エピローグ

 拝啓、親愛なる姉さんへ 

 突然の手紙申し訳ありません。私は今、冒険者として生計を立てています。尊敬できる人から依頼を受けて、一か月程そちらの仕事に携わる事になります。この依頼が終わった時、一度家に顔を見せに行きます。話したい事、聞きたい事がたくさんあります。お会いできる日を楽しみにしています。

 短い手紙を郵便局に預け、街外れのあの場所へと向かう。相変わらず植物の根に覆われた屋敷の目の前で、此方に手を振るメイオとノボアの姿があった。あの依頼では化石を持ち帰る事はできず、私は依頼失敗として報酬を辞退しようとした。けれど、それを引き留めたのは、他ならぬパデルだった。彼曰く――

「今回の働きに不満があるなら、もう一回俺達の仕事を手伝ってくれりゃいいさ。」

 そして私は今、再び魔導六輪に揺られている。

「今度の現場は昔干上がった湖だ!こういった場所には往々にして化石が流れ着いているもんだ。あぁ楽しみだ!!」

 パデルはすっかり興奮している。呆れた様子で隣のメイオの様子を伺うと、彼は手にした琥珀の欠片を見つめていた。

「結局、あの依頼で手に入ったのはそれだけね。せめて中に何か入っていれば良かったのに。」

「……いいえ、ちゃんとこの中に入っていますよ。」

 自分の顔に疑問符が浮かぶのが分かる。彼が琥珀を手渡してくれるけど、どれほど観察しても、その中には琥珀本来の輝き以外を見つける事はできない。

「何も見つからないわよ?」

 そう言って彼に琥珀を返すと、彼はただ私の目を見て微笑むだけ。何なのよもう……

「必ず、必ず掘り起こしましょうね。」

 唐突に彼がそんな事を呟く。それは、あの洞窟で彼と交わした約束。

「勿論、絶対にね。」

 いつか必ずあの場所で、土の下に埋まり、琥珀の中に眠る化石を掘り起こす。それが、私達二人の夢。

「盛り上がるのはいいが、まずはこれからの作業に集中してくれよ?」

 パデルが笑い、私達もそれに応じる。屋根の上ではノボアが呼応するように角をぶつける音が響く。窓の外を見れば、太陽が高く昇り、私達の行く先を眩く照らし出していた。

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過去は砕けぬ石の中 ゴモクゴゼン @5mo95ZEN

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