少女は天に牙を剝く

「つまり、俺とノボアの仕事は奴を引き付ける事か……乗った!最高の仕上がりを期待するぜ!!」

 木々の影でパデルに作戦を伝える。一か八かの作戦だけど、彼らに悩む素振りは無い。それは私も同じだった。あの青竜に一泡吹かせる事ができるかもしれない…だったらやるしかない!

「それじゃぁ太古の復活を夢見て……作戦開始だ!」

 パデルの号令でノボアとパデル、私とメイオの二組に分かれて走り出す。上空の青竜が此方に気付くが、すぐに視線はもう一組に向けられる。私達なんて敵じゃない、そう思っているに違い無い。

「後悔させてやりましょう。」

「言うわね。勿論そのつもりよ!」

 密林を走り抜けた先、開けた場所に出る。剥きだしになった土肌からは、倒れた木々が時折顔を覗かせる。周囲には遮蔽物も無く、電光のブレスを防げそうには無い。けれど、こここそが私達の目的地……最初の発掘予定場所で、そして合流地点。青竜が此方を狙ったら?もし私の実力が足りなかったら?そもそも、逆転の鍵なんてものは始めから無いかもしれない。けど、そんなのはやってから考えれば良い!

 地面に両手をつき、地中へと自らの魔力を流し込んでいく。青竜がパデル達を追うのが見える。電光のブレスが放たれる度に木々が薙ぎ倒されていく。彼らなら大丈夫、私は私にできる事をすればいい。目を閉じ、より意識を研ぎ澄ませていく。

「……あった。」

 間違いない、あの洞窟で感じたそれよりもさらに大きく強い魔力の発生源、私達の逆転の鍵。

「出し惜しみは無し!全力で行くわよ!!」

 残っていた核石を大地にぶちまける。持てる魔力を振り絞り、魔力の発生源を囲い込むように核石を潜り込ませ、それを土と岩で覆っていく。魔力の奔流に感づいたか、青竜の敵意が此方に向くのが目を瞑っていても分かる。けれど怖くなんて無い。

「目を瞑って!!」

 メイオの合図と共に閃光弾の光が瞼の裏で瞬く。青竜のブレスが前方に逸れ、衝撃と砂埃が上がる。メイオの作戦が全て計画通りに行った……なら!

「……仕上げね。さぁ大地よ!今こそその身を起こし、天に牙を突き立てろ!!」

 メイオの作戦、それは大地に眠っているであろう化石を核としたゴーレムを作り出す事。即席のゴーレムではあの青竜に太刀打ちできる程の出力は無い。ノボアの怪力なら傷を負わせられるけれど、飛び回る青竜を捉えるのは難しい。ならば――

 青竜が翼を翻し此方に迫る。それに対峙するように怪物がその身を起こす。大地を踏みしめる二本の脚、太い尾に巨大な咢。太古の暴君、その似姿が今、声なき咆哮を轟かせる!既に滅んだ筈の天敵に青竜が怯む、そこに浮かぶのは――恐怖。

「いっけぇぇぇ!!!」

 その隙を逃さず、牙を突き立てる!!魔力を総動員しても、青竜の鱗を貫くのが精々……その体を砕くには至らない。青竜の目には再び敵意が宿り、出鱈目にブレスを放つ。その内の一つが私目掛けて飛来したその時、私の前に一つの影が踊り出た。

「させるかよ!」

パデルだ!ブレスを両腕で受け、消し飛ばす。かつて鋼鱗の異名で呼ばれていたのは伊達では無い。けれど、決め手が無いのはこちらも同じだった。ついに電光のブレスが恐竜の首を穿ち、青竜の体が宙に放り出され再び自由に手に入れてしまう。

「いいえ。まだ終わってない!」

 挫けそうになる自分を奮い立て、恐竜を嗾ける。先ほどの攻撃で、青竜の飛行能力は大きく低下している。もう一度牙を突き立てれば勝負は決まる!けれど、死に物狂いの青竜を捉えるには至らない。攻撃を掻い潜られ、幾度もブレスを浴び、遂に頭部は完全に破壊され崩れ落ちる……結局私は何もできないの?

「ラニア!」

 声の方を振り向けば、恐竜の後方で手を振るメイオとノボアの姿。尻尾を指差しているけど……

「噓でしょ?本気!?」

「勿論!」

 遠くからでもはっきり分かる、彼の目に迷いは無い。ノボアは彼を信頼しているのかストレッチ?なんてしている。あぁもう、本当に無茶をするんだから!

「後悔させないでよね!」

 遠慮も、手加減も無く、全力で尻尾を振りかぶる。青竜の視線が其方を向くのを逃さず、一気にノボア目掛けて振り下ろす!青竜が此方の狙いに気付いた時にはもう遅い。美しい弧を描いた尾は、青竜目掛けてノボアの巨体を打ち上げる!捨て身の弾丸は空を、電光を裂き、ついにその三本角が青竜を貫いた!

 竜の断末魔と私達の喝采が響き渡る。もはや竜の目からは光が失われ、角が刺さったままのノボアと共に地面へと落下していく。慌てて落下地点に恐竜を嗾ける。けれど思ったよりも勢いが強く、頭を失った恐竜は、その身すらも砕かれてしまう。結果、ノボアと青竜は地面に激突し、砂埃が高く舞う。

「「ノボア―!!」」

 メイオと共に慌てて駆け寄るが、当のノボアと来たら落下の衝撃で角が抜けたようで、ご機嫌な様子だ。まったくもう。そしてそのすぐ背後には、青竜の死骸が横たわっている。

「本当に、私達が倒したの?」

 未だ実感が湧かない。本当に竜を?私達が……?!

「そうです。ラニアがやったんですよ!!」

 トドメを刺したのはノボアだし、作戦を建てたのはメイオだ。それにパデルがいなければ私は今頃やられていた。分かっている、けれど、それでも竜を倒したのだという実感が溢れてくる。だが、その幸せは長く続かなかった。突如として地面が揺れる。

「な、何!?まさか新手!!?」

「いや、これは……土砂崩れだな!」

 元々土砂崩れがあった事、先ほどの青竜の出鱈目なブレス、そして最後の落下。それらが引き金になって、再びこの地で土砂崩れが起きたのだ!

「よし、逃げるぞ!」

 言うが早いか、パデルは私とメイオを担ぎ上げ、ノボアの尻を蹴っ飛ばす。

「ま、待って!せめてあの恐竜の化石だけでも!」

 何とか恐竜の残骸を動かそうとするのに、魔力切れか、はたまた核石の接続が切れたか、もうピクリと動かない。発掘作業なのに、化石を一つも持ち帰れないなんて!私の叫びも空しく、崩れ落ちた恐竜の残骸は土砂崩れの中に飲み込まれていった。

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