季節の塔

夜丹 胡樽

冬の女王様

 この国には、季節の塔と呼ばれる不思議な塔があります。


 その塔には昔から、四人の『季節の女王様』と呼ばれる美しい女王様が順番に住み、近くにある村や国に季節を届けていました。

 人々は巡る季節に心を躍らせ、楽しい日々を過ごしていたのです。


 しかし、ある日を境に『冬の女王様』が塔から出てこなくなってしまいました。


 それでは大変です。国には冬しか来なくなり、このままでは人々が寒さで死んでしまいます。


 王様は若者たちを集め、こう言いました。


「季節の塔から出てこなくなってしまった『冬の女王様』を無事に連れ出した者には、沢山の褒美を用意しよう!」


 これは、春を訪れさせた一人の少年の話――。


◆□◆□◆


「やっぱり寒いなぁ……」


 少年は、ぱらぱらと降る雪を見上げて呟きました。空は雪雲に覆われ、昼だというのに薄暗く感じられます。


 暖かい格好をしてはいますが、それでも外はとても寒いのです。

 少年の服はところどころほつれ、何度も縫い直された跡がありました。


「でも、ご褒美のためだ。頑張ろう」


 ご褒美があれば、家族に楽をさせてあげられる。

 そう思うと、自然と足に力が入ります。


 目指すのは、王国から少し離れた場所にある『季節の塔』。

 そこにいる冬の女王様を連れ出し、次の『春の女王様』と交代してもらうためです。


「……僕なんかにできるかな」


 吐いた息が、真っ白に空へ溶けていきました。


 理由も分からないまま考えても仕方がありません。

 少年は「会ってから考えよう」と気持ちを切り替え、歩き続けました。


◆□◆□◆


「うわぁ、高い塔だなぁ……」


 空に届きそうな塔を見上げ、少年は口を開けてしまいます。


 塔の大きな扉の前には、多くの人が集まっていました。

 扉を叩き、女王様に呼びかけていますが、扉はびくともしません。


「女王様、開けてください!」「一緒に冬を終わらせましょう!」


 その様子を見て、少年は呟きました。


「これじゃ、女王様も出てこれないよね」


 少し考え、塔の裏へ回ります。


「裏口とか、ないかな……」


◆□◆□◆


 塔の裏側も雪に覆われ、足跡がいくつも残っていました。

 しかし、裏口は見当たりません。


 ふと見上げると、塔の高い位置に綺麗な装飾の窓があります。


「……あれなら」


 少年は目を輝かせました。


◆□◆□◆


 少年は塔の壁を登り、窓から中へ入りました。


「ふぅ……」


 円状の壁に沿った螺旋階段。

 中央は最上階まで続く吹き抜けになっています。


 冬の風が、獣の唸り声のような音を立てて吹き抜けていました。


「落ちたら、死んじゃうよね……」


 少年は震えながらも、上を目指して階段を登ります。


 やがて、少し広い踊り場に辿り着きました。


「うわぁ……」


 目の前には、星と月に照らされたステンドグラスが広がっています。

 その美しさに、疲れも忘れて見入ってしまいました。


「……さて、女王様を探そう」


 その時、背後から声がしました。


「あなたは……誰ですか?」


 振り返ると、真っ白な女性が立っていました。


◆□◆□◆


「私を、ここから連れ出したいのですね?」


「はい……」


 冬の女王様は、少し考える仕草を見せました。


「ですが、それは出来ません。私は冬が大好きなのです」


 雪の白さ、澄んだ空気。

 冬は、女王様にとって何より大切なものでした。


「でも……冬が終わらなければ、困る人がいます」


 少年は、そう伝えます。


「……お花、というものをご存じですか?」


 女王様は首を振りました。


 少年は、春に咲く花の話をしました。

 冬を越えた先にある、色とりどりの景色の話を。


「それでは、冬は嫌われているのですね」


「違います!」


 少年は思わず声を上げました。


「冬があるから、春が嬉しいんです」


 女王様は、少年をじっと見つめます。


「……貴方は、冬が嫌いですか?」


 少年は一瞬迷い、正直に答えました。


「苦手です。でも――」


 顔を上げ、女王様を見つめます。


「女王様と会って、冬の良さを知ろうと思いました」


「……」


「だから、女王様にも他の季節の楽しみを見つけてほしいんです」


 女王様の瞳が、揺れました。


「……時間が掛かるかもしれませんよ?」


「それなら、僕がお手伝いします」


 女王様は、ふっと微笑みました。


◆□◆□◆


 朝日が昇る頃、雪雲は消えていました。


 それはまるで、春の訪れを告げているかのようでしたとさ。


 めでたし、めでたし。

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季節の塔 夜丹 胡樽 @malboro777

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