選んでー父か私かー
マグロ
一人だけ戻せる
大通りを一人の少女が歩いていました。ふいに少女の身体が揺らぎました。前を歩いていた青年が受け止めてくれたので道路に倒れ込むことはありませんでしたが、明らかに様子がおかしいとすぐに救急車が呼ばれ、少女は病院に運びこまれました。
病院から少女の家族に連絡がいき、父親がやってきました。医者は困惑した表情で父親に説明しました。少女の身体から子宮と卵巣がなくなっていると。しかし、内臓破裂ではないというのです。外部から衝撃が加わった様子はないと。筋肉にも血管にも神経にも損傷はなく、ただ子宮と卵巣だけが魔法のようになくなっているのだと。
父親は元に戻すように医者に訴えました。医者は首を振りました。
こんなもの見たことがないと。
それから父親は娘を連れていろいろな医者を訪ねました。娘の身体を元に戻してほしいと。どの医者も首を振りました。
不可能ですと。
父親は闇医者を頼ることにしました。奇跡を起こす医者がいる。その噂だけを頼りに父親は娘を連れて闇医者の元を訪れました。
闇医者はまだ若い青年でした。娘は彼の顔を見て『あ』と声をあげました。その人は、倒れそうになった自分を支えて助けてくれたあのときの青年だったからです。
「また会うとは思わなかったなあ」
「どうした?どういうことだ?」
父親は様子のおかしい娘から話を聞いて、青年に詰め寄りました。
「おまえ、娘に何をした?」
「隠しても仕方ないかなあ。あなたの娘さんの身体から子宮と卵巣を消したのは俺ですよ」
「なんだと?どうやって?」
「俺は自分の手で触れた人間の身体から任意の臓器を消すことができる。」
「じゃあおまえは娘を助けたのではなく」
「身体を受け止めた瞬間に子宮と卵巣を消しただけですね」
「馬鹿な!そんなことできる人間なんているわけがない」
「信じたくなければ信じなくてもいいですけどね」
「なぜ娘にそんなことをした?」
「分からないんですか?」
青年の声が低くなりました。
「お嬢ちゃん、学校でいじめをしていたでしょう。そして相手の女の子に大怪我をさせたよね。その子はそのせいで子宮と卵巣を失ったんだよ?」
「じゃああなたは」
「頼まれて復讐をした」
「私の身体を元に戻しなさい!」
「できないよそれは。俺は消すことはできても戻すことはできない。」
「ふざけるな!娘の身体を元に戻せ!」
父親は青年の胸ぐらを掴んで怒鳴りつけました。
「俺の能力が何か説明したのに近づいてきてくれるとは」
青年の手が父親の胸に触れました。その瞬間、父親の身体は崩れ落ちました。
「お父さん!」
娘は倒れた父親に駆け寄りました。父親は息をしていませんでした。
「心臓を消し飛ばしたから」
「あなた」
「お嬢ちゃん。いいこと教えてあげる」
「いいこと?」
「あのね、俺は本当は消した臓器を戻すこともできるの。だから闇でも医者ができるんだよ。問題のある臓器を消して健康な臓器を戻す」
「じゃあ」
「どちらか片方だけ助けてあげるよ」
「片方だけ?」
「そう。君とお父さん。君の子宮と卵巣を元に戻すかお父さんの心臓を元に戻すか。どちらか片方だけ」
「私は」
「あまり時間はないよ。心臓だけは10分以内に戻さないと生き返らせられないから。さあ」
青年は言った。
「選んで」
選んでー父か私かー マグロ @yasunami1984
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