つ、いや3つ抜けている。敵がいないのは本当のことだからな……」
記者たちからは、好意的な声と否定的な声がまじったざわめきがおこる。
どの記者にも共通していたのは、センセーショナルな記事ができるとばかりに、黒鉄海の発言をメモしていたことだ。
その様子を見た黒鉄海は、ファンサービスができたとばかりに、気分良さげに立ち去っていく。
深夜2時。誰もいない稽古場に、肉のぶつかる音が響いていた。
暗闇の中でぬうっと動く影。黒鉄海である。
黒鉄海はすり足で前に出る。仮想の相手に向かってを突っ張りを繰り返す。
「出可杉には悪いが、もっと強いヤツと立ち会わなあ……ワシはもっと強くなれるはずや!
お前もそう思うやろ?」
黒鉄海は稽古場の窓縁に置かれている力士の人形に話しかけた。
親方が現役時代に土産物屋で買ってきたという古い人形だ。黒鉄海が入門する前から同じ場所にある。
その瞬間、人形の目が光った。
視界が揺れた。
「あ……?」
足元がふらつく。立ち眩み?いや、違う。これは?
意識が遠のく。
黒鉄海の巨体が、土俵の上に崩れ落ち……なかった!
「横綱が人形相手ごときで遅れをとるかい!横綱は膝をつかんのんじゃい!このダボ!」
人形は困惑した様子であったが、それはそれとして黒鉄海の身体が光に包まれていく。
翌日のスポーツ新聞の一面には、黒鉄海が囲み取材で答えた内容が使われることはなかった。
かわりに次のような記事が掲載された。
【黒鉄海、行方不明!?】
深夜稽古へ向かったまま忽然と消える。
横綱・黒鉄海(31)が昨夜、稽古場で忽然と姿を消した。同部屋の弟子たちは「深夜、稽古場に向かうのは見た。横綱の深夜稽古はいつものことだから気にしなかった」と証言。しかし朝になっても戻らず、稽古場を確認したところもぬけの殻。「稽古場から出るところは誰も見てない。まるで神隠しや」と部屋関係者。
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